取引をしましょう
ガスロさんは完全に乗り気である。まだ、計画が始まってもないような状態ですよと言ったのだが……
「私はこういうのを探し求めて旅商人をやってるんですよ!」
と言って聞かなかった。その様子を見たキリンは商人は一度目を付けたものは死んでも離さないような人だから説得しても無駄ですよとあきらめた様子で言う(個人の…)
別に断る理由もなかったのでガスロさんにも手伝ってもらうことにした。そして今、ガスロさんにお願いされて、都市建設予定地の新五階層に来ている。
「……ここが予定地です。まだ家の一つもたっていませんけどね。今のところは鬼人族とオークと妖精族がここで暮らすことになってます」
それと、グローリアも呼んだ。呼ぶと同時に颯のごとくやってきた。音が聞こえるよりも先に彼女は私の前に現れた気がした。……速い!
「彼女がこの階層の守護者でグローリア。このダンジョンの中で最強クラスに強いから安全もある程度は保障できる」
……ガスロはがたがた震えてた。キリンさんは唖然としてた。やっぱりそういう反応になるよね。
(異常だ!)
私は目の前にいる半神を見て確信する。ダンジョン内に神が目撃されたなんて聞いたことがない。そして強い。……というか多分ラスボスのリイアよりも強い。
「あばばばば……」
ガスロは壊れた。そりゃそうだ。こんなの目の前にしたら普通はああなる。それじゃあ私は普通じゃないのか……
もともとわかりきっていることだ。さして気にならない。
私は考える。彼女たちの計画を聞き、そして彼女たちの戦力を見て……
(……もはや)
ここをダンジョンではなく一個の国(都市?)として扱うべきではないだろうか。今後はそのように見なして関わるべきではないだろうか。
選択肢はおそらく二つ。一つの国として扱い、関係を築くか、それとも……
早急に叩き潰すか
時間がたてばいよいよ手が付けられなくなる。このまま放置してはいけない。
「……姉さん、顔が暗いぜ」
弟のライヤが私に声をかける。どうやら顔にまで現れていたようである。
「……いや、なん……」
私がはぐらかそうと声を発すると同時に
「……このダンジョンについて考えておられていたのでしょう」
カムイが絶対に正しいという自信を持った調子で遮り、話を続ける。
「俺たちとしてはむやみやたらに争いたくはない。そこで……だ」
「俺たちと取引をしないか?」
カムイはキリンさんに突然取引を持ち掛ける。……何を考えてるんだ?
「俺たちは周辺のモンスター管理できる。例えば通行人を襲うな命令させることができる。俺たちと手を組むならモンスターの被害は減らせる」
カムイはキリンを見たまま動かない。キリンも何かを考えているようで動かない。ガスロは壊れたのかさっきからずーっと動いてない。しばらくの沈黙の後、
「……今の私は防衛隊隊長としてここにきているわけではございません。ライヤの姉としてここにきています。その取引についての返答はこの場ではしかねます」
とこの場では返事はしなかった。
「……これから仕事があるので私は帰ります。急にお邪魔してすみません」
キリンは丁寧にお辞儀しその場を去ろうとしたが、何かを言い忘れたかのように立ち止まった。
「……一つ勘違いしてほしくないことは私たちはあなた達に敵対意識はほとんどございません。何人もの冒険者がこのダンジョンで殺されていようと私にはほとんど関係ありません」
キリンはそして防衛隊と冒険者の関係について話す。どうやら冒険者と防衛隊は仲があまりよくないらしく
「表面上では仲良くしてますが実際は面倒ごとを押し付けあっているのですよ」
防衛隊と冒険者は協力しあうことになっているが冒険者に人気のない仕事が防衛隊に回され、一方で防衛隊は緊急時には冒険者を緊急招集する。
「……実際は切りたくても切れない仲だったのです。今の今まではね」
こちらを向かずに淡々と話し続ける。そして最後に
「……前向きに検討しましょう。素晴らしい提案をありがとう」
そういって去っていった。その後何とも言えない空気感になったことに申し訳なさを感じたのか
「……すみません」
とライヤさんが謝るのであった。
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(見事にしてやられたな)
あの男、実力はそれほどないが厄介だな。今回に関しては私が勝手に自滅しただけかもしれないが。それよりも……
(個人的…いや、防衛隊としては承諾したいのだが)
そう簡単にはいかないだろうな。防衛隊の中に一定数は『モンスターは全て敵』と考えてる人は一定数いるし。なにしろ……
そんなことをしたら必ずあいつらが黙っていない。
冒険者ギルドが黙っているはずがない
ダンジョンで手に入れられた物品は冒険者ギルドの貴重な収入源だ。冒険者たちが手に入れたものはほとんどの場合は一度冒険者ギルドに買い取られる。買取値が一番安定しており信頼できるためである。そして冒険者ギルドに売られたものは大体商人ギルドを介して売られる。
あの取引を承認することは冒険者ギルドの商売相手を殺すようなものである。(果たしてあのダンジョンが商売相手になるかどうかは微妙なところだが)もし、これがきっかけでほかのダンジョンでも同じことが起きた場合、冒険者ギルドは大損害を負うことになる。冒険者ギルドにしてみればダンジョンはダンジョンのままであってもらいたいはずだ。
そうなると対立は免れない。
たかが一都市の防衛隊と冒険者ギルドのどちらが強いかなんて考えなくても分かる。私ごときが戦ったところで勝てるはずがない。
私はため息をつく。弱者には決定権はないのである。
一方、ダンジョン都市クシャの冒険者ギルドには
一人のモンスターがいた。
(ここが冒険者ギルドか)
石造りの丸いドーム状の形の建物で出入り口はとても大きく人が横に十人並んで入れるほどである。私がなぜ冒険者ギルドの前にいるかって? ここならいろいろな情報が手に入ると思ったからである。
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建物の中は人であふれかえっており、向かって右側の大量の円卓が置かれてある居酒屋? のような場所は活気を帯びていた。今は昼なのだが……。対する右側にはいろいろな窓口があり、こちらは静かであった。私はこういった騒がしいのが苦手だが、覚悟を決めて一つの円卓に向かう。
「…すみません。ここよろしいでしょうか」
円卓にはすでに三人が座っていた。その三人組の隊長と思われる人物は
「いいぜ。あんたは一人なのか?」
「今は訳アリで一人で行動しています」
とりあえずそういう体にしておく。三人組はこの居酒屋の中だと比較的落ち着いていた(まだ静かそうなところを選んだだけだけど)隣に座っていた弓使いの女が
「勧誘失敗ね」
と笑いながらリーダーをからかう。私は二人の会話に笑いつつ、とりあえず何か頼まないと不味いと思い一番安い焼き鳥を一本だけ頼む。そして、しばらく三人と談笑し、ある程度親しくなったところで私は本題を切り出すことにした。
ガスロ
「ばば…ばばば」