想定外のお客様
どうやら私はまだ休めないようです。
色々あった次の日の朝、今日はゆっくり休める!と思っていたのに……
「あっ、リイア!お客様だぜ。カムイが秘密部屋に来てくれだって」(フェニ)
そんな……噓でしょ。
「私はいないって言っといてくれないか?」
「さぼりはだめだぜ。……そんな顔するなよ俺も付き合ってやるからよ」
フェニ……お前ほんまにええ奴やな。
私がフェニの熱い頭をなでだら満足げに笑った。……かわいい。
しばらくフェニと戯れてるとやる気が出てきた。仕方がない。行くとするか……
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「……ここですか」
そのダンジョンは道から外れておおよそ一時間と比較的近くにあった
「新しめのダンジョンですね」
ガスロはダンジョンの入り口をまじまじと見ながら呟く。大きな岩をくりぬくように空いている穴の中からはモンスターの気配がする。
「突然襲ってきたりしないでしょうね」
いや、ダンジョン内部のモンスターは通常侵入者なら問答無余で襲い掛かってくる。対話ができるのはごく少数のモンスターだけである。
「そんなこと嘆いたって突き進みますよ」
「分かってますよ。ただし、危険を感じたらすぐに逃げますよ。何やらこのダンジョンかなり危険らしいのでね!」
……そのとおりである。このダンジョンを調査しに向かった二つのチームは帰ってきていないそうだ。十人チームは全滅。あの四人はもしかしたら生きているかもしれないが
(可能性としては絶望的だろうね……)
まあ、別に私はそのことについて何か思うところがあるわけでもないけどね……
ダンジョン探索なんてそんなもんなんだからさ。
ダンジョンの中は平原が広がっていた。見た感じは普通だが……
「モンスターの強さが一階にしては高くないですか?」
……私もそう思う。モンスターはスライムとうさぎとファイヤーバードと一階層らしいが、普通の個体よりも強い。それと
「すぐに襲ってこない。気づいているはずなのに」
それどころか私たちと目が合うと逃げていくモンスターもいる。……もしかして
「……すみません。どなたか話が通じる方はいませんか?」
私はモンスターたちに問いかける。モンスターたちは明らかにこちらに気づいているがやはり襲ってこない。しばらくすると
「……お客さん?」
目の前には一匹のスライム。しゃべるスライムか。珍しいな。
「私はライヤの姉のキリン。ライヤっていう男の獣人がいると思うんだけど」
「ライヤ兄ちゃんはいるよ!それとあなたは?」
「私はガスロ。旅商人ですよ」
ガスロはそう言って礼をするがスライムのモンスターは怪しさの塊であるガスロをまじまじと見ながら
「……嘘つくならもう少しましなのにしようよ」
「……はい?」
ガスロは顔を上げる。
「だって商人っぽくないもん」
私はスライムの当然すぎる感想に笑いそうになる。ガスロはかなりショックを受けてるそうである。スライムは固まってるガスロを不思議そうに見ている。……純粋って怖いですね。
「……そのことは後にしましょう。とりあえず私はリイアさんとクロマさんのお知合いです。ガスロと伝えれば多分分かってくれます」
スライムはポンポンはねながら素早い動きで去っていった。ガスロはスライムが去ったのを確認してからぶつぶつと文句を言い始めた。私はそれを適当に聞き流す。……なぜなら
(2,3……4人ですか。きちんと隠れていて姿は見えない)
けれども気配は隠せていない。半人前……といったところか。
「……これは攻略するとなると面倒な罠がありそうね」
私はひとり呟きながら、相手の反応をうかがっていた。
しばらく待っていると一人の少年が現れた。真っ白な髪以外は普通の少年である。長剣を持っていてかなりの強者であることが分かる。ライヤと同じくらいだろう。少年は少し離れた場所で止まり、自己紹介する。
「私はカムイと申します。要件は伺いましたのでついてきてください」
「……どこに行くつもりでしょうか」
私が問うと、カムイは足を止め、振り返り
「……七階層に客間があるのでそこに案内しようかと思っていたのですが、ここでお話ししたほうが良いですか?」
あなたが私たちを信用しきってないのと同じで私もあなたを信用しきれない。ダンジョンの奥に連れていかれて逃げられない状態にされるかもしれないからな。ライヤがいる保証がそもそもないし。もし違ってたら申し訳ないけど命にかかわることだから妥協はできない。
ところが次にやってきたのが
「……姉さん⁉」
弟のライヤであった。
ライヤは大慌てでここまで来て、固まった。姉が来たと聞いたときは半信半疑だったが、目の前にいるのは間違いなく姉である。
「……なんでここに」
ライヤは思ったことをそのままに口にする。姉にキリンはどこか安心したように
「元気そうでよかった」
と笑う。今のキリンは防衛隊隊長ではなく普通の姉のキリンである。
「……こんなところで話すのもあれだし中に入らないか?俺が安全は保障するから」
「そうね。あなたを信用する」
私とガスロは小さな部屋に案内された。入口はかなり分かりにくく、いわゆる隠し部屋だろうか。客間らしいが部屋の中には椅子もなければ机もなかった。
しばらく待っていると、部屋の中に白っぽい桃色髪の少女が入ってきた。そして私は確信する
こいつは強いと
あの四人組は殺されたんだと確信した。低めに見積もって私と同格ぐらいだろうか。
「私はこのダンジョンのラスボスのリイアです。キリン様は初めまして。そしてガスロさんはお久しぶりです」
……さすがにラスボスか。だが、それでもここ最近できたダンジョンなら、この強さは異常である。年数と難易度が合っていない。
ダンジョンは古いものほど基本的に強い。仕組みを踏まえれば当然である。ギルドはその仕組みを利用して大まかな指標を用いるようになった。いわゆる危険度である。危険度はそのダンジョンができてから経過しただろう年数や立地によって決まる。(モンスターや人があまりいないようなところにあるダンジョンは危険度が低くなる)この指標が使われるようになってからダンジョン調査の失敗は格段に減ったのだが……
(こういった例外も当然あるよね。……前から分かっていたことだけど)
ほとんどの冒険者は指標に絶対的な信頼を置くようになってしまった。…ただの推測でしかないのに。その結果、警戒心を失いかけている冒険者が増えたように感じる。今回のこれもまさしくその一例なのだろう。
(……まあ、とりあえずダンジョンの危険度の変更は必須だろうね)
キリンはそんなことを考えつつ、ガスロとリイアの会話を聞くのであった。
(この人が……)
ライヤの姉か。……丁寧で穏やかな所作だが、グローリアのような強者のもつ存在感がキリンにはあった。底が分からないので何とも言えないが低く見積もっても私と同程度だろう。さすがは防衛隊隊長だなと思う。……それはそうと
「どういったご要件でしょうか?」
私は違う意味で存在感がありすぎるガスロに尋ねる。
「実はあなたたちのダンジョンと商売をできないかと思いまして……」
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「……またとんでもない計画ですね」(カムイ)
ガスロが話し終えるとカムイはあきれたように言った。
「『また』と言うことは何かしているのですか?」
私はガスロとキリンにダンジョン都市計画について話す。計画の全貌を知ったガスロは興奮交じりに
「素晴らしい!私もその計画に混ぜてくださいよ!」
と言うのであった。
ガスロさんは見た目を除けば結構常識人