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2話 途中下車。

「だれか!」


半狂乱で目を覚ました瑠奈(るな)は辺りを見渡し混乱する。廃墟で謎の部屋に閉じ込められ朽ちていく部屋の中で気を失い次に目を覚ました時そこが『電車の中』であったら誰であっても混乱するだろう。

電車内には瑠奈を除いて人っ子一人いない。電車内の掲示板には『次の駅は 灤の綟麼す』と書かれているが読む事が出来ない。電車内の広告も読む事が出来ない文字、およそ人間とは思えない身体構造をした人が透明な液体を飲んでいるモノしかない。


「これはヤバイ…!」


とにかく何とか脱出をしようと瑠奈は後ろの車両に移ろうとする。しかし後ろの車両は存在するのに移動するためのドアがない。透明な壁があるだけで後ろの車両に行く事が出来ない。

ただ後ろがダメなら前に行けばいい。前側の車両に移るためのドアは存在しているのだ、急いで前側のドアに移り開く。しかしそこに車両はなかった。そう、この不思議な電車の先頭車両は今現在、瑠奈が乗っているこの車両という事になる。


「う、運転手はどこ…?この電車、一体どこへ向かってるの…」


瑠奈がたった一人で混乱している中、電車の速度が落ちていく。そのまま電車は何も無いところで停車する。


『灤の綟麼すー、灤の綟麼すー』


低い男の声でノイズ混じりのアナウンスが流れる。電車が駅についたらしい事は分かるが窓から見える景色はいまだにトンネルの中である事を思わせる。

電車のドアが開くと、尻尾の先が二又に別れた白い子狐が乗り込んでくる。

子狐は瑠奈を一瞥(いちべつ)すると瑠奈の前の椅子にちょこんと座る。子狐が座るとドアが閉まり電車が出発する。


『ーーーーー』


再度ノイズ混じりのアナウンスが入る。その直後目の前に座っていた子狐が光に包まれ姿を変えていく。光が収まるとそこには桃色の着物に身を包んだ狐耳の幼女がいた。幼女は自身の白髪を左手で弄りながら瑠奈に話しかける。


「お主、運がないの、邪神の巫女に選ばれて、」


幼女は年相応な可愛らしい声とは裏腹にその見た目に似つかわしくない落ち着いた口調で言葉をつづける。


「お主は知らんじゃろうが、この電車は彼岸へと向かっておる、お主の命も風前の灯ということじゃ」


そこまでいい幼女はケラケラと(わら)う。

だが、いきなり「お前死ぬよ」と言われ嬉しい人間はいない、それも見ず知らずの幼女からの嘲笑付きとなれば尚更である。


「なにを知ってるの」


明らかに何かを知っている幼女を問い詰める。しかし幼女は瑠奈と目を合わせようとはせず懐から竹の水筒を取りだし水を飲む。

その態度に腹が立った瑠奈は再度問い詰めようと声を出そうとする。しかし幼女は飲んでいた水筒を瑠奈の方に突きつけ、瑠奈の話を遮るように話し始める。


「騒ぐでない、まったく、非常識な女じゃの、よいかお主は巫女。妾の巫女なのじゃ、妾の目的を果たす為に協力すればお主の命も助けてやろうぞ」


幼女はそう言うと立ち上がり狐の姿に戻る。そしてトコトコと瑠奈の足元まで歩いて来るとぴょんと飛び上がり瑠奈の頭に乗る。そして右前足で頭をペシペシ叩きドアを指さす。


「ここで降りる。ここが境界の最後の駅じゃ、助かりたいならここで降りるのじゃ」


幼女もとい狐の傍若無人ぶりには腹が立つが今は従う事にする。数時間前までは生きる事が嫌になっていた瑠奈だが今は違う。今なら生きたいと思う、自分の最後を体験しまだ死にたくないと思ってしまったのだ。


電車が微かなブレーキ音を停車する。また聞き取れないノイズまじりのアナウンスが流れ、ドアが開く。ドアの向こうはまだトンネルの中で真っ暗である。



「降りるよ」


「それでいいのじゃ」


こうして一人と一匹は電車から降りた。意外な事にトンネルにはしっかりと駅のホームがあった。駅名を示す駅名標の文字は読む事が出来ない。

それでも瑠奈は狐の指示に従い駅舎から出た。今はこの狐を信じるしかない。

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