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11話 月夜に子狐は笑う、

粉塵は夜空の星の光が見えなくなるほど濃くなっている。鬼のものであろう悲鳴が四方八方からこだましており、所々に鬼の死体や真紅の血がべっとりとついている。

足元に積もった雪はその上を走っても影響が出ることのない不思議なものだが鬼の血は違う。瑠奈(るな)を背負った禍津日(まがつひ)も時折足をとられては転びそうになっていた。

そんな中でも禍津日は瑠奈を落とすことなく走り続け、世界を繋ぐポータルの入口である駅舎へ向けて走る。ポータルの中は神かその巫女しか入る事は出来ない安全地帯である。また出口さえ見つかればこことは異なる世界へ向かうことも可能なのだが日中に見つける事は出来なかった。今回は場所が既に分かっている入口へ向かうしかないのだ。

駅舎まではもう少しである。だが既に粉塵が充満し、目の前すらも視認することが難しい。

ただ見づらい中でも禍津日はしっかりと敵の気配を感知し生き残っている鬼の不意打ちを回避する。完全な死角からの金棒による突きを滑り込むような姿勢で躱す。だが躱した先でさらに別の生物からの追撃をくらった禍津日は、瑠奈を取り落として家の壁を突き破り吹き飛ばされた。

瑠奈が攻撃による衝撃と突然の事に混乱している中、禍津日を攻撃した犯人であろう生物が近づいて来る。撒き散らされた粉塵によって見えなかった姿は瑠奈の目の前まで近づいてきたことでようやく露になる。

そこに立っていたのは蒼眼で、禍津日に似た白い髪をポニーテールのように結っており、金色に雪のような模様の入った着物に身を包んだ少女だった。禍津日よりも大人びた雰囲気を感じる(胸とか)。

少女は優しげな笑顔を瑠奈に向けると瑠奈の顔についた禍津日の血を自身の指でそっと拭き取る。さらに困惑する瑠奈に少年は落ち着いた声音で話しかける。


「災難だったねぇ邪神に魅入られるだなんて。でももう大丈夫よ、僕は穢れを(ただ)す神だから

。名前は神直日(かむなおひ)、よろしくね。」


「邪神って、禍津日ちゃんのこと?」


「他に誰がいるのかしら?大勢の人を殺して、僕の国でこんな厄災をばらまいているんだよ?」


「禍津日ちゃんはそんな事しないよ!適当なこと言わないで!」


「はぁ、まぁ信じないならいいけど、せめて邪魔はしないでね。【(くさび)】。」


「!?」


神直日が指で瑠奈の首筋をそっとなぞる。すると瑠奈は身体の自由がまるで効かなくなり、その場に崩れるように倒れ込む。その瑠奈を優しく抱き抱えると近くの家に連れ込みそっと床に寝かせた。家の中からでは外の様子が全く把握できない。


(禍津日ちゃん…!)


瑠奈はただ禍津日の無事を祈ることしか出来なかった。





吹き飛ばされた禍津日は家を三軒突き破り大通りに倒れていた。すでに都中を瑠奈を背負って走りまわり、鬼との戦闘も行った禍津日の体力はすでに限界が近い。

攻撃を受けた右腕は肘から手首にかけて有り得ない部分で湾曲しており、全身からは大量に出血してしまっている。立ち上がろうにも下半身に力が入らず上手くいかない。

そんな禍津日に神直日がゆっくりと近づいてくる。


「禍津日、この間はよくも逃げてくれたわね。でも今日はそうは行かないわ。」


「妾を殺した後、瑠奈はどうするのじゃ」


「残念だけどあの子も生かしておけないわ、あれでも邪神の巫女だからね。」


「なら妾は全力で抵抗するのじゃ…!」


禍津日は左手に気を溜めると神直日の方へとむける。だがその手は気を放つ事なく糸の切れた操り人形のように地面へ落ちる。


「【(くさび)】。貴方はもう詰んでる。もう助からない。死という運命からは逃れられない。」


「それはどうかの…?」


「ふっ、哀れな女狐。姑息で狡猾で穢れきった汚物。貴方にはもうどうしようもないでしょう?」


「妾は1人ではないのじゃ!だから…」


「もういいわ。僕、貴方の事が大嫌いなの、この世界をめちゃくちゃにしておいて楽に死ねるとは思わないでね。」


神直日は倒れて身を守る事の出来ない禍津日の腹を蹴りあげる。禍津日は血反吐を吐きながら身体が宙を舞うが、今度はその身体が渾身の力を込めて地面へと叩きつける。それを禍津日が気絶するまで繰り返した。

だがそれで攻撃の手が止むことはなく、神直日は禍津日の首を掴むと顔を地面へと幾度も叩きつけ強制的に意識を覚醒させた。目覚めた事を確認するなり禍津日の髪を掴むと無造作に引きづり、元来た道を戻りはじめる。


「…どこへ行くのじゃ…。」


「貴方が殺した人達の所よ。そこで懺悔しながら逝ってもらうわ。」


「あの…鬼達のことかの?」


「鬼?あれは数年前に貴方が振りまいた厄災でしょ?何を言っているの?」


「妾達はこの世界へ初めて来たのじゃ。本当なのじゃ…!」


「そんなくだらない嘘を。本当貴方は醜悪…」


ふと神直日がある一点を見つめて足を止めた。禍津日は何があったのかと神直日の視線の先を見る。既に辺り一面の粉塵は無くなっており月明かりが都を照らしいる、そんな中で一軒の家の上に大きな影が動いているのが分かった。


(狐…すごく大きいのじゃ…!?)


「な、なぜ禍津日が2人!?それよりも…」


「あいつ何か口に咥えておるのじゃ!あれは!」





ー時間は少し遡るー


禍津日を助けに行こうと必死に神直日の術から逃れようとしていた瑠奈の元へ衝撃の人物が訪れた。

それは白い長髪に狐耳、桃色の着物を着た少女だった、だが禍津日より背が高く胸が大きいが安堵に包まれていた瑠奈が気づく事はなかった。


「禍津日ちゃん!無事だったんだね!」


「気安く名を呼ぶでないのじゃ小娘。」


少女の言っている意味がわからず聞き返そうとした瑠奈だったが次の瞬間巨大な狐に変化した少女に身体に食らいつかれてしまった。


「ぐっ、がぁ…」


ボキ、ボキと骨の折れる音を響かせ、鋭利な歯によって瑠奈の身体は骨も肉も諸共引き裂かれだした。まず最初に左脚が身体から切り離され、ついで右腕の手首が無くなる。悲鳴を上げようにも声が出せない。

そんな瑠奈の事などお構い無しとばかりに巨大な狐は咀嚼を続ける。どうやら瑠奈の事は食事ではなく玩具としていたぶる気のようだ。


ーそして現在ー


禍津日は神直日へ頭を下げ瑠奈を助けるように頼んだ。このままでは瑠奈が死んでしまうと感じたからだ。


「頼むのじゃ!瑠奈を助けて欲しいのじゃ、妾の事は後で好きにするとよい、じゃが瑠奈は元いた世界へ帰してやりたいのじゃ!」


「…分かった。君は確かに僕の知る禍津日ではないね、弱すぎるし。僕が殺したいのはあの狐だよ。」


「感謝するのじゃ!」


「それと、あの子は助けるけど君は殺すからね。あの子へのお別れの言葉は考えておいて」


「のじゃ…」


神直日は瑠奈を咥えた巨大な狐へ向けて走り出す。一方禍津日は動くこともままならない為距離をとって隠れていた。本当なら協力したいが今の自分なら迷惑をかけてしまうだろう。それが分かっているから隠れる事しかできないのだ。

巨大な狐は瑠奈の咀嚼を続けている。数刻前までは必死に逃れようともがいていたが、既にピクリとも動かなくなっていた。

だがついに神直日は巨大な狐の元へたどり着く。


「これ以上の悪行はこの僕が許さないよ、禍津日。ここが年貢の収めどきだ。」


その神直日の話などまるで興味無しと言わんばかりに欠伸をすると口に咥えていた瑠奈を吐き捨てた。

お久しぶりです、読んでくれてありがとうございます。

投稿が遅れてすみません…

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