8階攻略戦 Ⅱ
後編です(長め)
八階では激戦が開始された。
リイアたちはほとんどのモンスターを三部隊(ヒマリ、リン、リイア)に分けて、三方向に別れて、突破を試みるような陣形を取った。
対するオークたちは両軍がぶつかるだろう場所を若干厚くして対峙する。
ヒマリとリンが率いる部隊とオークたちとの戦闘が始まった。二人の部隊の構成は大体同じで、ほとんどがゴブリン(30体)と少しの剣士モンスター、氷孤、である。対するオークはおおよそ3~40体。普通のオークの強さの大体の指標は
オーク1体≒氷孤1体、剣士モンスター1.5体、ゴブリン7~8体ぐらいである。
なので……
(普通に戦っても勝てない)
リンはオークを吹っ飛ばしながらそう思うのであった。吹っ飛ばされたオークは致命傷にはならなかったようでよろよろと立ち上がった。
(無駄にかたい!)
動きは遅いので集中すれば避けられる。問題はその耐久力の高さである。リンですら一撃で倒せないとなると数体倒すのにどれだけ時間がかかるか分からない。しかも数体ほど防具を着ている個体も見たのでそいつらを倒すとなるとさらに時間がかかる。
(とっととくたばれ!)
リンの怒りの鉄拳によって一体のオークは倒れた。その隙に周りを見ると、どこも耐久力の高さに苦戦しているようで一体も倒せていない。一方のこちらは何体かのゴブリンがオークの攻撃を喰らったようで倒れている。援護に向かおうとしたが、リンのもとに別のオークが襲い掛かる。リンはうまく切り返して逆に攻撃をあてるがやはり一発とはいかないようである。リンは一撃で倒れないオークたちを見て次第にいらだつのであった。『自分から一撃を無くせば何が残る』と思うのであった。
自分にはリイアやカムイみたいな作戦なんか考えられない。クロマやヒマリみたいに広範囲の技が使えるわけでもなければ、ライヤみたいに戦闘外でサポートができるわけでもない。自分の得意分野が1対1なのは分かっているが、だからといってこの戦いで役立たずになるわけにはいかない。
必ずリイアさんやクロマさんを勝たせるために。
全員必死だ。どこも余裕なんてない。自分たちで解決しなくてはならない。
(あと何分耐えればいい!)
リンは二体目も倒して、連戦を続けるのであった。
ヒマリ達の方はリンと比べると少し余裕があった。そうはいってもリンの方を助けられる余裕はない。そんなことをすればすぐにこっちが崩壊する。ヒマリはゴブリンと戦ったときと同じく地面をぬかるませ、オークの動きを鈍らせていた。そのおかげでリンとは違い相手を全員同時に相手する必要がないため余裕が生まれた。
(面倒な相手……)
とヒマリはようやく倒した一匹のオークを見て思うのであった。窒息させれば耐久力なんて関係ないと思っていたが、単純なパワーが高いため、少ない水だと覆っても破られる。そのため同時に二体が限界であった。オークはもともと鈍足だが、地面がぬかるむことによって歩く速度は亀のように遅くなった。
そのためヒマリは近づいてくるオークを追い払うより、自分が逃げたほうが早いと結論付け、いつもは護身用の水も攻撃に使うことで同時に三体まで水で覆うことができるようになった。ヒマリは魔法を継続させながら頭の中で計算する。
1体倒すのに大体1~2分、同時に3体で相手は約40体、そうなると……
「……約20分か」
ヒマリはほぼ全力で魔法の使用を続けている。はたして自分が持つだろうかとヒマリは少し心配するのであった。
残りのリイア隊は少し他とは違っていた。リイア隊にはゴブリン(数十体)とアーチャーモンスターしかいない。リイアたちとオークたちは衝突する。しかし、リイアは衝突した瞬間
「いったん下がれ!」
と命令し、すぐに後退し、再び距離を取って、
「全軍突撃!」
衝突を繰り返す。リイアはアーチャーモンスターを活かしてオークの数を減らそうとしたのである。しかし、体に矢が刺さっても動くオークを見て
「……まじかよ」
と呟くのであった。中には顔面に矢が刺さっても動き続けるオークもいた。だが、大体のオークは顔面に矢が刺さると倒れて動かなくなる。
リイアは後方を確認する。後方には戦闘が激化しているリンとヒマリの部隊。
(あと四回が限界か……)
あまり下がりすぎるとリンとヒマリの部隊が危なくなる。その間に一匹でも多くのオークを倒しておく必要がある。時間を稼ぐためには。
リイアはさらに二回ほど衝突と撤退をした後に、相手の軍隊を睨むように見る。
(さて、そろそろ……)
異変が起こり始めてもおかしくない頃だと思うのだが……
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オークの男はその報告を聞いて上機嫌であった。三か所で行われている戦いの一か所はとても優勢であるとのことだった。
(当然の結果だ)
と男は思うのであった。1~4階層の寄せ集めの軍隊できちんと訓練されているオークたちを倒せるはずがない。兵数も個の実力もこちらの方が上なのだから。
「そのまま叩き潰せ!」
とオークの男が命令したその時
「「申し上げます!」」
と二人のオークがやってきて、状況を伝える。どうやら、一か所は膠着状態でもう一か所に関しては押され気味だというのである。
(信じられん!)
なぜ押されるのだ! あんな雑魚の寄せ集めに!
「第二部隊の一部を応援に回せ!いいな!」
男がそう不機嫌に言い終わるとさらに数体のオークがやってきた。
「大変です!南の方角にて一体のモンスターが第一部隊を突破しました!現在第二部隊が応戦中です!」
「同じく北東にて一体のモンスターが第一部隊を突破しました!さらに、第二部隊もほとんど無視して、どうやら階段に向かっているようです。いかがいたしましょう!」
「北の方角にて火災が発生しました!どうしましょう」
「同じく北西にて火災が発生しました。原因と思われるファイヤーバードは逃走されました、いかがいたしましょう!」
「同じく南の方角で!」
「同じく南東にて!」
「待て!何が起こっている!」
落ち着け、状況はどうなっている。
まず、南西の戦闘は優勢、南東の戦闘は膠着状態、北の戦闘は劣勢、南でモンスター一体が第一部隊を突破、北東で階段に向かう一体のモンスター、あちこちで火災が発生…。原因のファイヤーバードは取り逃した。……というか、
「火災の報告なんぞ要らん!どうしようか?さっさと消火しろ!」
「わかりました、火災発生時には消火するように命令いたします」
「それと、南と階段付近に第三部隊を回せ!特に階段には絶対に行かすな!」
オークの男の命令に従い、全員退出する。男はいらだっていた、なぜそんなことをいちいち聞くのかと。火災が発生した? 消火しろや。そう思っているとさらに別のオークがやってきて申し上げる。
「大変です!北の第一部隊が崩壊しました!どうやら北東の階段に向かっていたモンスターは途中で進路を変えて北の部隊を襲撃したようです」
「なんでそうなる!」
オークの男は机をたたき壊す。
「今すぐ第二部隊で応戦しろ!足りなければ第三部隊をあてろ!」
オークはそう言って、退出するように命じたが、
「……ですが、北側の第三部隊のほとんどは階段の方に向かったのでは?北側にほとんどの兵がいませんが……」
「今すぐそいつらを戻せ!そして北側にの援護に回らせろ!」
オークの男はもはや声を荒げ怒鳴っていた。そして再度退出するように言ったのだが……
「失礼します!オール様!各地で発生した火災の消火は不可能です!それにもかかわらず、オークたちが消火をやめません!今すぐに命令を変えてください!」
オークの男はついに怒り狂い、目の前の無能な部下を殺した。
ポンコツどもが!
なぜ俺が一から十まで伝えないといけないんだ!
オークの男は命令を変える。『皆殺しにせよ』と
細かい策はもはやどうでもいい
そもそも策など不要だったのだ
普通に正面から戦っても勝てるのだから
そして、オークのボスは自ら戦場に赴くのであった
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オークたちの動きが変わった。今までは柵の外で待ち構えていたオークたちも私たちを目掛けて動き出す。リイアはその様子を見て満面の笑みで笑うのであった。クロマはリイアの軍師としての才能を恐れた。
(……たった数分で)
劣勢を互角に変えた。おそらく何日もかけて考えられたであろう策を一瞬で崩壊させた。デルと策略に関して互角? あまりにも遠慮しすぎである。
少なくとも戦闘に関しての策略はデルなんか比べ物にならない。クロマは思うのであった。
(リイアがラスボスならこのダンジョンはきっと……)
クロマは「フフッ」と小さく笑うのであった。
「そのままプランAに移行しろ!」
私はそう伝え、その後策がひとまずうまくいってよかったと安心する。
あいつらは侵入者を殺す、もしくは自分の生存のために必要な行動以外を命令されなければ絶対に行わない。自分たちで判断することはできないのである。
そこで私は考えたのである。情報過多でリーダーに混乱を引き起こせばいいと。囲う側の唯一のデメリットである情報共有に時間がかかることもついでに利用できる。囲う側はそれこそ上空から見下ろさないとどこで何が起きているのか瞬時に自分で判断できないからな。
どの部隊にも入っていないライヤとクロマには第一部隊の囲いが薄くなったところを突破するように言った。クロマにはできれば階段に向かうふりをするように頼んだ。それとフェニにはこっそり柵の近くで火炎吐息をして火災を起こすようにお願いした。
その作戦がかなりうまくいったようでオークたちが混乱し始めた。おまけに柵とか壊せるし一石二鳥である。
そんなことを思っている間に全員集合する。モンスターの数は少し減ってしまったが被害は思っていたよりも少なかった。
「このまま、階段に向かって一点突破する。リン、決まってたらでいいのだが、私達が九階に行ったあとはどうするつもりだ?」
少し傷ついているが、特に問題なさそうなリンは
「私はやられっぱなしは大嫌いなので、やられたことをそのままやり返すつもりです」
と言い、策はあると断言した。ただし、そのためにはヒマリに少し頑張ってもらわないといけないらしいのだが……
「……ヒマリ、大丈夫か?」
ヒマリは明らかに疲れている様子であった。しかし、私に心配されたことが不満だったのか
「大丈夫です!まだまだ戦えます!」
といい微笑むのであった。リンも心配して「無理はしないでね」と言ったが、「少し休めば大丈夫です」と言ってきかなくなったのでこれ以上は何も言わないことにした。
「……リイア、ライヤ。行くよ」(クロマ)
クロマが声をかける。……そういえば私たちに他人を心配できるほどの余裕はなかったな。
「ライヤさんもいけますか?」
「準備運動は万全だ。いつでも行けるぜ!」
こうして私たちは最下層への階段の方へと向かうのであった。
いよいよラスボス…?