30話 裏ボス
何かを忘れている
二人は倒れたリイアのもとに慌てて近寄る。
「……呼吸はしている。大丈夫、命に別状はない」
クロマの答えに安心するライヤ。そして「終わったのか……」と口にした直後である。二人の背後から何者かが近づいてくる。とてつもない力の塊。デルに匹敵するレベルである。
二人が目線を向けた先には一匹の毒蛇のモンスターがいた。
「……侵入者⁉」
クロマは普段の物静かで冷静な雰囲気ではなかった。もちろんそれは自分もである。俺の本能が叫んでいる。こいつには勝てないと。
「その黒髪の精霊さんがこのダンジョンのラスボスかな?……そうだね、間違いない。この子を殺せばいいってことか」
毒蛇のモンスターはクロマに襲い掛かる。すぐさま、戦闘態勢を取り、
「衝突」
を放とうとしたが、明らかにやばそうな紫色の液体が飛んできたので回避する。
「……これは猛毒だ!クロマ!気をつけろ!」
「違う!これは猛毒なんかよりももっと危険な毒!数ミリでも体内に入ったらあんたは即死する!」
クロマは毒蛇の攻撃をうまくかわし、自分の隣までやってきて
「……あいつは猛毒とそれよりも強い毒の二つを使っている。どっちも危険なことには変わりないけど、牙と尻尾の毒は本当にまずい。……あと、あいつは身体全体を猛毒の針のようなもので覆っているから接触をした瞬間に死ぬ」
と言った。……となると、リイアは動けないので……
「魔法か……」
「だね。でも、おそらくだけど……」
そしてクロマは最悪の一言を発す。
私達が持っているエネルギーをすべてあいつにぶつけても勝てない。
「何言ってるんだ?」
「私の残りのエネルギーは50%ぐらいしかない。100%あるなら勝算はあるけど今の状況だと私らだけでは勝てない」
「詰んでるじゃないか!」
「……落ち着いて。私はあくまで私らだけでは勝てないとしか言ってない。つまり、私らはどうすればいいか分かった?」
「……今度は耐久ですか。しかも終わりが見えないタイプの」
「愚痴ってもしかたない。今は目の前のことに集中」
どうやらこの世界は勝利の余韻にすら浸らせてもらえないようである。
俺とクロマは必死になって耐えた。かすっただけで死ぬとかいうふざけた条件付きなため、いつにもまして集中した。多分武器作ってるときよりも集中してたと思う。命にかかわるからな。徒労に終わるかもしれないが、必死に耐えた。そして
その努力は結ばれた。
「白銀世界!」
テンは横から完全に不意打ちする形で毒蛇の体の一部を凍らせ、
「氷転崩壊」
動けない毒蛇の体に氷の鎌を差し込むのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
四階に上がると階段の近くに氷孤が倒れていた。テンはすぐさま駆け寄る。
「ヒョウリ様!」
テンは叫ぶ。ヒョウリは何か所も何かによって刺されていたが、特に首元がひどくそこから大量の血が流れていた。ヒョウリは声掛けに気づいたのかわずかに目を開け
「…テン…か」
と苦しそうにしゃべるのである。
「しゃべらないでください!今すぐ助けを呼びますから!」
「…まて。……聞け」
走り去ろうとする点をヒョウリは呼び止め、とぎれとぎれに話す。
「私は…死。助か…ない。せめて…テン。…託し…たい」
ヒョウリの前足が青白く光り輝く。ヒョウリはプルプルと倒れた状態のまま足を上げ、
「顔に…のせる」
テンはヒョウリに従い、青白く光る前足を頭にのせる。すると光は静かに消えた。
「……ヒョウリ様。これはいったい……」
「私の力を……テン…託す。…私の代わりに…蛇を…頼…む」
ヒョウリは静かに目を閉じて、最後にはっきりと言う。
「あなたは強い」
ヒョウリ様はそういって雪が解けるように消えてなくなった。自分ははただ一人じっとその様子を見つめていた。ヒョウリ様の顔が消える直前、何かに対して微笑んでいるように感じた。何に対し、どんな意図をもって笑ったかは分からない。そもそも笑ったかどうかも今となっては気のせいではないか?と思う。しかし、いくら考えても真相は分からない。ヒョウリ様は亡くなり、私は託されたことだけが事実である。
「……私は」
強くないのです。蛇のモンスターから逃げた小心者です。あなたの力を託されるような器ではないのです。
テンはヒョウリが死ぬ前に正直に伝えなかったことを後悔した。
ヒョウリ様は立派であった。氷孤族からはもちろんのこと他の種族(主に1~4階)に尊敬されていた。決して弱い魔物に対して傲慢にならず、常に謙虚で誰よりも努力家であった。テンは知っていたのである。ヒョウリ様が先生として指導し、四階に帰ってくると今度は自分の訓練をし続けていたことも。すべてはリイアとクロマに対して恩返しをするためであった。
そしてきっと蛇のモンスター相手に怯むことなく戦ったのだろう。あの傷だから何度攻撃を喰らっても立ち続けたのだろう。
自分はきっとヒョウリ様のようにはなれない。ヒョウリ様が願っているだろうようなモンスターにはなれないだろう。ならばせめて、
「…私の代わりに…蛇を…頼…む」
ヒョウリ様の最後の願い。私に託された願い。
革命後の約束はもう果たすことはできない。
逃げたという事実は決してなくならない。
ヒョウリ様の後を継ぐ者として恥ずべき行動!
面目を保ちたいならば……
二度と逃げない!
氷の鎌は確かに差し込まれたが、蛇のモンスターは死ななかった。蛇は氷を砕き、尻尾で自分を刺そうとした。素早い動きだが、単純なので簡単に避けれる。さらに自分を殺そうと噛みつこうとする。
(外からでは足りない。ならば!)
私は避けなかった。二本の鋭い牙が私を刺そうとする。
「ばきっ!」
しかし、二本の牙は私の体を貫く前におれる。私は身体全体を氷で覆い硬くしたのである。そして私は防御が薄いだろう体の内部に対し
「白銀世界!」
を放つのであった。
毒蛇のモンスターは完全に停止し、口に中からテンが出てきた。「無事か」とほっとしたのもつかの間、テンは私たちに向かい
「ついてきてください!」
と言って返事も待たずに階段の方へと向かう。
クロマとライヤはリイアを置いて八階へと向かうのであった。
次回、5000文字オーバーになりました…
お楽しみに…?