蛙の仲間は蛙
多分前編
次に新五階層にやってきたドーラたちは階段を降りてすぐの位置に待機していた相手の軍と当たるのであった。相手は鬼人族と妖精族と剣士モンスターの混合部隊で総数は100体もいない。
(やはり数は少ないな)
ドーラはそれを確認すると瞬時に竜人の一部と残りのオークでこの部隊の相手をさせ、残りはさらに下層を目指すことにした。この時ドーラたちの本隊の兵数はおおよそ半分以下になっていた。
俺たちは平原の端に大きく穴をあけるようにある階段を見つけ下りようとしていたその時、
「ドーラ様!二名が右側から我らのもとに近づいてきています!」
「…二名?」
意外過ぎる数に一瞬戸惑いのあまり停止したが
「グオオォォ…」
巨牛が声を上げ倒れる音を聞き我に返る。そして、強者の気配を感じとる。
(…強いな)
今のところだと最初の弓兵モンスターを率いてたやつらに次いで強い。オークや先程の鬼人族たちの中にもそれなりに強そうなやつはいたが、そいつらとは別次元に強い。中ボスとボスぐらいの違いがあると言えば分かりやすいだろうか。
「ドーラ様。ここは私が出てもよろしいでしょうか」
ロロは言った。…そうだな。そやつらに中途半端な奴らを差し向けても即刻返り討ちにされて、自分たちを追ってくるのは目に見える。ならば最初から強いやつに任せるべきだ。もしかしたら相手の思惑通りかもしれないが、そもそもこれ以外の選択肢はこちらにはないだろう。
「分かった。テラとミオの三人で対処しろ。無理に殺す必要はない。足止めさえすればいい」
テラもミオもロロや自分よりかは少し劣るが立派な竜人の強化種である。三人ともオーク100体が襲い掛かってきても勝てるぐらいには強い。
「大丈夫ですよ。さっさと倒してすぐに合流しますよ」
そういってロロはテラとミオを連れて奇襲を仕掛けに来たモンスターの元に向かう。颯爽とかけていったロロたちを見送りながら休む暇もなく自軍の状況を整理する。
(残りの兵数はもとの半分もいないのか)
そしてこのまま六階層に向かうことになる。その時
(本当に大丈夫なのか)
ドーラに迷いが生じた。ダンジョンが何階層まであり、相手がどれほど待ち構えているかは分からない。はたしてこのまま奥深くまで潜ってもよいのだろうか。
(…引き返すなら)
おそらく今しかない。時期にダンジョンの外にいる相手軍が動き出すだろう。引き返すと必ずその軍とぶつかることになる。
(…よくよく考えれば)
自分たちは勝てると確信していたがその根拠はどこにある。偵察もきちんとしていない。ただの推測でしかない。
(なぜそれに気が付かなかった!?)
完全になめていた。見下していた。このダンジョンは決して格下なんかではないのにもかかわらず。今までのどの相手よりも厄介だとは気づいていたにもかかわらず。
ドーラは一度引き返そうと考えた。しかし、それは世間からすれば事実上の敗北となる。それにダンジョンはすぐに回復するが我々はそうはいかない。そのうち報復されるのが目に見える。
「ドーラ様?」
側近の一人が顔色が悪いと心配そうに言う。その一言で我に返る。
(バカ者!そのような迷いはあってはならんだろうが!)
大将の士気は軍の士気だ。何を迷っているのだ。
今ある手の中で最も勝てる確率の高い手を考えるのが自分の役目だろうが!
ならば何をすればいい。どうすればいい。そんなの決まっている。
「先程の階と比べ兵の数が減っていた。おそらくこの先はもっと少ないだろう」
仲間を鼓舞し、胸を張り
「進軍を続けよ!もうじきラスボスが見えるはずだ!」
自身を信じるのだ。
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カムイとツチグモは三人の竜人と対峙していた。竜人たちは皆強化種であり、その強さは階層ボスに匹敵しうるものであった。
「…二対三って卑怯すぎねえか」
カムイは剣を構えながらあいかわらず思ったことを口にしていた
「卑怯? むしろあなたがたの実力を認めているからこうするのですよ」
ロロはそれだけ言って同じく鋭い刃の付いた槍を構える。それに合わせて両隣に位置する仲間も槍を構えた。するとカムイは満足げに頷き、
「俺もあんたらの立場ならそうする」
(だからなんだ)
ロロは次に何か話すようであれば、先制攻撃を仕掛けると決意する。相手が何を考えているか分からないからである。相手の思い通りにさせてはならない。ロロは何度も戦い続け、生き残ってきた。そこら辺のことは正しく理解していた。
「…だが、不思議だよな。俺でもあんたでも考えられることなのにどうも気づかないんだよな」
ロロはすぐさま距離を詰め槍で突く。しかし、少年はぎりぎりのところで回避をしながら、のんきに話をつづけた。
「どうも生物は楽観的に考えてしまうんだよな。不思議だよな」
(何が言いたい)
「簡単なのに、案外誰も気づかないよな」
少年が言い終わると同時に後方で何かが吹き飛ばされる音がした。見ると、テラが新たに現れた炎の精霊に吹き飛ばされたようだ。すぐさまミオが援護に回ろうとするが、鬼人の少年に防がれ、一対一が三つ出来る形となった。私が再び少年の方を見るとにかっと笑い
「当然対策するよな」
と言った。
私はテラを助けに行こうとしたが鬼人族の少年によって阻止されてしまった。
「あんたの相手は俺だな。俺はツチグモ。鬼人族の長だ」
ツチグモと言う名の少年は刀を腰に携えていた。少年はこちらの方を向いていないが、隙が全く見当たらない。…こいつは強敵だ。
「私はミオだ。竜人族の強化種であり、強さは六番目である」
竜人の強化種は全員で九人であり、ドーラを一番目とし、強さ順に番号が振られている。自分は七番でテラは五番。ロロはドーラに次ぐ二番である。本来であれば鬼人ごときが竜人の強化種にかなうはずはないのだが、目の前の鬼人は異質であった。自分たちと対等に渡り合える実力を持っている。
私が静かに槍を取り、構えると相手も戦闘態勢をとるのだが…
(居合?)
ツチグモは鞘から剣は抜かずに踏ん張るように構える。…こいつは馬鹿なのだろうか。こちらのほうがどう考えてもリーチが長い。刀と槍だぞ。
私は少し戸惑うが、ツチグモはそよ風で白と黒の髪が少し動くだけで微動だにしない。…もしかしたら、いや、絶対に何かがあるのだろう。
だが、何があろうとも相手の間合いに入らなければよいだけのこと!
私は相手との距離を注意しつつ、接近して槍で突こうとする。ツチグモは構えたままピクリとも動かない。だが、距離が六メートル程度になったとき、ツチグモはばね仕掛けのように突然動いた。
(早すぎないか?)
どう考えても今から刀を抜くには早すぎる。…まあいい。そのまま空振り、隙だらけになったところを突けばいいとミオは思った。
だが、ツチグモの剣は伸びたのである。
(まずい!?)
ミオは伸びてきた剣を防いだのだが、剣は「カン」と音を鳴らすだけで重さはない…いや、これは
(鞘!?)
まさか、あいつ剣を抜くふりをして鞘を飛ばしたのか!?
「隙だらけ」
(しまっ…)
いつのまにか距離を詰められ、ツチグモの間合いになってしまっていた。
慌てて防ごうとするも時すでに遅し。ツチグモの刀は竜人の鎧を貫き、その身を切り裂くのであった。
ツチグモは飛ばした鞘を拾い、刀についた血を軽く落としてそのままカムイの援護に行こうとしたが
「ま…て」
先程の竜人が呼び止める。
(…まだ生きていたのか)
彼は倒れた竜人のもとに行き、確実にとどめを刺そうとした。
「…きさまに…誇りはないのか」
ミオはにらみつけるように言った。それに対しツチグモは調子を一切変えず
「あるにはあるが、正直どうでもいい。誇りだの云々考えるのは最低限の前提として勝った後だ」
と言い、そしてとどめを刺す直前に
「誇りを気にして負けるのが一番ダサいからな」
と言った。
ミオは殺される直前の冷酷すぎるツチグモが二本の角を持ち、一切の感情も持たない悪魔のように感じるのであった。
初見殺しは常識だよね!