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1話 一度目の終わり。

いつからそこにあるのか。ビルの立ち並ぶビジネス街『神野宮(かみのみや)市』には住人も観光客も誰一人として近づかない廃屋がある。

屋根や壁は長期間風雨に晒されて朽ち果て、庭は背の高い雑草で埋め尽くされている。その廃屋はポツンと時代から孤立したようにビル群の中に取り残されている。

廃屋には「取り壊し工事の作業員が全員行方不明になった」、「肝試しに入った若者5人が翌朝全員無残な姿で発見された」、他にも多くの噂があるが、総じて『中に入った者が不幸になる』という点で共通している。

そんないわく付きの場所に好きこのんで入るのは大抵「DQN」と言われる者や「廃墟マニア」と言われるモノ好きがほとんどである。彼ら彼女らは噂を信じておらずに廃墟に足を踏み入れそして帰らぬ人となる。この廃墟はよくある『雰囲気心霊スポット』ではない、紛れもない『本物』である。


そんな廃墟の前を毎日通学している、否、通学していた少女がいる。彼女の名前は「北村(きたむら) 瑠奈(るな)」。長期間散髪に行ってない為、生まれつきの茶髪は伸び放題、前髪は完全に目にかかっており、常に猫背でどこか他人を拒絶する様な雰囲気を醸し出している。一年前まではJKの現引きこもりである。

別にいじめにあった訳でも、何か大きな不幸があった訳でもない。瑠奈はある日学校をズル休みした、その日以降理由もなく休む事が増えいつの間にか不登校になったのだ。両親はずっと前から無関心であり小学生の頃は寂しい思いをしたが今はそれがありがたい。

瑠奈の母親は専業主婦だが日中は不倫相手の家に入り浸っている、そのため家の家事を不登校になった瑠奈に押し付けている。

瑠奈の父親は帰ってこない、何もしない母親に愛想を尽かしたのか瑠奈が小学生の頃に家を出た。今は家に生活費を入れるだけ入れ、どこにいるのか分からない。

両親がアレなせいで親戚とは絶縁状態。子供の頃に近くで見ていた大人が母親の為、どうしても大人という存在に不信感を抱いてしまう、だから教師とか近所の人達にもどこか距離をとってしまう。


瑠奈はこの世界に絶望した。しかし世界で一番不幸だとかそんな事は思わない。ただ、これからの将来に希望もない。

死にたいとは思わないがこれ以上は生きたくない、「自ら命を絶つのは怖いし嫌だ、この際よく分からない怪異でも何でもいい。自分ではない何かに私を終わらせて欲しい」そんな時に毎日通っていた廃屋の噂を思い出したのだ。


今の瑠奈はたから見ればまるで不良少女もしくは浮浪者と勘違いされかねない。補導員に見つかったり、職質されたら面倒だと考えた瑠奈は自宅のマンションから可能な限りビルの裏道を通り廃屋をめざす。全ては円滑に自分の命を終わらせる為に。邪魔をされる訳には行かないのだ。


通常であれば瑠奈の自宅マンションから廃屋までは徒歩五分程だが回り道に回り道を重ねた結果廃屋に着いたのは自宅を出てから二十分程かかってしまった。

時刻はまだ午後一時過ぎ、それなのに廃屋は明らかに異質な雰囲気を放っている。四月だというのに肌寒く、来る者を拒むオーラを全面に放っている。だが瑠奈は関係ないとばかりに廃屋の門に手をかけ中に入る。中は噂通りの荒れ具合で常人なら入るのを躊躇しそうだが、瑠奈は違う。むしろ「良かった、期待通り」と嬉しくなっていた。


「やっと…」


続く言葉はない。「やっと廃屋についた」なのか、「やっと死ねる」、なのかは瑠奈本人にも分からない、が瑠奈の目的は達成されようとしているのは間違いない。


瑠奈の腰程ある高さの雑草をかき分け廃屋のドアに手をかける。ドアは和風な引き戸で、力を入れるとギギッと耳障りな音をたてながら開く。中も想像通りの荒れ具合で今にも天井や床が抜けそうである。風が吹くたびに屋根の板材がガタガタと音を立てる。廃屋全体が来るなと警告しているようだが瑠奈は恐怖を感じない。奥へ奥へと進み続ける。懐中電灯やスマホ等は持ち込んでいないがボロボロの屋根から入り込む太陽光だけで十分に感じられる。

だが雰囲気はあるもののいつまでたっても命を落とすような現象が発生しない。瑠奈の顔にも焦りと苛立ちの表情が浮かび始める。

ここで何もなしだと二度と命を捨てる選択がとれなくなるだろう。それだけは絶対嫌なので瑠奈はまだ奥へ進む、引き返す訳には行かない。もっと奥へ、もっと奥へ


あらかた全ての部屋を調べきり、残りは最後の一部屋となった。最後の部屋の入口も他の部屋と同じ障子ではあるが明確に他の部屋と違う所がある。それは明らかに新しいものであるという事だ。他の部屋の障子は廃屋にあったボロボロなものであるがこの部屋はまるで新品のような新しさである。廃屋に入った時よりも恐怖を体感を感じる。この部屋には入らない方がいい、と本能が警鐘を鳴らしている。

だが瑠奈はそんなもの知ったことかと障子に手をかけ部屋に入る。中には新品の椅子が一つあり、そこに和服を着た白骨遺体が腰掛けている。「ヒッ」と悲鳴をあげて腰を抜かす瑠奈。

ここには死を求めてやってきた。それは自らの死であり、決して他人の死ではない。瑠奈にとってこれは求めていたものでは全くない。


「け、警察…!」


気は動転しているがとにかく警察に通報しなければならないと言う事に瑠奈の頭は支配された。急いで部屋から出ようと障子に手をかける、しかし障子はぴくりとも動かない。今まであまり感じなかった恐怖に全身が包まれ体が震え、鳥肌がたつ。

開かない障子に困惑していると真新しかった障子が次第に朽ち果てていく。否、障子だけでは無い。それまでは新しかった部屋全体が障子の劣化に合わせてどんどん朽ちていく。


「だ、誰かぁぁぁぁ!」


瑠奈の悲痛な叫びは朽ちていく部屋にかき消された。今の瑠奈には「死にたい」という感情はなかった。


「だれか…わたしを…みつけて」

読んでくださりありがとうございます。

縁があればまたお会いできると嬉しいです。

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