10話 嬲りて屠る、
ちょっとキツめの描写あります。
瑠奈は禍津日の足をマッサージしながらも家の外に注意を向ける。またマッサージされている禍津日も先程から険しい表情をしている。決して瑠奈のマッサージが下手くそという訳ではない、外を歩く足音が大きくなり増えているのだ。音の大きさから鬼であることに間違いないだろう。
禍津日はマッサージをつづけている瑠奈に声を潜めて話しかける。
「瑠奈、もうよい、辞めるのじゃ。鬼が集まってきておる、取り返しがつかなくなる前にここを出ようと思うのじゃ」
瑠奈は禍津日の話に無言で頷く、そして再びお姫様抱っこされるとそのまま眠ってしまった。禍津日もそうだが瑠奈は瑠奈で疲労困憊だったのだ。
禍津日は眠ってしまった瑠奈をお姫様抱っこしたまま京の都を駆け抜ける。幸運な事に鬼に気づかれる事はなかったが、周辺には鬼が少なくとも十体以上はいる現状は絶望的といる。
(まったく、幸せそうに眠りおって…)
瑠奈はスースーと寝息をたてて気持ちよさそうに眠っている。だが眠っている瑠奈を気遣う余裕が今の禍津日にはないのだ。全力疾走しつつ鬼に見つからないように時折急旋回や急停止を繰り返す禍津日の腕の中で瑠奈の頭もぐわんぐわんと揺さぶられる。そうなってしまうと瑠奈も眠っている訳にもいかなくなり結局数十分眠った後目が覚めてしまった。
「おはようなのじゃ、瑠奈。駅舎まではもう少し、といったところじゃ。」
「ぅぬ、あぁ、おはよぉございます、?」
「おーい、寝ぼけておるのかの?しっかりするのじゃ」
「ふぁい…」
「おい!瑠奈ぁ!起きるならちゃんと起きるのじゃ!!」
「!?は、はい!」
あまりにも瑠奈の寝起きが悪い事に、疲労からストレスの溜まっていた禍津日は怒鳴ってしまう。そしてその声に驚いた瑠奈が禍津日の腕の中で暴れた為に禍津日は瑠奈を落としてしまった。
落としただけならまだいいのだが問題は怒鳴った声に鬼が反応してしまった事だ。
禍津日の足元には地面に顔を強く打ち付け、蹲る瑠奈、前後左右にはその瑠奈に狙いを定めた鬼が集まってきている。
(まずい、これは非常にまずいのじゃ…!どうする!?アレを使うか?じゃが…)
思考は一瞬。禍津日にはこの現状を打破する切り札がある、出来れば切りたくない切り札が。
「瑠奈、この包囲を抜けるのは困難じゃ、そこで妾の切り札を切ろうと思う。嗅覚と触覚、味覚の中で最も要らぬものを今すぐ選ぶのじゃ!」
「!?ど、どういうこと?」
「はやく選ぶのじゃ時間がない!」
「あ、えっと嗅覚!」
「…わかったのじゃ」
禍津日は目に涙を浮かべながら瑠奈の鼻にふれる。瑠奈はくすぐったくてつい笑ってしまう。そんな瑠奈に禍津日は小さく「すまぬ」と呟き、
「嬲りて屠る。汝らが助かることはないじゃろう。【粉愁香怨】…!」
左手にエネルギーを収束させ鬼へ向け放つ。エネルギーの塊は鬼に当たると粉塵のように細かくなり拡散する。それを吸った鬼達は目を血走らせながら咆哮をあげるとその手にある爪で前身を引き裂き、腕に噛みつき血まみれになっていく。
鬼達は自身の血と仲間の返り血でその深紅の身体をさらに紅く染め上げ、瑠奈は鬼の返り血をもろに浴び続けあまりの光景に嘔吐する。胃には何も入っていないので空嘔吐を繰り返すのみだったが。夜の京の都は地獄とかした。
そんな瑠奈を禍津日は力任せに持ち上げると肩に抱えて走り出した。禍津日の純白の狐耳も尻尾も返り血で染まっているし、顔には引っ掻き傷が無数についており大変痛々しい。
粉塵は既に京の都の大部分を埋めつくしてあちらこちらで悲鳴のような咆哮があがっている。
夜はまだまだ続く。
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