40話 光があれば影もある
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しばらくの間週3(もしくは4)投稿に変更します
投稿頻度が急に減ってしまいます。申し訳ございませんm(_ _)m
「猛毒よりも強力な毒を治す方法は知りませんか」
私が尋ねると、二人の冒険者は腕を組みしばらく思い出そうとしていたが
「……俺らはそもそもそんな強い毒とは無縁だからよ。あんまり気にしたこともねえから何とも言えないな。おとなしく優秀な魔法使いか僧侶に依頼するのが一番だと思うぜ」
リーダーの男は申し訳なさそうに答える。それに続いて仲間の魔法使いも
「そうですね。噂にですが、数年に一回ぐらいですがどんな毒でも治せる聖水がダンジョンの宝箱から出てきたという情報もあるそうですが、現実的な方法ではないでしょうね」
そしてそういった後に魔法使いは「もしかして仲間がやられたのか?」と心配そうに聞いた。素直にうなずくと
「あんた、若いのに大変だな。……がんばりな。すまないが私らにできることはあんたを励ますことぐらいだ」
リーダーの男はその言葉にうなずき、私が頼んだ焼き鳥の代金はだしてやると言ってくれた。……いいんでしょうか。出会って数十分しかたってない赤の他人に……。すぐにお礼を言おうと私が口を開けたその時
「……酒が不味い!」
隣の机で仲間と飲んでいたのであろう男が突然大きなジョッキを机にたたきつけ、私をにらみながら
「せっかくこっちは楽しく飲んでるのによ!」
そう言って男はさらに立ち上がって私の方に歩み寄る。いつのまにかギルドの中は静寂に包まれ、皆心配そうに私を見ている。男はガタイはよく、所々傷を負っていて、戦士なのが一目でわかる。私と男のにらみ合いがしばらく続く
「……おい、いくらなんでもそれは言いすぎじゃねえか?聞いてたなら同情してやれよ」
リーダーが自分よりも屈強そうな男にも恐れずに援護射撃をしてくれた。
「お前、誰に対して口出ししてるのか分かってんのか?」
男の矛先は私からリーダーに向く。男の仲間の一人が得意げに
「この方は戦神に最も愛されている未来の英雄、ゴウタ様だぞ!」
かなり誇張しているだろうが……
(だれも止めに来ないあたり)
それなりの実力はある。あの筋肉と傷は決して飾りじゃないだろう
…
……面倒な奴に絡まれた
ただのチンピラなら無視するか殴り飛ばせば解決(?)だけど……
こいつにはそれができないだろうな。そもそも私の方が強い確証もない。
とりあえず上手いことこの場を切り抜けられないか色々思案したが
事態はより面倒になる。
「……てか、お前よく見たらモンスターじゃね?」
男は私の耳を指さしながら言う(むしろ今まで気づいてなかったんか?それなら相当酔っぱらってるな……)男の仲間も言われてから気づいたようで「モンスターかよ」「けがれてるな」「貧しいんじゃね?」と口々に言う。男はにたぁと薄気味悪い笑みを浮かべ
「悪いモンスターは殺さないとな」
男は躊躇なく私を殴り飛ばす。
「……??」
私はそのまま隣の机を倒して床に倒れる。私は一瞬何が起こったのか理解ができずにいた。男は勝者の風格を醸し出しながら
「この街はモンスターも入れるが悪いことをするモンスターは別だ」
と言った。……ああ、そうか。すっかり忘れていたな。私は机にぶつかったときの痛みで目が覚めた。
この街はモンスターも入れる。この街の住民はモンスターに対しそれなりの理解を持っている。だからモンスターだからといって差別を受けることは少ない。
しかし、ここは大都市であり、周りにはダンジョンもある。当然街の外からやってくる人間も多い。もちろん外部の人間もこの街のスタンスを知ってやってきてるのでモンスターに対する差別は少ないのだが
この男のように一定数はいるのが事実である。
特に冒険者に多い。……常にモンスターと殺し合いをしていることを踏まえれば当然である。
私はすぐさま立ち上がり、逃走することにする。やり返さないのかだって? ……より面倒になるだけだ。大人の対応をしてやろうじゃないか。私は隣の机で食事をしていた冒険者に「ごめん」と軽く謝り、一秒でも早くこの場を後にしようとした。
でも、できなかった。
「逃げんのか?」
そりゃ逃げるでしょ。不審者に絡まれたら戦うよりもまずは逃げるのが普通だろ。
「ビビりが。怖気づいたか?」
勝手に思っとけば?
「やっぱり悪いモンスターじゃねえか」
蚤みたいな男の仲間の野次が聞こえたが無視する。
「仲間と一緒に仲良く野垂れ死んだらいいのに」
…
「……てかさ、もう死んでるだろ。普通」
「たしかに。戻ったころにはご臨終か。……それ、いいな。酒が進みそうだ」
リーダの男は私に向かい
「サンキュー。いい酒の当てができたから見逃してやるよ」
「……勝手に殺すなよ」
私は自分の意思とは別にいつのまにか言葉を発していた。それでも聞こえてなければよかったが運悪く、耳に届いたようで
「はぁ?なんか文句あんのか?人の思想にいちゃもんつけんのか?」
男は席に戻ろうとするのをやめて再びこちらの方を向く。私は今からでも遅くないから今すぐに走り去れ!と体に命令するが言うことを聞かない。意識よりも強い……本能によって体が支配されていた。
「あんたは人が話してる内容に文句をつけたじゃないか」
私の本能は好戦的だ。戦闘スタイルも私の本能が原因で前のめりになっている。普段の私は猫をかぶっている(猫だけに)……今はそんなこと考えてる場合じゃない。
私の体は男に向かって走り出していた。目を大きく開き、拳を作って。
(喧嘩してはならない)
たとえ相手に非があろうと、私が『今・ここで』殴っていい理由にはならない。私の……いや、モンスター全体の尊厳に影響する。男は私を迎え撃とうと拳を繰り出す。私は体勢を低くして避け、そのまま懐に滑り込むように移動する。相手は隙だらけ私は顔面に拳を繰り出した。
『毒蛇!』
どこからか誰かがそう叫んだ。
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モンスターの拳は顔面の前で静止した。……寸止めか?
「……てめえ。なめてんじゃねえぞ!」
俺は寸止めで価値を確信したのか止まっていたモンスターを腹から殴り飛ばす。モンスターは僅かな時間宙を舞った後、地面に倒れこんだまま動かなくなった。とどめを刺すべくモンスターにゆっくりと近づく。冒険者どもが危険に気づいて止めようとしたが睨んで怯ませ、動けなくさせた。こいつは極悪人だからな。この場で処罰しないといけない。
「俺様の威厳を損なわしやがってよ!」
すぐに殺さずに存分に苦しませて殺してやろうと考えていると
「……その辺にしといたほうが威厳を損なわなくて済むぞ」
冒険者ギルドの受付の方から声がしたのでその方向を見ると
「……なんだお前」
「ジーク・レオン。かの有名なジーク家の養子」
ジーク家? そうか。お前は貴族のボンボンってわけか
「なぜこんなところにおられるのですか」
「君に話す義務はない。それよりも君は王様か何かなのか?」
ジークはゴミでも見るような目で俺を見ていた。……おまえ、貴族だからって調子に乗ってるな。
「あんたこそ俺を邪魔する権力はないだろうが。止めたければ自分で止めな。……まあ、温室で育った坊ちゃんができることなんてないけどな」
少し邪魔が入ったがモンスターは意識を失っていたようで動くことはなかった。後々面倒なことに巻き込まれるかもしれないがこの街には用はないからこれが終わったらここをすぐに去るとするか。俺はナックルを装着してモンスターにとどめを……
「疾きこと風のごとく」
ジークは俺とモンスターの間に割って入る。俺はその程度で止まらないぞ
「動かざること山のごとし」
拳は見えない何かにぶつかり、静止した。
「なっ……」
「侵し掠めること火のごとく」
ジークは突然動けない手に触れる。その瞬間、俺は訳も分からずに倒れた。
「……⁉」
それに立ち上がれない。……いや、立ち上がれないというより
「……手が上がらない」
「君の手を鉛に変えた。しばらくの間は動けないだろうね」
ジークは抵抗できない俺を見下しながら
「死なない程度に苦しませてあげる」
……俺はその後、どうなったのかは覚えていない。
次回、人気には必ず付随してくる厄介ごとが起きるようで…