6話 さいかい、
アナウンスがはいり電車が駅に到着する。屋根すらない田舎の無人駅のようなホームには誰もおらず、今到着した電車にも誰一人として乗っていない。しばらく停車していた電車には誰も乗ることはなく電車は駅を後にする。
瑠奈はここと似た場所を知っている。それとなく前に禍津日という子狐のような姿をした神様に促され降りた駅を思い出させる。
瑠奈にとって禍津日との旅は苦い思い出の一つである。子狐の姿で幼女の姿にもなれ、人懐こい性格であったからか瑠奈は簡単に気を許してしまった。その結果、異界で殺されまた別の異界で一人ぼっちになってしまったのだ。
また電車がやってくる。今度は反対の方向から現れて駅に止まることはなく、物凄い速さで通り過ぎて行った。中には先程のものとは違い人がぎゅうぎゅうに押し詰められている。だが中の人達は皆一様に笑顔を浮かべて合掌しており、そのほとんどの人達は老人であった。
(不気味すぎる…、もうやだ…)
瑠奈は今にも泣き出しそうだった。「あの時廃屋になんて入らなければ、死のうとなんてしなければ」そればかり考えてしまう。
こうして何度も電車を見送りその度に後悔し瑠奈はある事を思いつく、「このまま次に電車が来たら線路に飛び降りよう」と。
つい先程まで死のうとした事を後悔しておいて今から死のうとしているなんてと瑠奈は自分にツッコミを入れて笑う。
そんな最中アナウンスが流れる。
(今だ…!)
ホームから勢いをつけ、飛ぶ。ちょうど瑠奈の左前方から電車がはいってくる。運転席には誰も座っておらず、誰とも目が合うことはなかった。瑠奈は心の底から安堵した、この不気味な場所で不気味な電車を運転する運転手等見たくも無い、目があうなどもってのほかだ。それでも目をつぶる事は更に恐怖を感じて出来なかったが。
電車が瑠奈と接触する。あと少し、あと少し、瑠奈は世界がスローモーション再生のようにゆっくりと流れていくように感じた。だからこそ突然後方から凄まじい強さで引っ張られ驚きのあまり変な声を出してしまった。
その後駅のホームに強く尻もちをつきつつも自分を引っ張ったであろう犯人の方を向く。
そこにはずっと自分の頭の上に鎮座していた子狐がいた。その顔はいかにも「不機嫌です!」と言っているようだった、そんな子狐こと禍津日からの怒りの説教が瑠奈に浴びせられる。
「瑠奈よ、お主何をしておるのじゃ!こんな所で死んでしまってはお主の魂はどこへも行き着くことなく消滅してしまうのじゃぞ!」
禍津日は幼女の姿で飛んだり跳ねたり、腕をブンブン振り回したりしながら全身で怒りをあらわにしている。
だが瑠奈としてはこんな事をしている原因は禍津日にあるので素直に「はいそうですか」と言うことは出来ない。
「元はと言えばあんたのせいでしょうが」と瑠奈が文句を言えば禍津日が「ポータルに迷いこんだお主が悪いのじゃ!」と反論、そうやってしばらく二人は口喧嘩をしていた。
その間にも電車はホームを通り過ぎて行く。
左側から入ってくる『ホームに止まる電車』は数が少なく、乗客もいない。
一方で『ホームに止まらない電車』はほぼ五分おきにやってくる、乗客はたまに怪我をしたり病人のような顔をした若者もいるがほとんどが老人である。
口喧嘩に疲れた瑠奈が禍津日にその電車について聞くと禍津日は「元の世界に帰っても誰に言うでないぞ」と念押しして話し始める。
「ここは異界。そしてその電車は死した魂を死後の世界へ送るものでの、反対の電車は生まれ変わった魂をそれぞれの世界へ送るものなのじゃ。それと…」
言葉を続けようとしたところでアナウンスが入り禍津日が話すのを辞める。そして親指でクイッとホームに入って来た電車を指すと「あれに乗るのじゃ」と言い、瑠奈の左手を掴むと電車に引っ張っていく。
瑠奈にとっての禍津日は今の悲惨な現実の原因であると同時にこの現実を打開する希望のようにも感じる。
だからついて行く。
決して許した訳では無いが、禍津日のおかげで瑠奈は再び生きる希望を見出すことができたからだ。
また禍津日にとっても瑠奈は希望なのだ。この先殺すことになろうとも、瑠奈は自分を信じてくれるだろうという強い確信がある。
そんな複雑な関係の二人を乗せて無人の電車は異界駅を後にした。
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