緊急事態⁉
登場キャラクター紹介
オール
オークのボスであり当然だが自由意志有。約300体近くのオークをまとめる天才であり、デル曰く、『ラスボス前の最後の砦』とのこと。デルに対する並々ならぬ信仰心を持つ。
五階では勝者が一人座り込んだまま動かなかった。
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テンとルヴァンは一進一退の攻防をしていた。お互いに実力が拮抗しているのと、決定打がないためであった。
ちなみに五階のゴーレムはすべて倒したので他の氷孤たちは六階の援護に回るように命令した。ゴーレムは防御力や体制こそ優秀だが、攻撃性能が低いため、ほとんどサンドバック状態であった。
二匹は互角の戦いを続けていた。だが、いつまども均衡は保たれない。いつかは崩壊する。
(……今でもない)
テンはなかなか動かない。対するルヴァンはそんなテンを畳みかけようと連続攻撃を仕掛けるのであった。
「どうした⁉さっきから動きが鈍いぞ!」
ルヴァンは煽る。しかし、テンは一切の反応もしない。淡々と攻撃を避け続ける。
(動きが鈍い?)
いいえ、動きが鈍いのではなく、余計な動きをしていないだけですよ。
テンは数十分間戦い続けてルヴァンの攻撃を学習したのだ。完全に見切っているのである。
そして虎視眈々とチャンスを待っていたのである。
ヒョウリは一切の心配をしていなかった。テンは必ず勝つと確信していたのである。テンとルヴァンについて一番詳しいからこその自信である。単純な氷魔法の火力勝負なら自分が勝つがそれ以外は自分と大差はない。だが、その火力不足のせいで自分とは違いルヴァンを一方的に倒すことはできないだろう。
(けれども……)
テンにはとっておきの隠し技があるのである。
私にもできない完全オリジナル技である。
(頼んだよ……)
ヒョウリがそんなことを考えていると
「……!?」
突如目の前に現れた巨大な力の塊。蛇のようなモンスターであった。体長は2メートル以上あり、大きな目、鋭い牙、針のようなしっぽ。そしてその針の先から滴る紫色の液体。明らかに触れたらまずい気配がした。
「……なんのようですか」
臨戦態勢をとり、対峙する。こんなモンスターはこのダンジョンにいない。間違いなく侵入者である。……それじゃあ、まさか!
「……アランに何をした!」
すると目の前の蛇のモンスターは気味の悪い笑みをこぼし声高に言う。
「……あいつか。あいつは毒殺した。何かを叫びながら苦しそうに死んだよ」
~数十分前~
ダンジョン内に四人の冒険者が入った。
「……ここが10人パーティーが消えたダンジョンか?」
一人の男が尋ねる。
「おそらくね……」
と魔法使いと思われる女が答えた。
四人はこのダンジョンを探索しに行った10人組が帰ってこないため、調査をしに来たのである。
「……特別なダンジョンではなさそうだが、それにしてもモンスターがいなくないか?」
双剣使いの男は周りをみえ渡しながら不思議そうに話す。
「いや、モンスターの反応はある。ただ、数が異様に少ない」
魔法使いの女も不思議そうに答える。男は情報を整理する。
まず、約一か月前に新たなダンジョンができているとの連絡を受けた。場所は大きめの街道からそれほど離れた位置にないため昔からあるダンジョンではないだろう。長めに見積もって三年ぐらいだろう。とりあえずギルドとして調査する必要があるため依頼を出し、引き受けたのがあの冒険者10人であった。
できて三年ぐらいのダンジョンなら多めに見積もって15階層ぐらいだろうと考え、未調査なのも踏まえて少し危険度は高めに設定した。よほどのことがない限り大丈夫だろうと思っていたのだが
「やはり、よほどのことが起きたのだろう」
男はそう結論付けると、召喚魔法を使い一匹のモンスターを召喚する。毒蛇のモンスターである。ダンジョンで出てくる階層だと25~35階層ぐらいである。
男は召喚したモンスターに
「最下層に行きラスボスを殺せ」
と命令する。毒蛇のモンスターは命令に従い平原を突き進み始める。
「俺たちは少し離れてあいつについていく。いいな」
あのモンスターが死んだかどうかは判断できる。万が一あのモンスターが死んだら間違いなくこのダンジョンは『異常』である。
「このダンジョンの階層が分かった。最深部は九階だね」
「……意外と浅いな」
もし普通のダンジョンであればあの10人パーティーが死ぬことはありえないはずだ。
「『意外』は危険だ。全員注意しろ」
二階層
ウサギのモンスター二体が襲い掛かってきただけ。しかも強くはない。
「おかしい。明らかにおかしい」
モンスターが少なすぎる。どうなってんだ⁉
「……もしかしたら強いモンスターが数体だけいるダンジョンかもしれませんね」
三階層
ボスと思しきモンスターは毒蛇によって殺されていた。
「……このモンスターって結構強くなかったっけ?」
槍使いの男が死体を見ながら聞く。
「強いな。いくらボスといえどもこの階層で出てきていいモンスターじゃない」
だがこれぐらいなら10人が全員死ぬことはないだろう。多少の被害は出るが倒せるはずだ。そして、そうなるとあいつらは引き返すはずだ。ダンジョン攻略が目的ではないからな。
「……」
下の階層に行けば行くほどダンジョンの謎は深まっていくばかりであった。
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ルヴァンの動きが少し鈍くなってきているようにテンは感じた。一方のテンは余分な動きをしていない分、余裕があった。ルヴァンは明らかにいらだっている。そしてとうとうテンもルヴァンも大きく動いた。
「灼熱吐息」
(今だ!)
テンははルヴァンを目掛けて思いっきり跳躍する。少し灼熱吐息を喰らったが問題はない。テンは尻尾に魔力を込め、二つの氷の鎌を作る。
「氷転崩壊」
テンは単純な魔法の火力はヒョウリに劣る。火力が足りない。ならばどうすればいいか。無駄をなくせばいい。
氷転崩壊は銀色世界の範囲攻撃をぎゅっとまとめて単体攻撃に変えたような技である。二つの鎌が対象に刺さると対象の体温は急激に低下し
凍死する
テンの二つの鎌は見事にルヴァンに刺さった。その瞬間、ルヴァンは突然停止した。まるで充電でも切れたかのように。
「……無事に終わった」
とヒョウリは思い、その場に座り込んだのである。
しかし、次の瞬間
突然、巨大な力の塊が現れたのである。
その方を見ると巨大な蛇のモンスターがいた。
(侵入者か!?)
テンは応戦しようとした。
しかし、体が動かないのである。蛇ににらみつけられたカエルのように。蛇のモンスターはテンを無視して階段の方に降りて行った。階段を下りるのを見て、しばらくしてからテンは
(……まさか)
テンは急いで四階へ向かって走るのであった。
そんなはずはない!と何度も心の中で念じながら……
ルヴァンが死んじまった…