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5話 2度目の終わり。

ぺちぺち、ぺちぺち、バシッ、ぷにぷにの肉球の感触を満喫していた瑠奈(るな)は唐突な小さい手によるビンタをくらいよろめく。最初のぺちぺちで目を覚ました瑠奈だったが、子狐モードの禍津日(まがつひ)の肉球ぺちぺちに心地良さを覚えしばらく堪能していたのだ。そうしたら突然の幼女モード本気ビンタを食らったという訳だ。

瑠奈が起き上がりニッコリしている禍津日に抗議をいれるが、禍津日にサラッと流されてしまった。そんな禍津日は上の方を指さし「早く登るのじゃ〜」と上機嫌で小躍りしている。

瑠奈はこれ以上の抗議は無駄だと考え指示に従う。長いようで短い禍津日と瑠奈の旅ももう少しで終わろうとしている。

山は無風の状態であるのに終始木々の揺れる音がしている不気味な山であった。時折人とも動物とも判別出来ない呻き声がどこからともなくこだまする。子狐になった禍津日を頭から胸元に移し抱きしめる。山道が子狐一匹抱えていても苦ではないほどのものであった事がこの不気味な山の登山でも不幸中の幸いであると言えるだろう。

山道を一歩、また一歩と奥へ上へと進んでいくうちに呻き声の頻度も大きさも多く大きくなっていく。瑠奈は次第に抱きしめている禍津日に込める力も強くなっていく。

それでも前へ進む。

瑠奈が「死のうとして」始まった旅だが、今は「死ぬのが怖い」と思う。一度自分の命を失いかけた瑠奈だからこそ、もう簡単に命を投げ出したりはしたくないのだ。否、できないのだ。もう瑠奈が命を投げ出すような事はしないだろう。

瑠奈はそんな事を思いながら山道を登り、ついに山頂にたどり着く。その山頂には一軒の家がポツンとたっていた。それもそれまでの明治時代に近かった街並みには似つかわしくない、どこにでもある現代的な二階建てのモダンハウスである。

そこでふと禍津日が胸元からぴょんとぬけだし空中で幼女の姿になり一回転して着地する。しれっと両手をあげて決めポーズまでしている。


「ここなのじゃ!ここの二階の奥の部屋に向かうのじゃ〜」


どうやら目的地に到着したようだ、禍津日も興奮気味だ。ひとまず禍津日の言う通りに二階へ進む。中に入って改めて思うが、


「ここ、明らかに現代の家じゃんよ」


「そうなのかの?妾お主の時代に疎くての〜あとここはお主の時代のものでは無いのじゃ、あくまでただのポータルの一つなのじゃ」


現代の家に私が興奮し幼女の禍津日を背中から小突きながら話しかけるが、禍津日は如何にも「興味なし」という感じである。むしろポータルにたどり着けた事に対して興奮し、瑠奈の話は二の次という気まで感じさせる。


瑠奈と禍津日はお互いに別の事に興奮しながら普通の現代の家を二階へと向かっていく。

二階へ至るまでも特段不思議な事が起こらず安全にポータルのあるという部屋に入ることが出来た。

ポータルのある部屋は所謂子供部屋のような作りでピンクを基調とし、熊や犬、猫のぬいぐるみが勉強机の上に飾られておりベッドには巨大な雪だるまのぬいぐるみが横たわっている。

しばらく部屋の中を探索していると禍津日があるものを瑠奈の元へ持ってくる。それは空の水槽である。中には何も入っておらずまるで新品のように綺麗だ、だが水槽からは長期間使用され、水換えもろくにされていないと感じる悪臭がたちこめている。

禍津日がその水槽を空中でひっくり返すと何も入っていなかったはずの水槽から『苔色で凄まじい悪臭のする水』が溢れ始めた。その水はすぐさま瑠奈のくるぶし程の水位まで達する。

瑠奈は咄嗟のことに呆気に取られていたが水の放つ悪臭に思わず鼻をつまむ。あまりの匂いにむせながら禍津日を探す。禍津日は勉強机の上から、苦しむ瑠奈を眺めている。その目からは何の感情も感じられない。


「瑠奈よ、妾は一足先に向こうで待っておるからの、巫女としてここでの役目を果たすのじゃ、これは妾のためであり、お主のためなのじゃよ。」


禍津日はそれだけ伝えると子狐の姿に変わり青白い炎に包まれ消える。その間も部屋は汚水が満たしていく、既に自身の胸程までに達した水位の中では瑠奈が自由に身動きをとることは叶わない。急いで部屋から出ようとしていた瑠奈であったがドアに到達する前に汚水が部屋を満たしてしまった。既に呼吸など出来るわけもなく、部屋の中を水の流れにされるがまま縦横無尽に振り回される。水中で必死に助けを乞うが、その声はどこにも届くことはない。

永遠とも思える一瞬の地獄の中、瑠奈はついに限界を迎えた。


「だれか、たすけてよ…もう死のうとなんかしないらさぁ…ゆるしてよ…私はここにいるよ…だれか、わたし…を、みつk…」


瑠奈はの耳は遠くから迫る汽車の音を聞いた。それは決して空耳ではないだろう。

読んでくれてありがとうございます。

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