これもきっと何かの縁 Ⅱ
後編です
新しい仲間の紹介は次回あたりにでもまとめて紹介します
二軒目も同じく表向きは防具屋であり、相変わらず試着室に隠し通路があるのであった。二軒目の店主は小太りのおっさんであって見かけは優しそうな人であった。まあ、見かけは……ね?
そしてモンスターの待遇も大体同じであった。心のどこかであそこだけが特別酷いことを期待していたがまあそんなことはなかった。ちなみにこのおっさんも私達を完全に放置している。この業界の人はみんなこんな感じでやる気がないのだろうか。まあその方が都合がいいからいいんだけど。
さすがに二軒目なので私も冷静に現実を受け止めることができた。一方でこの現実を受け入れてしまってはいけないのでは? という感覚もあった。
私は危うくいつもの癖で長考しかけたがライヤさんの「それじゃ、よろしく」の声で我に返った。
そんな個人的な話は後だ。
「私は君たちを買いたい。雇いたい。だから話を聞いてくれないか?」
私とこのモンスターたちはもしかしたら同じではないのかもしれない。だから私はもう同情なんて求めない。
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「……というわけだ。それでモンスターを雇いたいんだが、何か質問とかあるか」
「そもそもいくらぐらいのモンスターがいいんだ?」
たしかにそれを先に提示するべきか。さっきと違って余裕があるわけでもないし。
「7300ゴールドしかない。だから高くて7000ゴールド」
私の答えに、目の前のモンスターはため息をした。
「ここは比較的高めのモンスターの売買が主流だ。いわゆる『こうきゅうひん』の店だ。ここのやつらは最安値で7000ゴールド近くする。俺も協力したいのだが俺は12000ゴールドだ。ほかのやつらも俺ほど高いやつは稀だが10000ゴールド越えは普通だぜ」
「ええ⁉」
そんなの聞いてない!
「試しに聞いてやろうか?オイ!この部屋のやつらで7000ゴールド以下のやつ!動け!」
すると20体近くいる中で動いたのはたったの一匹のモンスターであった。そのモンスターは私と目が合うと
「だけど俺は雇われるなら貴族がいい。悪いが協力はしたくない」
と言った。そうですか。……ていうか私もあんたを雇いたくないよ。
だってお前ゴブリンだもん!
隣の人型のモンスターの場所も7000ゴールド以下は二人だけ。しかも二人とも戦闘はできないらしい。……困ったな。それなら前の店で三人雇えばよかったな。そう思いつつ、奥の部屋にそっと目をやる。
先程の店でももう一つの部屋があった。しかし中は見なかった。部屋に入ろうとしたときにカムイとリンから忠告を受けたのだ。
「この先の部屋にいるのは子供のモンスターと女のモンスターだけだ。それもどいつも戦闘向きではない。多分、あんたが求めているようなモンスターはいない。中に入っても悲しい気持ちになるだけだ」
私は一瞬中に入るのをためらったが意を決して中に入ってみることにした。
この部屋にいるモンスターは他の部屋のモンスターとは違い壁から離れられなくなっていたり檻に入れられていなかった。ただ足枷とおもりがついているだけ。動こうと思えば動けるのだろうが誰もピクリとも動かない。そんな気力はなくなっているのだろうか。
この部屋にいるモンスターはほとんどが実験や遊戯のために用いられる。言ってしまえば実験用マウスみたいなものだそうだ。そのため戦力としては期待できないモンスターがほとんどである。ただしこの部屋にいるモンスターは他の部屋のモンスターと比べれば安いモンスターが多かった。……っといってもそのほとんどが子供のモンスターなんだけど。
たしかに戦闘はできないかもしれないけどフェニやリキ、あわよくばちーちゃんレベルの子供がいないかと話を聞いていく。しかし、ほとんどの子供がそもそも「戦闘ができるかどうかも分からない」のがほとんどで中にはそもそも会話すらままならないモンスターすらもいた。私があきらめずに子供たちに聞き続けていると壁にもたれかかっていた女のモンスターの一人が
「……うるさいな。そこにいる子供はみんな同じだ。あの部屋の隅で動かないやつ以外はな」
私は指をさすほうを見るとそこには一人の少女がいた。物陰になっていて気が付かなかった。人間なら7歳ぐらいだろうか。
「あいつはそれなりに魔法が使える。だが、そいつは自殺を何度も試みるようなモンスターだからな。役に立つかは知らないぞ」
私はその子に近寄る。私がしゃがんで目線を合わせてから初めてその子は顔を上げる
「少し聞きたいことがある。いいかな?」
目の前の少女は再び顔を膝に当て、隠した後に「勝手にどうぞ」と言った。
私は一通り話し終えた後、「何か聞きたいことはある?」と尋ねると
「6100ゴールド」
「……うん?」
「私の値段。前に聞いたのが二か月前だから今はもっと安いかも」
「君の意思はどうなんだい?」
「私は死にたい」
少女は即答した。まるで聞かれるのを予想していたように。
「なぜ、死にたい?」
「こんな生活、もう嫌だ。たとえ誰かに買われても、実験のために使われるだけ。私に自由な未来なんてない」
「お前!それを言うなと何度も言ってるだろ!いよいよ精神がくるってしまう!」
先程の女のモンスターが先程とは違い声を張り上げ注意した。
……そうかモンスターたちが何とか冷静でいられるのは本当に僅かながら「もしかしたら」と希望を抱いているからなのか。対してこの子は現実を受け入れているのか。子供ながらにも……
「君はもし、『死ぬかもしれないけど生き残ればこんな生活とおさらば出来る』って言ったらついてくる?」
「……それが本当なら、ね」
「じゃあ君を買う。ただし、自殺はするな。その約束が守れるならだけど。どうする?」
すると、再び顔を上げて私をしばらく見た後に
「あなたが嘘をついていないなら自殺はしない。それでいい?」
なんだ意外と会話もできるし頭も回るいいモンスターじゃないか。
私は三人目にこの子を買うことにした。
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私は店主に購入の意思を伝え、その子を買った。もちろん交渉をして一割引きしてもらった。ライヤと共に店を出る。ライヤは私に
「無理して買うことはなかったのに。いいのか?」
と耳打った。……たしかに私が強引に買った感じがするけどまあいいじゃない。
この子も相変わらず、店を出る前に足枷を外したら
「えっ、いいの?」
と驚いていた。なんだかその表情は少しかわいかった。クロマと違ってほんとに無邪気な女の子って感じがした。……あの子はちょっと特殊だからね。見た目のわりに大人っぽいところもあれば子供っぽいところもあるからね。
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さて武器屋モタにつくと中にはクラモさんがいた。
「クラモさんすみませんこの子もお願いしていいですか」
「大丈夫ですよ。それと三人は店の裏にいます。なんか色々やっています」
なにか嫌に予感がしたので三人を置いて店の裏に回るとカムイとリンが組み手をしていてクロマはそれを片目に魔導書を読んでいる。
「ちょい待ち!二人ともいきなりそんなことして大丈夫か?」
二人は組み手をやめて少し照れ臭そうに話す。
「いやぁ。ずっと体を動かせなかったもんなんで自由になった嬉しさのあまりやってしまいました。すいません……」
「私も同じく体を動かしたくて。カムイが相手をしてくれるということなのでついついやってしまいました」
元気そうでなによりです。
「アハハ。それにしてもリンさん強すぎますよ。いくら自分の得意分野でないにしてもここまで一方的にやられたら自信を無くしちゃいますよ」
とカムイは無邪気に笑う。……まあ、問題ないならいいけど。
そんなことを話しているとクロマが私に目線を向け
「……リイア遅い。おなかすいた」
と怒られた。お前、大して何もしてないくせに……
今更だがクロマといいカムイといいリンといい…あとはリキもそうだな。それとライヤさんは微妙だな。
何で私の周りにはマイペースなモンスターが集まるのだろうか……
まあ楽しいから別にいいんだけどさ。なんかそういう能力があるんじゃないかと疑いたくなるよ……
次回、ダンジョンに到着…