嵐は過ぎる
革命編最終話です!
(最終話にしようとした結果5000文字超えました)ボリューム満点!
(大体普段の倍の量です)
『……聞こえるかい?』
私はその声で目を覚ます。……ここは?
私は無の上に立っていた。周りに広がるのも無であり、なにもない。
『……初めまして。僕はこのダンジョンの意思。君に話したいことがあるからここに呼んだんだ。忙しいのにごめんね』
そしてダンジョンの意思は話し始める。
まず、私はデルに勝利し、新たなラスボスになった。
そしてラスボスには権利が与えられる。
各階層のボスを任命する権利 ダンジョンのエネルギーの使い方を検討する権利、ダンジョンの意思と話すことができる権利などなど。
ただし、注意点としてはあくまでダンジョンの意思が譲渡している権利なので場合によっては権利を失うこともある。それはラスボス次第であるとのこと
そのあとはほとんどデルに関する愚痴であった。その愚痴の中でデルが力が与えられなかった理由を知った。
『あいつは僕のことすら無視するからね。だから君たちに加担したんだ』
そしてどうやらルールをちょちょいといじり、カムイたち四人をダンジョンモンスターと認定していたようである。
『まあ、これからよろしくねリイア』
「よろしく頼む。……そういえば名前はあるか?」
『ない』
「なら、ダンジョンのコアだしコアラでいいか?」
『いいよ!……あっ、ちょっと待って、やばいかも……』
?コアラじゃ不味かったか?
『いや、ちょっとこれを見てくれる?』
そして私の前に何かが映し出される。見てみるとおそらく八階で……⁉
「何が起こってるの⁉」
そこに映し出されていたのは倒れているカムイ、リン、ヒマリ。
その近くで謎の侵入者四人と対峙するクロマとライヤとテン。
何をしたらよいのか戸惑っているフェニ、リキ、ちーちゃん。
対峙している三人はひどく怪我を負っていた。
「私を今すぐあそこに連れてって!」
『無茶だよ!君を今ラスボスにしているんだよ』
「あとでにしてよ!」
『今の状態で君が言ったところでどうにかなるの!無理でしょ!』
「それじゃあ早く終わらせて!」
私はせかすがコアラはすぐに行動しない。
『落ち着いてよ!そんな一気にやったら君の体が……』
まだぐずぐず言うのでワタシは右手を剣に変化させ首元につけ
「いいから早くしろ。じゃないと首を斬るぞ」
と脅迫する。
『あーもう分かったよ!でもどうなっても責任は取らないからね!』
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私達が八階に上がると、階段の近くで三人が倒れていた。慌てて一番近くにいたカムイのもとに駆け付けると
「……俺は後でいい。それよりもリンとヒマリがまずい。特にヒマリだ。二人から何とかしてやってくれ……」
「刺されたり、かまれたりした⁉」
私はカムイに尋ねる。カムイは答える「俺は大丈夫、だが……」
ヒマリは刺されたと。
私は急いでヒマリのもとに駆け寄る。倒れてるヒマリの左脇腹に刺されたであろう痕があった。すでにそれなりに時間が過ぎてしまっている。
「ライヤ!聖水もってるでしょ!それをヒマリにかけて!」
一刻も争う事態である。私は魔導書を取り出し、ある魔法を探す。おそらく今の私じゃ毒の解除はできない。でも、弱めることはできるはず。
「解毒魔法!」
魔法を唱える。おそらく毒が強すぎて私では治せない。少し毒が回るのを遅らせたり、弱めるぐらいしかできない。ライヤが聖水をかける。おそらく聖水も毒が強すぎて役に立たないだろうが、少しは効果があるだろう。
「なあ、大丈夫だよな……」
ライヤが不安そうに尋ねる。
……
「……大丈夫なんかじゃない。……多分、助からない」
「クロマ⁉」
猛毒ですら30分以内に適切な処理をしないと大体死ぬ。さらに強力な毒となるとより素早く適切な処理をしないといけないが
「……私にはできない。……私じゃ、すぐえない」
自分の力では適切な処理ができない。弱毒化などはできるが結局のところ苦しむ時間が増えるだけである。私はヒマリを見る。リイアやちーちゃんを盗んだ憎い敵であるが、素直で、感情豊かで、……かわいくて。
魔導書を必死に読んでいる姿は健気だった。
(……)
私は目を閉じ動かないヒマリに対し
「……私ができるのはこれだけ。後はヒマリの努力次第」
そしてクロマは
「……自殺なんかしたら私が許さないからね」
と耳元でささやくのであった。
一体八階で何があったのか
時は約20分前にさかのぼる。
カムイとオールは激しい接戦を繰り広げていた。第三者から見ても、本人たちの心情でも互角の戦いであった。二人の戦いに全員が夢中になっていた。だからこそ
奴が近づいてきていることに気づかなかったのである。そして
カムイとオールの剣がぶつかったその時
「ドスッ!」
針のような細いものがオールの体を背中から貫いたのである。
そこにいたのは毒蛇のモンスターであった。恐ろしいほどの力を秘めているのが一目でわかる。実際に刺されたオールが倒れたまま動かない
明らかに異質な存在。侵入者だろうか……。
するとそこにオークの一匹が襲い掛かろうとした。しかし、その直後、何かににらまれる気配がした。一瞬だが身動きが取れなくなった。俺が身動きが取れるようになった瞬間、突然ほとんどのモンスターがその場に倒れるのであった。
「何があった……」
「蛇にらみですよ。立てているのは強者の証です。素直におほめいたしましょう。しかし、三人だけですか思っていたより少ないですね……」
俺が後ろを見ると残りの二人はリンとヒマリであった。二人とも戦闘態勢をとっていた。
「……二人とも大丈夫か⁉」
「……大丈夫じゃないです。でもこれをカムイさん一人にさせるわけにはいかないでしょ」
「……カムイも無理してる」
……ばれていたようであった。さすがに6、8階層の連戦でだいぶ疲れていた。
「それじゃあよろしく頼む」
こうして俺たち三人と毒蛇との戦いが始まったわけなのだが……
「……この状況を見ればわかる通り結果は惨敗だった。俺とリンはやつの毒液に触れてしまって動けなくなっちまってさ。ヒマリは水魔法でうまく防いだんだけど、そこに本体が直接攻撃を仕掛けて刺したんだよ」
カムイの治療も済ますと、カムイは苦しそうに話した。
「一分も耐えられなかった。俺としたことが……」
「……いいえ」
同じく毒で動けないリンがカムイの話を遮り
「カムイさんは毒の耐性を私たちに共有したじゃないですか。そのおかげで私は今生きているのですよ。カムイさんは立派ですよ」
そして少し間をおいて「私が弱かったのです」と辛そうに言った。
その言葉は私の心を抉った。リンは故意ではないのは分かっているが、辛かった。治療が終わり、リイアの様子を見に行こうとした。しかし、戦いは終わっていなかった。
「君らか?私の蛇ちゃんを倒したのは?」
(嘘だ……)
さらに現れたのは四人の冒険者。しかも全員あの蛇クラスの強さがある。
「なんで」
なんでこのタイミングなのさ! よりにもよって!
「……カムイ。走れる?」
「走れないことはない」
「なら、ライヤはリン。カムイはヒマリを連れてここから逃げて」
「……何言ってんだ」
「君たちはダンジョンモンスターじゃない。ダンジョンが滅んでも死にはしない。私たちは革命が終われば自由にすると約束した。これは担当外の仕事。無理に戦はなくていい。勝てないから」
「……それじゃああんたらは」
「……ヒマリを託す。……テンは覚悟はできた?」
隣で戦闘態勢をとるテンに聞く。
「ええ。私はもう逃げないと決めましたから」
テンは明るく答えた。……そう。
それじゃあ、最後の戦いをしようか……
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「テン。一分だけ時間を稼いでくれる?とっておきの魔法を使うから」
「いいですよ、氷孤一同全力で戦います」
私は魔導書を開き、ある魔法の詠唱を始める。今の私ができる最大火力の魔法。テンは氷孤に命令させ、冒険者たちを足止めしている。テンに関しては冒険者の一人と1対1をして時間を稼ぐ。
しかし、冒険者と氷孤との実力差は圧倒的で数十秒後にはテン以外は戦闘不能になっていた。そして危険に気づいた双剣使いと槍使いが私に接近する。
(あと10秒……!)
「ガキン!」
「……カムイ。……ライヤ」
「お前な!勝つ算段があるならなら俺たちも使えよな!何もできずに死ぬところだったじゃねえか!」
「ヒマリとリンはある程度離れたところに置いているから安心してその魔法を放て!」
「……主人の意見を無視したカムイにはあとでお仕置きが必要ね」
まあいい。おかげで私のありったけのエネルギーを込めた魔法が完成したから!少なくともデルの「悪魔大地」に匹敵するはず。
「生命剝奪」
クロマの魔法は全員に当たった。突如現れた黒い岩に冒険者は押しつぶされるのであった。魔力を使い切ったのであろうクロマはその場に倒れる。
「いかれてるだろ」
感想がもうそれしかない。こんな攻撃喰らったら「しんか」の能力で耐性を得ても余裕で死ぬ。意外とこの能力は万能ではないのかもしれない。俺はこれを喰らったら絶対に死ぬ。
そう、俺は。
『バコン!』と言う音と共に目の前の岩たちが砕かれ、中から冒険者たちが出てくる。怪我はしているが全員動けるようである。
「くっそ、半分近く体力が奪われた」
「恐ろしいな。でもどうやら一回きりみたいだね」
「そうみたいだな。後は消化試合だ」
「……そうだね」
「おん?」
突如聞こえた見知らぬ女の声。
「なん……」
言葉を発しようとしていた魔法使いの首がはねとばされる。
「……回復魔法が使える人から倒さないとね」
敵も味方も関係なしに動けなかった。そして、悠々と歩きながら、倒れているクロマに近づく。
「……クロマ。よくがんばった。残りはワタシに任せて、ゆっくり休みな」
クロマはゆっくりと目を開け、うれしそうに微笑む。そして俺たちの方を向く。
「カムイとテン、ライヤもありがとう。もう大丈夫だ。楽にしていいぞ」
そして最後に冒険者の方を向き、
「ワタシはダンジョンのモンスターだ。ワタシはラスボスだ。ダンジョンに侵入したものを殺すものである。ですからあなた方を始末致します」
感情の一切こもっておらず、ただただ音を発するようにそう言った後、悲惨な蹂躙が始まった。冒険者たちは抵抗したが一人10秒もかからずに倒され、残りはよくわからない男一人になった。
男は最後の手段として残しておいたとあるお札を取り出し
「我に従事せよ!」
と叫ぶ。しかし、ゆっくりとしたペースで男に近づき続ける
(なぜだ!)
男が取り出したのは契約の札。モンスターと契約を交わす際に用いられる札であり、本来は契約時のみに使うのだが、非常時にはこれで足止めすることができるはずなのである。しかし、札の効果が発動しない。
「まさか、お前はモンス……」
男は何かを言いかけていたが、言い終わる前に殺された。
……こうもあっさり倒されるとはね。俺もこの戦いで成長したはずなんだけどな……
(むしろ差が広がったのか)
とか呑気なことを思ってたら、とんでもないことを言いやがった。
「私は進化する。……しばらく休む。その間にーー頼む」
そして、リイアから力があふれ出る。
「……オイ!今から進化する⁉進化してこれじゃないのか⁉」
だってさ、進化したらそいつ五体分の力に匹敵するんだぜ。
「……無茶苦茶だな」
ライヤはため息交じりに言う。一方のクロマとテンは『当然!』といった様子であった。
「……どんなに低く見積もってデル五体分以上!すごいですよリイア様!」
テンは羨望のまなざしで見ていた。対するクロマは同じく羨望のまなざしを向けているが、どこか素直じゃない感じがした。
俺は素直に喜べなかった。なんかさ、もしかしたら自分はやべえやつの誕生を手伝ったんじゃね? と今更ながらに思えてきた。
リイアは優しいし知識もある。だからそんな簡単に暴走はしないだろうが、
『私たちは生まれた瞬間にこの世界についてある程度は知り、自由意志を持つものは自我が芽生えます』
ダンジョンの仕組みについてヒョウリに尋ねてた時の言葉である。ダンジョンで生まれるモンスターにはゆっくりと知識や自我について知る『子供』のプロセスがない。それにある程度がいったいどの程度なのかもわからない。
『私は生まれて一年以上たちますがリイアとクロマに関しては半年もたってないかもしれませんね』
生まれて半年もたってないならばダンジョンの外だと物心すらついていない。
(こいつらは案外……)
子供だなと思った。ヒマリと同じぐらいだろう。大人っぽいところもあるがどこまで行っても『ぽい』だけである。かくいう俺もさほど変わんないかもしれないけど……
「……なにを考えこんでいるのですか」(ライヤ)
「……」
「一人で悩みすぎないようにな。いざとなれば俺を頼れ。頼りないかもしれないが」
「……分かりました。……クロマさん」
俺が声をかけるとクロマはリイアを見ながら「なに?」とだけ返事する。
「自分たちで頼まれたことを済ませていいですか」
「……いいよ」
ぶっきらぼうな物言いに「……相変わらず冷たいな」と思わず口にしてしまった。
「……カムイ。私が言ったこと覚えてる?」
……あっ、やべ。俺がそのことに気づいたときクロマは「フフフ」と笑うのであった。
革命編は以上になりますがまだまだ続きます
次回は閑話です