表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

義務は果たすべし

 高貴なる義務

 そう呼ばれる考えがある。



 地位や立場を持つものは、それに応じた義務があるというものだ。

 それはそれでご立派な考えだとは思う。

 しかし、なぜそんなものを強いられるのか?

 王子にはそれがわからなかった。



 義務を果たす事で何が得られるのか?

 したくもない事、やりたくもない事。

 それをする事で得られるのは何か?



 国は保たれるだろう。

 だが、それが何になるのか?



 国を保つ事で、安全圏を確保出来る。

 少なくとも外国の侵略はない。

 国内においても、犯罪の取り締まりなどで安全地帯が増える。



 そうした安全地帯において、平和に人は暮らしていける。

 平和であれば、田畑を耕し、牧場で牛馬を飼える。

 資源を採掘し、職人が道具にしていく。

 商人がこれらを売り歩き、あまなく物品が行き渡る。

 戦争・騒乱の世の中ではこうはいかない。

 平和な場所があることで、人は平穏無事に日々の営みをしていける。



 本当にそうなのか?

 王子には疑問だった。



 王侯貴族は民衆から税金という形で冨を収奪している。

 教会は嘘八百の神や仏、あの世を使って民衆を洗脳して冨を巻きあげてる。



 農工商といった者達も、有力者が弱者から冨を吸い上げてる。

 更に強力な有力者にわいろを渡して利権の確保をしている。



 どこにも平穏無事はない。

 戦争や騒乱にはなってないだけだ。

 揺らぐ事のない、強固な収奪・強奪の機構が作られてる。



 そして全てを失った者達が犯罪者になり、平穏に生きてる者達から奪う。

 時に権力者や統治者、富裕な者達から。

 あるいは有力者と手をつなぎ、居場所を確保している。



 平和な世界といいつつ、内情は悲惨なものだ。

 こんな国を保つためにどんな義務を背負えばいいのか?

 王子にはさっぱりわからなかった。

 無理や無茶をしてでも守らねばならないものなのかと。



 とてもそうは思えなかった。

 秩序だった悲惨な世界。

 誰もが地獄に陥る体制。

 そんなものを守る事が高貴というのだろうか?



 もしそうならば、高貴な義務などいらない。

 それでも義務なのだというならば、それにふさわしい人間が守れば良い。

 幸い、そのための人材は国の中にちゃんといた。

 それを王子は後任の大臣に据えた。



「好きにやってくれ」

 大臣の椅子に座った者達に王子はそう言った。

「何をするかは君たちの自由だ。

 全てをまかせる」

 白紙委任状。

 やるべき事を何もかかないで委任する。

 何をするかは委任された者の自由。

 そんな宣言をして、なおかつしっかりと大臣への信任状として渡す。



「……よろしいので?」

 さすがに大臣の一人が尋ねる。

 後ろぐらい噂に事欠かない人間だ。

 実際、様々な悪事を平然と行ってる。

 自分の利益のために、人を平気で踏みにじってる。



 そんな人間でもさすがに面食らった。

 自分のような人間に全てを任せるのかと。

 いまだに信じられないという気持ちと。

 もし本当にそれでいいなら、という期待。

 そんなものが顔に浮かんでる。



「かまわん」

 即答が返ってくる。

「君等の好きにしてくれ。

 どうなろうとかまわん」

 あまりにもあっさりと言い切る王子。

 それを聞いて、大臣になった者達は薄気味悪い笑みを浮かべていく。

「それならば……」

「ただし」

 王子は一つだけ条件をつける。



「あがった利益の一割は王家によこせ。

 それで玉璽を好きなだけ使わせてやる」

 玉璽とは国王専用の判子だ。

 これが押されたものは、国王が認めたという証明になる。

 通常は、国王の命令書や法律などの承認などに使われる。

 それを好きに使っていいという。

「おお!」

 大臣達はわきたった。



 玉璽が好きに使える。

 それは、国内において好きな事が出来るという事。

 今まで表に出来なかった様々な事が出来る。

 国王の名のもとに。

 これほどありがたい事はない。



「じゃあ、玉璽はここに置いておくから。

 あとは好きにしてね」

「は!」

 そう言うと王子は会議室を出ていく。

 大臣達は一斉に立ち上がると、その後ろ姿を最敬礼で見送った。

 欲望づくめの輩であるが、利益をもたらしてくれる者には頭を下げる。

 それくらいの礼儀はわきまえていた。



 その視線を背中に受けながら王子は思う。

 本当に分かってるのかと。

「どうすんだろうね」

 誰にともなく呟く。



 好き勝手して良いというのは間違いない。

 玉璽を使ってどんな無茶な命令や法律を通してもよい。

 それで得た利益を還元してくれるなら。

 王子としてはそれで充分だった。



 ただ、好き勝手やった結果がどうなるか。

 その事について大臣にした者達がどう考えてるか。

 それが気がかりだった。



 何でも思い通りになると思ってるのかもしれないが。

 思い通りにやれば、相応の報いがやってくる。

 それをどれだけ自覚してるのか。

 さじ加減を間違えれば、自分達が悲惨な目にあう。



 そもそもとしてだ。

 収奪も強奪も、奪うものがあってこそ。

 あらゆるものを奪い尽くせば、もう何も残らない。

 何もない所から何を奪うつもりなのか?

 その事を理解してるのかどうか。



「まあ、いいか」

 王子からすればどうでもいい事ではあった。

 大臣達が何をどうしようと知った事ではない。

 利益が自分の所に入ってくるならそれでかまわなかった。

 少なくとも、寿命を迎えるまで生きていられれば。

 それが出来るなら、他がどうなろうと知った事ではなかった。



 それよりも、何もしないで儲けが入ってくる事の方が重要だった。

 腐っても国家一つがあげる利益の10パーセントが手に入る。

 正直にそれだけ振り込んでくるかはわからないが。

 たとえ幾らかちょろまかすにしても、個人レベルでは莫大な利益が手に入る。

 多少の申告漏れは見逃すつもりでいた。

 そもそも、正確な収益を追求するつもりもない。

 そんな事をするのも手間だ。

 それなりのものが振り込まれるなら、それで構わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


活動支援はこちら
こっちにはない小話なども出していく予定

支援サイトFANTIAを始めたので
https://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/493807952.html
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ