表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の花嫁!?  作者: 畠山こくご
5/10

4. 忍び寄る影

 誰も居なくなった広間で一人、私は溜息をついて脱力した体を背もたれに預けた。

 暗算石のある鳥人(ハーピー)の巣は遥か遠く、花婿候補たちはしばらく戻って来ない。私にできることは、ただ待つことだけだ。


 「ああ、また退屈な日々が続くのか」


 私の声は一人で佇んでいるには広すぎる空間に虚しくこだました。

 瞼を閉じれば、つい先程新たな戦いに挑んでいった男たちの後ろ姿が脳裏に蘇る。

 「そういえば、あの大剣……」

 箱入り娘として育った私は、昔から読者が好きだった。大昔の勇者伝説だとか、聖剣図鑑だとか、その手の書物を読み漁ったものだ。

 そして、花婿争いに乱入してきたあの剣士ーーアルマの背負う大剣に私は見覚えがあった。

 迷迭香(まんねんろう)孔雀草(くじゃくそう)の花を模した装飾が施された黄金の鞘、蝶が羽を広げたような形状の煌びやかな鍔……

 どんな名前の剣だったかまでは思い出せなくて、私は気付けば屋敷の書庫へと向かっていた。

 久々の読書も彼らが帰ってくるまでの暇潰しには悪くないか、なんて思いながら私は長い螺旋階段を駆け上がった。

 広い屋敷の片隅、殆ど人が出入りしない書物庫には沢山の本が並んでいる。

 父の愛読書である経済学や経営学の本は綺麗に整理されているけれど、誰も読まなくなった私のかつてのお気に入りたちは奥の方で埃をかぶっていた。

 近頃は活字を読むだけの気力も湧かずに窓の外ばかり眺めていたけれど、今は久々にページを捲りたい気持ちに駆られている。

 私は彼の持っていた剣の載っているであろう聖剣図鑑を求めて書庫中の本棚を確認したが、どれだけ探しても目当ての本は見つからず、次々に出てくる懐かしい物語や伝記のほうが次第に気になってきた。

 今まで忘れてたけど、私がお姫様扱いされているのはこの狭い都の中だけの話。世界はもっと広くてまだ知らない物事で満ち溢れているんだ。

 満たされていると思っていた人生。なのに満たされた実感のなかった人生。  

 何を以って満たされているというの? 私にはこの鬱々とした日々の底に眠るもやもやとしたものの正体が少し見えてきたような気がしていた。


 「ルナ様。いらっしゃるのですか?」


 急に開くドアの音。


 「誰? いきなり入って来ないでよ。びっくりするじゃな……」

 「申し訳ありませんが、しばらくお眠りになって下さい」

 段々と薄れてゆく意識。

 読書に夢中になっていた私は、突然入って来た何者かによって背後から薬品を嗅がされ深い眠りに落ちてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ