戦場は『想定外』の巣窟である
↓素直に1000PVを祝えない方たち↓
「「私達の出番はまだですか」」(クロマ&リイア)
「「……」」(ライヤ&デル)
「「復活しますよね?」」(アラン&ルヴァン)
(間に合った……)
いや、本当はもう少し早く来るべきだったな。もう少し早く来ればこんな経験をさせずに済んだのだから……
「だけど過ぎたことは仕方がない。今から取り返せばいいだけのこと!」
そういって目の前のオークの軍団に向かい剣を構える。
「ちっ」
オークの男は舌打ちした。せっかく厄介な相手を一人減らせると思っていたのに突然現れた男によって阻止された。しかも、その男はおそらくこの中で一番強いオーラを出していた。実際に装備付きのオークを一撃で一刀両断していた。しかし、さほど問題はないだろうと男は思うのであった。
それは事実である。リンやヒマリクラスのモンスターが一人増えたところで戦況はさほど変わらない。ヒマリはすっかり安心していたが、いまだに劣勢である。
しかし、その前提が間違っているのである。
リンはほとんど孤軍奮闘状態であった。これ以上被害を増やさないために各自の判断で一度撤退するように命じたのである。少しでも安ませた方が耐えられると判断したのである。しかしリンは撤退しなかった。前述したとおり、一度集中力が切れると自分はもう役に立たなくなると判断したのである。
けれども彼女の集中力は切れかけており、ここ数分で三回被弾したのである。
身体の節々がいたい。体中が悲鳴を上げている。傷もじんじんと気をそらしてくる。リンはもはや何も考えていなかった。ただただ本能に身を任せて動いていた。そしてとうとうオークのこん棒に当たり、私は倒れた。
(まだ……)
私は立ち上がろうとした。しかし意識とは裏腹に体はピクリとも動かなかった。それでも立ち上がろうとしたら今までに感じたことのないほどの痛みが体中から伝わる。どうやらすでに限界を超えていたようであった。
ところで、そんな状況の私を何者かが優しくたたくのである。何とか首だけを動かすとそこには40体近くの犬と氷孤のモンスターがいた。
まずカムイ一人ではなかったのである。五階の氷孤、七階のカリン、コリンと合流し、八階の援護に来たのである。そしてもう一つ
ヒマリはただ茫然とその様子を見ていた。いや、ヒマリだけではない。本隊でぶつかり合っていたほぼすべてのモンスターは呆然とその様子を見ていた。
カムイにオークが襲い掛かる。しかし、カムイの一振りによってあっけなく真っ二つにされる。耐久力の優れたオークをである。
(信じられない……)
カムイはもとから強かった。しかし、こんなに圧倒的ではなかったはずである。
オークを確実に一撃で倒せるのはクロマだけである。リイアとライヤもできないことはないらしいが安定して一撃で倒すのは難しいとのこと。
(それを踏まえると……)
カムイの攻撃力(?)は破壊力の高すぎるクロマと同程度のレベルである。意味が分からない……。そんなカムイの頼もしすぎる背中を見ていると、なんだか自分ががオークに苦戦していたことが馬鹿らしく思えてきた。
カムイに何があったのか。
~六階にて~
カムイはカニのモンスターで六階層のボスであるクラブンと戦っていた。戦いはすぐに膠着状態に陥った。クラブンの攻撃はカムイは難なくさばける。一方でカムイの攻撃は馬鹿みたいに固い甲羅によって防がれるのである。
「かったいなぁ……」
カムイは思ったことが結構口に出てしまうタイプなのであった。それを聞いたクラブンは
「貴様ごときが我が鉄壁を破れるわけがなかろう」
と余裕たっぷりと言った具合に答える。なにせ自分に対し有効手を相手は持ってないと確信したからである。カムイはその答えに笑いながら
「そーゆーのはフラグになるんだぜ!」
と言いながら攻撃をする。しかし、結局彼の長剣は殻とぶつかり心地よい音を鳴らすだけなのであった。クラブンはその答えに同じように笑いながら
「フラグになるかどうかは結果論でしかない。貴様が我に勝てばフラグになるし、我が勝てばフラグになんぞならん!」
クラブンは自慢のはさみで切り刻もうとする。それに合わせてカムイは接近してくるはさみに自ら捕まりに行くようにして剣を振る。その時クラブンは勝ちを確信した。
(馬鹿め!俺の甲羅ははさみの部分が一番硬い。ゆえに奴が俺を倒すことは絶対にできない)
そして自分は空中で身動きをとれない相手をはさみで捕まえればいい。そう思っていた。しかし、彼の爪とカムイの剣が接触したその時
「バキバキ!」
なんとクラブンの甲羅が割れ、そのままカムイは腕を割きながら、体の部分まで迫り、甲羅をたたき割ったのである。
「……ばかな。ありえない。……絶対にありえん!」
クラブンは倒れながらそう叫ぶ。対するカムイは倒れていくクラブンを片目に独り言のようにつぶやいた。
「……戦場において『絶対』なんてものはない。常に『想定外』の連続だ」
そしてカムイは間もなく死ぬであろうクラブンのもとを去る。
「……お前は確かに強いかもしれんが、俺とお前は経験値に差がありすぎた。本当の戦闘をお前は知らなかった。修羅の世界をお前は知らなかった」
戦場において必ず勝つと思っていた相手に負けるなんてことは意外でも何でもない。実戦こそが最高の成長するチャンスであるのだから。
カムイは戦いの中で成長し、リイアの能力のようなものを手に入れたのである。
彼が手に入れた能力は「しんか」である。
簡単な能力の説明はある事象に対する耐性や特攻を得ることができる。
(例、辛い物を食べているときに能力を使うことで辛い物に対して少しだけ強くなれる)
主な条件や制約として
完全な耐性を得ることはできない。同時に得れるのは三つまで。四つ目以降は一番古い能力を失うことで習得可能。仲間にも効果の50%程度を共有可能。
カムイはクラブンの殻に対する特攻を手に入れることで倒しことができたのである。ただし、能力を使うにはそれなりのエネルギーが必要で
(今の状況だとせいぜいあと3~4回できるかどうかってところか…)
使うタイミングは慎重に見極めないとなと思うカムイであった。
ちなみに六階の残りのモンスターは自由意志を持ったボスがいなくなったことで思考が途端に単純になったのでモグラのモンスターに即席の『カニさんホイホイ』を作ってもらう。大まかな使用方法を伝え、ちーちゃんたちに任すことにし、五階層にいた氷孤たちと共に下の階層の援護に向かう。いくら能力があっても全員を倒して回るのは骨が折れる。なのでカムイは考えた。
別に殺さなくても無効化すればいいと。
~七階層~
特に語ることはない。元からこちら側が優勢だったが、カムイたちが来たことがだめ押しになり、完全に勝利した。そしてコリンとカリン率いるモンスターたちと共にと共に八階層の援護に向かったのである。
そして今に至るのである。もはや戦況は互角であった。モンスターの質も量の差はほとんどなくなっていた。
オークの男は少々焦っていた。負け筋がうっすらと見えてきたのである。
そして彼はこのままがむしゃらにやって勝てるか疑問に感じ始めるのである。
彼はオークとしては強かった。しかし、指導者としては優柔不断すぎたのである。知略を取るにしても戦力差を使い叩き潰すにしても中途半端なのであった。彼は悩み、やがて一つの結論にたどり着く。
あの男と1対1を挑み、勝てばいいと。
相手の主力の二人は弱り切っているからあいつを倒せば全体の士気が下がるのではないかと思ったのである。そして彼はすぐさまに行動する。
切っても切っても現れるオークにカムイが少々うんざりし始めていたころ、一匹のオークが軍隊をかき分けて現れる。
「我はオークのボスのオールである。そなたがあなたがたの頭と見た。ぜひとも勝負願いたい」
オールと名乗ったオークは全身鉄の装備をしており、武器もこん棒ではなく大剣であった。……なるほどこいつがボスか。
(奴を倒せば六階と似たような戦術が通用するかもしれんな。……ならば)
「いいぜ。勝負してやる。ただし、一時休戦だ。それが守れないなら断る」
「そりゃ当然だ。むしろ邪魔するやつがいたらたとえオークであったとしても俺はそいつを殺す」
「それじゃあ、取引成立だな」
そうしておれは前に出る。オールは配下のオークを下がらせる。
こうして八階の戦闘は最終決戦を迎える。
カムイたちの決戦が始まる直前、私の隣に氷孤たちにリンが運ばれて、寝かされたのであった。運ばれてきたリンは全身に傷を負っていた。
「リンさん!大丈夫ですか」
私がとっさに声をかける、リンは首だけ動かし、私を見ながら
「……その顔の傷は大丈夫なのか」
と自分のことは無視して答えるのである。
「私は大丈夫ですから。それより、これ!食べてください!」
私は持たされていた薬草を取り出し、半ば強引に食べさせる。食べ終えた後、
「……オークは強い。カムイは大丈夫なのか?」
他人のことよりもまず自分の状態を心配をなぜしないのだろうか……
「……大丈夫ですよ。カムイさんは強いですから」
そうして私たち二人は決戦の行方を見守るのであった。
次回、ラスボス戦