4話 異世界の果て、
あれから瑠奈と子狐の禍津日は街の中心部を抜け巨大な川に架かる太鼓橋の前までやって来ていた。
川はごうごうと音を立てて流れている。時折何かが橋の橋脚にぶつかるような激しい衝撃音もする。
橋の上にはあかりの類は見当たらないが煌々と輝いている場所がいくつかあり、橋を渡る際に不便ということはなさそうである。
禍津日は橋を渡るよう指示を出すが、瑠奈としては今までの場所よりも一層不気味なこの橋をすんなりと渡る事は難しい。
あまりにも瑠奈が橋を渡ろうとしないからか、禍津日が苛立たしいとばかりに瑠奈の顔を叩く。今は子狐の姿だが先程までのペシペシより数段威力の高いパンチに瑠奈はビクリとする。瑠奈が若干怯えながら頭上の禍津日を見ると禍津日はどこか申し訳なさそうな顔をしていた。
そんな禍津日の表情を疑問に思っているとふいに何処かから鈴の音が響き始める。シャンシャンといくつもの鈴の音があちらこちらから聞こえる。脳に直接響くようなとても不快な音だ、その鈴の音は後方、左右から少しづつ近づいているように感じる。
鈴の音が近づいている事がわかった禍津日が子狐から幼女の姿に変わる、禍津日は子狐の姿では言葉を発する事ができないが、幼女の姿であれば言語を発する事可能である。禍津日がこの姿をとったということは瑠奈に伝えなければならない事があるということである。
「早く!早く橋を渡るのじゃ!アイツらに追いつかれるとマズイ、あいつらはこの橋を渡れん、早くするのじゃ!」
必死に先を急かす禍津日を見て瑠奈も決心をする。何がまずいのかは分からないが何かを知っていそうな禍津日がマズイと言っているのだ、瑠奈は頭の上の禍津日を抱え不気味な太鼓橋を駆け抜ける。
橋を渡っているあいだも橋の下、本来川であるはずの場所からも鈴の音がし、その音もだんだん大きくなっている。橋の終わりはまだ見えない、だが謎の光に照らされた場所の数が橋を渡った時よりも少なくなっていると気づく。それでもお構い無しに走っていた瑠奈だが、ついに照らされていた場所がなくなり、真っ暗な橋の上を走ることになってしまう。ひたすらに鈴の音の中に真っ暗闇の橋の上を走り続けていたが急に目の前に灯りが見える。そのまま灯りの元に滑り込む。そこで橋を抜け地面の上に顔からスライディングしてしまう。禍津日から避難の声が聞こえるが瑠奈は足と顔の痛みから蹲っていた。次第に禍津日の声は非難から瑠奈を心配するものに変わる。それでも半泣きの瑠奈を本気で心配になった禍津日が優しく抱きしめる。
「お主はよく頑張ったのじゃ、ほれもう泣くでない、あとはこの山を登るだけじゃ」
禍津日の優しい抱擁と言葉に感動しさらに涙が溢れ、抱きついていた瑠奈だが禍津日の最後の言葉を聞き逃すことはなかった。だが聞き間違えたのかと思い、禍津日の顔を見上げ聞く。
「山、登るの…?」
「?登るのじゃ」
何を当たり前の事を…と禍津日が返答する。
その返事を聞いた瑠奈の顔が絶望に染る。なぜなら今渡った橋は500m程の長さがある、その橋を全力疾走した後での登山宣言である。ガクりと瑠奈が膝から崩れ落ちる。そんな瑠奈を横目に禍津日は子狐の姿に戻り瑠奈の頭に座る。そしてあろう事かそのままスースーと寝息を立て始めた。色々疲れ果てた瑠奈も近くの木の下で仮眠をとることに決め、移動する。その間も禍津日は器用に頭にしがみつきずり落ちる事はなかった。
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