軍師ってのは卑怯で姑息なんだよ!
革命編最終話までの修正をいたしました。これでだいぶ読みやすくなったと思います。内容は変わっていません。尚、大改革編の修正はもう少し後にする予定です。
久々のまともな頭脳戦?です
まず、両軍は一階で衝突した。
私は遠くを凝視しながら相手がこちらの射程範囲に入ってくるのを待つ。
「なぜ、大将が最前線にいるのですか……」
隣で待機しているリョウは呆れながらに言う。私はそんなリョウに
「今は目の前の敵に集中!」
と露骨に話をそらし、それ以上何も言わせないようにした。
私が死んだら強制敗北となるのでリイアは後方で待機しとけとほぼ全員に言われた。確かにそうだけどさ、今回に関しては(関してもかもしれん)こちらの方が見かけの数字は不利なのだから何もしない兵を極限まで少なくするべきである。そうすることで兵数差をごまかすのである。私は後方支援系はほぼ何もできないからせめて遊兵として浮いた相手を倒しいていくことにした。
「一階にいる理由になってない?」一階にいるのは別の理由である。
私の隊の構成兵はリョウたちアーチャーモンスターとカリン、コリンたちである。そこで考えたわけさ
「射程範囲に入りました!」
「よっしゃ!それじゃあ先手必勝!全軍撃て!」
アーチャーモンスターたちが一斉に矢を放つ。矢の雨は敵軍のもとに次から次へと降り注ぐ。しばらくの間安全圏から攻撃していると、相手が私たちの方に突撃してくる。それを確認してから
「そのまま撤退!」
私はランドに乗り、アーチャーモンスターたちはカリンたちに銜えてもらい一斉に下の階層に向かう。これぞまさしく敵前逃亡だな。
卑怯者? 好きに言いな。変な誇りを気にして中途半端な策を講じるのは軍師のやることなんかじゃない。
というか、どうして他人の家に有無もゆわさずにかちこんでくるならず者に敬意と畏怖の念をもつだろうか。いや、もたない。
それに仲間は私の力を信じてその通りに行動するんだ。私の作戦一つで私らの生死が決まる。そんな状況で自身の誇りを優先するやつ仲間の命よりもプライドを優先するなんて馬鹿げてる。私一人が叩かれて、仲間を救えるのなら私は喜んでプライドを捨てる。
「今頃、あいつら切れてるだろうな」
カリンに背中を銜えられ、浮遊状態のリョウは笑いながら言う。私と共犯者になることをリョウたちもカリンたちもランドもみんな容認してくれた。
「それって俺らは仲間のためにプライドを捨てた英雄になれるじゃないですか!」
とリョウは言った。共に訓練したころから思っていたがリョウは気さくであった。弓を構え、撃つときの触れられないイメージとは正反対である。
「とりあえず二階層まで突っ走るよ。そこで二回目の攻撃を仕掛ける」
相手軍の追手はどんどん小さくなっていった。初戦はこちらの完全勝利であった。
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ドーラはすぐさま被害の確認を行う。
死んだ者は少ないが大けがを負い使い物にならなさそうなモンスターが数十体、軽症も数十体。ドーラはすぐさまモンスターに指示を出す。
「軽症者で問題なく戦闘ができるものは残り、無理なものは重傷者をダンジョン外部に運び治療しろ。死んだらダンジョンに吸収されるからな!」
瞬時に仕えないものを切り離し、進軍を続けることにした。だが、彼の中にはいくつもの疑問が生まれた。
(……モンスターが退いた?となるとおそらく……)
ダンジョンのモンスターは本来であれば侵入者を問答無用で襲い掛かる。そして、絶対に撤退なんてしない。……いや、そもそも待ち伏せなどしない。このことから間違いなく指示ができるボス級のモンスターがあの中にいたことになる。
そして次に相手のモンスターが強すぎる。竜人たちの情報によればこの階層にいるのはスライムとウサギとファイヤーバードのみである。もしかしたらその後、新たに現れるようになったのかもしれないが元のモンスターのことを踏まえると考えにくい。
(……となると、階層も当てにならないというわけか。なかなかに面倒な相手だな)
もしかしたら、この先に罠があるかもしれない。……と考えると
「ゴブリン隊を先頭にし、巨人族を最後尾に配置しろ!」
大した戦力にもならんゴブリンを先頭にして様子を見るとするか。倫理観?そんなものは軍師には不要である。少数が犠牲になったとしてもそれで多数が救われるのなら実行すべきである。
ゴブリンは知能が低いため自身が捨て駒に使われてるなど気づかない。知能が低いのもたまには役に立つのである。巨人族を後方にしたのは後方からの奇襲の警戒だ。あいつらは耐久力だけは素晴らしいからな。奇襲を受けても大して崩壊する前に体勢を立て直すことができるだろう。……まあ、ないとは思うが。
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次に大きな戦闘が起こったのは四階層であった。二階層でも先程と同じ弓兵たちが待ち伏せをしていたが今回はほとんどゴブリンに被弾したため、戦力的なダメージは少なかった。ドーラの大軍が雪原に差し掛かったころ、前方に大量のオークたちが現れた。壁のようにどっしりと並び、行く手を拒んでいる。
「敵の本隊がお出ましですかね」
ロロはオークの壁を見ながら呟く。ざっと見た感じ総勢300体前後と言ったところか。ところで、後ろの方に魔法使いのモンスターが数体いるのはみえるが、先程までずっとちょっかいをかけに来ていた弓兵が見当たらないのだが……。
(なぜここに弓兵がいない?絶好の機会じゃないか)
三階層かこの階層のどこかに隠れているのか? いや、相手はほとんど弓兵だけだったし、挟み撃ちをできるほどの戦力はない。……いや、待てよ
(……自分で可能性を考えていたじゃないか)
……落ち着け。もし、仮に弓兵どもが本当に下の階層に行ったとするとこいつらの役割はなんだ? 捨て駒か? ただただ時間稼ぎか? いや、前者なら多すぎるし後者は結局理由になってない。ここでのチャンスを捨ててまで下の階層に行くメリットはあるか? ……いや、ないな。相手軍は睨み合ったまま動かない。多分自分たちから何かしない限り動かないだろう。いったい何を狙っている? ……そんなの一つしかない。
「ゴブリンと巨牛族の半分と巨人族全部はオーク軍にぶつかれ!本隊はぶつかっている間に迂回して先に進む!一応その後、オーク100体を挟み撃ちの形にするように突撃させろ!」
相手はおそらく挟み撃ち用に兵数をかなり割いている。おそらくダンジョンの外に配置しているだろう。なかなかに頭が回るし大胆な奴だな。迷いがあるやつはまんまと罠にかかっただろう。……だが、この作戦は諸刃の剣である。
後方に兵を多く配置していることは前方の兵は少ないことを意味する。こちらの勝利条件は相手を降伏させるか全滅させるか、あるいは
ラスボスを撃破するか。
ここで時間をかけると挟み撃ちの形にされ、ジリ貧となる。ならばそうなる前に兵の薄い前方を突破し、最下層にいるだろうラスボスを倒してしまえばいい。そう考えると相手の出方にも納得がいく。どこかに潜んでいるかもしれない弓兵を意識させ、後方のことを悟られないようにする。突如現れた前方のオークの大軍は後方にいる兵と連携を組むためであると同時に前方に兵が多いと思わせる為だろう。
大胆さと繊細さを同時に兼ね備えた優秀な軍師だ。……だが、
俺の方が一枚上手である。
ドーラたち本隊はオークたちを放置し、五階層に向かった。
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ドーラの予想は見事に的中していた。
~ダンジョンの外~
グローリアは剣と盾を取り、立ち上がり、軽く跳んで木の上に上り、ダンジョンの入り口の様子を見る。
崖にぽかんと空いた穴の中からは負傷したモンスターたちが現在進行形で運び出されていた
(……ダンジョン内では戦闘が起きたのか)
リイアたちの攻撃は成功したのだろう。結構な数のモンスターが運び出されていた。それを確認したグローリアは木から軽やかに飛び降り、隣で待機しているミルとテン率いる氷孤族に向かって言う。
「ダンジョンの入り口に負傷した兵が運ばれている。百体もいない。そいつらを一匹残らずダンジョン内で倒し、その後突撃する」
そしてグローリアとミルは身体をぶるっと震わせながら立ち上がったテンにまたがる。
氷孤たちが全員準備できたのを確かめ、相手軍に聞こえない程度の声で命令する。
「全軍進め!」
その声に合わせ、氷孤たちはしなやかな足で地面を強くけり、まずはダンジョン外部のモンスターを全滅させるべく、木々の間を颯爽と駆け抜けるのであった。
次回は多分ツチグモ