なろう系作品の擁護に時代劇使うのやめてくんない?
最近はさすがに見かける機会は少なくなったが、『(※有名タイトル)ってなろうじゃん』と同様、時折まだ見かけるので、言いたいことがある。
異世界ものや同ジャンル内で、同じような作品が並んでいることを苦言する意見が出ると、その擁護する意見が挙げられる。
その例として、時代劇が用いられる。
これマジやめてくんない?
自分は時代劇が好きだ。
時代劇専門チャンネルと契約していた時期と比べたら熱はそうでもないが、今でも時代小説はよく読む。
だからこそ、テンプレートに沿ったなろう系作品の擁護に使われると、モヤモヤする。
筋違いも甚だしいと感じるし、無知さを自覚なくひけらかしてるのが見苦しく思える。
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■①時代劇って『水戸黄門』と『暴れん坊将軍』だけだと思ってんの?■
なろう系作品のワンパターンさ擁護に時代劇が挙げられ、具体的なタイトルも挙げられる場合、個人的見解ではほとんどが『水戸黄門』、たまーに『暴れん坊将軍』があるかな? といった具合だ。
うん。時代劇の代名詞と言っていい、超ビッグタイトルであることは間違いない。
子供の頃にリアルタイムでテレビドラマを見ていた人、あるいは最近は地方のテレビ局でも少なくなってきたが、興味はなくても学校から帰ってきた時間に再放送してて、見知っている人は多いであろう。
『水戸黄門』は元々、江戸時代から講談『水戸黄門漫遊記』として存在している物語だ。映像化作品も超絶的に多い。
だが現代日本人が挙げる『水戸黄門』はほとんどの場合、TBS制作の『ナショナル劇場/パナソニックドラマシアター 水戸黄門』に違いない。
その前にスポンサーが違う『ブラザー劇場』というのもあるが、別扱いされる。三つ葉葵の印籠を見せて「控え居ろう! この紋所が目に入らぬか!」をやったのは、ナショナル劇場だからだ。それ以前の作品は印籠なんて見せない。
役者は代替わりしながら、43シリーズまで続き、トータル1200話を超える化け物シリーズだ。
『暴れん坊将軍』も息が長い。
初作品『吉宗評判記 暴れん坊将軍』の放送が1978年、テレビ朝日開局50周年スペシャル番組として作られた2008年まで、シリーズとしては12まで、番組としては832話も作られている。
しかも他の役者は代替わりしているものの、主演・徳川吉宗役はずっと松平健。『水戸黄門』は役者が代替わりしているので、同シリーズ作品と見るか別と見なすか不明なところがあるが、こちらは文句なく連続している長寿シリーズ。最終回となる2008年までのドラマスペシャルも含めると全832話。
これだけ長年愛された作品なのだから、時代劇の代名詞として挙げられるのは理解できる。重々理解できる。
だけどね……見識狭くない? と思ってしまうのだ。
そもそも『時代劇』は、明治維新以前、大体平安時代から江戸時代までの期間を舞台にした作品全部になる。
が。多分多くの人は『時代劇=江戸時代』という認識だろう。平安から戦国期を舞台にしてると、『歴史ドラマ』とか別カテゴリー扱いをしているだろう。
まぁ、これはまだいいとして。
たった二作品だけを『時代劇』とするのは、いくらなんでも狭い。
たとえば『銭形平次』。
このタイトルを見て思い浮かべるとすれば、大抵はフジテレビ制作、1991年から1998年まで放送された、北大路欣也主演のテレビシリーズではないかと思う。
しかし野村胡堂原作小説、『銭型平次捕物控』の映像化作品なので、いろんな役者が演じている。
その中でも二代目大川橋蔵が主演したシリーズ(1966年~1984年)は、全888話。シーズンやクールで区切られていないため、1時間番組世界最長としてギネスブックに登録されている(厳密には最長出演、大川橋蔵の登録)。現在のドラマの作り方からすると、この記録は覆えることがない。
同名のドラマは他にもあるが、二代目中村吉右衛門主演の『鬼平犯科帳』も息が長かったドラマシリーズだ。
第1シリーズ1989年から第9シリーズ2001年、2016年放送の『鬼平犯科帳 THE FINAL』で正式にシリーズ終了を告知するまで、四半世紀以上続いていた。
ただしこちらは話数は150話と少なめなので、知名度で見ると一段落ちるのは致し方ない。下手すれば先日亡くなられた『ゴルゴ13』の作者、さいとう・たかを先生の漫画版しか知らない人もいるかもしれない。コンビニでよく見かけたと。
これも講談で作られた脚本のため、さまざまな映像化作品があるが、テレビ朝日制作の『遠山の金さん』シリーズも忘れてはならない。
杉良太郎(初代助さん)、高橋英樹(桃太郎侍)、松平健(暴れん坊将軍)など、いろんな人が代替わりしてるが、松方弘樹主演の『名奉行 遠山の金さん』は10年間219話続いているので、多分このシリーズが一番知名度が高いだろう。
町奉行で有名なのは、遠山金四郎景元だけではない。大岡越前守忠相もいる。
連続ドラマとしてはNHK制作、少年隊の東山紀之主演シリーズが新しく、第5シリーズまで続いているので、もしかしたらこちらを思い浮かべる人がいるかもしれない。
ただし40代以上の人ならば、『水戸黄門』と半年交代で放送していたイメージの、TBS制作、加藤剛主演『ナショナル劇場 大岡越前』を思い浮かべるだろう。
連続ドラマ累計だと402話。こちらも最終回スペシャル(2006年)まで36年間、一貫して加藤剛が主役を勤めた長寿シリーズだ。
最後になるが、『必殺』シリーズも忘れてはならない。ただシリーズ作品としてはちょっと特殊なので、どう数えていいのか迷う。
一般的にシリーズ初代として数えられるのは、池波正太郎
原作『仕掛人・藤枝梅安』の映像作品、1972年の『必殺仕掛人』となる。
続いて二代目は、『仕掛人』の設定を踏襲しつつもキャラクターがオリジナルとなり、うだつの上がらない昼行灯同心、藤田まこと演じる中村主水が登場する『必殺仕置人』となる。ただし主人公は山崎務演じる念仏の鉄で、主水ではない。
そして以降、『助け人走る』『暗闇仕留人』『必殺必中仕事屋裏稼業』『必殺仕業人』『必殺からくり人』と、コンセプトは踏襲しつつもテイストもタイトルも違う作品が続く。主水がリーダー格なのは6作目『必殺仕置屋稼業』なのだが、『必殺仕事人』というタイトルが出てくるのは、なんと15作品目。
そこからも『仕事人』シリーズの合間合間に、シリーズ内だと悪役を演じていた津川雅彦を主人公・反物担ぎの柳次にした『必殺橋掛人』、三田村邦彦演じる簪の秀が主人公の『必殺まっしぐら!』など、コンセプトは同じでも違うテイストの作品が入る。そして2007年のスペシャルドラマで、主人公は東山紀之が演じる渡辺小五郎に交代している。
連続ドラマは2009年以降作られていないが、スペシャルドラマは年1ペースで制作されているので、今も続いているシリーズとして考えていいだろう。
で。トータルするならば790話。初作品は1972年でこちらのほうが3年遅いが、2011年でシリーズを終了した『パナソニックドラマシアター 水戸黄門』と比べると、今も続いている息の長いシリーズと言える。
特別時代劇を好んでいなくても、これらの作品のタイトルや登場人物を全く知らない人は、まずいないだろう。
なのに時代劇の例として、これらのタイトルが出てくることは、まずない。
ワンパターンの例として挙げるなら、『遠山の金さん』とかも変わらん気するけど? やっぱ知名度の差でそっちが挙げられやすいわけ?
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■②『ワンパターン』の意味が違うんだよ!■
時代劇にはパターンがある。
『水戸黄門』なら、旅先で困ってる人と縮緬問屋の隠居を名乗るご老公一行が出会い、なんのかんのありながら最終的には印籠見せつけて正体を明かし万事解決。
『暴れん坊将軍』なら、旗本の三男坊・徳田新之助として市井の暮らしを見つめる中でお偉い人の暗躍を知り、なんやかんやありながら最終的には「余の顔見忘れたか?」と正体を明かして成敗。
毎話毎話同じパターンでドラマが進む。
いや? それ時代劇に限った話ではないよ?
シリーズ通してひとつのストーリーを描くのではなく、1話完結のストーリーであれば、ワンパターンさ、『お約束』はあって当たり前の話。
刑事ドラマなら事件解決して終わりだよ。翌週には別の事件を捜査して解決するよ。
医療ドラマなら患者治して終わりだよ。翌週には別の患者が別の病気で登場して治すよ。
特撮ヒーロードラマなら怪人倒して終わりだよ。翌週は別の怪人が別の事件を起こして倒されるよ。
しかもそれってストーリーの骨格と、中盤以降の話なんだが?
導入は全然違うぞ?
『水戸黄門』でも、困った人と出会う経緯は、単純に茶店の前や道中で浪人やら渡世人にタコ殴りにされてるのを助けたり、道中別行動してたメンバーが助けた人が黄門様が訪れた名産品の職人と関わりがあったり、人格者の代官が出てくるがその上司が悪人で云々だとか、偽ご老公一行が出てきて本物一行が牢屋にぶち込まれたり。
『暴れん坊将軍』でも、町火消し・め組に持ち込まれた話が実は裏ですごい大きい話になったり、将軍の立場として汚職の疑いを見つけて調査したり、目安箱の投書を切っ掛けに調査したり、寵愛されている爺や忠相を妬んで幕臣が事件起こそうとしてるのを食い止めたり。
シーズンを跨いで同じ展開はあった。偽ご老公一行はお約束だったし。
だが同シリーズ内で同じ導入が使われることはない。
なろう系作品がワンパターンって言われる理由は、冒頭からストーリーの骨格、場合によっては結末まで全部同じに見えるから批難されるんだが?
しかも違う作者の作品で類似性がある。複数の作者が同じような作品を描く。
……あー。うん。この点については、なろう系作品をどうこう言えんわ。時代劇も同じだった過去がある。
古い時代劇だと『水戸黄門』『暴れん坊将軍』に限らず、身分が高い人々が勧善懲悪する作品が多いのだ。
勧善懲悪でチャンバラするには、江戸時代の身分階級的に、そういう設定にせざるをえないのは理解できるのだが……
見たことなくても名前くらいは聞いたことありそうな、ドラマ作品だけでも挙げると……
・『桃太郎侍』
主人公は天涯孤独長屋住まいの浪人だが、素性は確か。武家では双子は忌み嫌われるとされ、兄は跡取りとして家に、弟は市井に。
山手樹一郎の原作だと、讃岐丸亀藩主の子息。
高橋英樹主演、日本テレビ制作の連続ドラマ版だと、11代将軍・徳川家斉の子息。
・『旗本退屈男』
主人公・早乙女主水之介は、タイトルのとおり直参旗本。
・『長七郎江戸日記』
主人公・松平長七郎は、姓が示すとおり松平氏(徳川家の母体)。
2代将軍・徳川秀忠の子・徳川忠長の遺児。3代将軍・徳川家光の甥。
・『新吾十番勝負』
主人公・葵新吾は、8代将軍・徳川吉宗の隠し子。
あとなぁ? ついでになぁ?
テレビ朝日は『暴れん坊将軍』のシーズン合間の同じ放送時間枠に、『源九郎旅日記 葵の暴れん坊(主人公は12代将軍・徳川家慶の弟)』『将軍家光忍び旅(主人公はタイトルのとおり3代将軍・徳川家光)』『殿さま風来坊隠れ旅(主人公がふたり、紀州藩主・徳川治貞と尾張藩主・徳川宗睦)』というオリジナルシリーズもぶっ込んでてなぁ?
『暴れん坊将軍』の成功に味を占めて二匹目のドジョウを狙って『水戸黄門』にならって旅要素ぶっ込んだんだろうなぁ?
しかも三つ葉葵の御紋を見せるのもお約束だったし。羽織とか刀とか笛とか。
確実に『水戸黄門』の影響だわな。シリーズ初期は口頭説明だけでひれ伏したのに。
映像化されていない小説作品まで含めると、これまた多いんだわ……徳川家関係者がチャンバラ勧善懲悪するのは、一種のテンプレートだったのだ。
だからテンプレ擁護に時代劇を挙げるのは、理解できなくもない。
ただし、なろう系作品の擁護に、この点のワンパターンさを挙げての擁護は見かけない。
作品内の『お約束』を挙げている場合が圧倒的なのだ。『水戸黄門』は毎回印籠出してるじゃん、『暴れん坊将軍』は毎回成敗してるじゃん、と。そりゃ違うぞ。
しかも他の納得できない点もあるから、やはりモヤモヤする。
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■③古いんだよ!■
最近でも時代劇の連続ドラマは制作されているが、短期だ。時代劇黄金期のようにはいかないし、作られたとしても1シリーズ5、6回だったりと、1クール13回と考えると半端な区切りが多い。
スペシャルだけで呼べるのか疑問だが、終了を告知せず、長寿シリーズで今も続いていると言えるのは、『必殺』シリーズのみだろうか。
いや、実は『水戸黄門』は、2011年の43部放送終了後も、続いていることは続いているのだ。
TBSのパナソニックドラマシアターをベースとして、ナンバリングも続いているものとして、2019年の45部まで、武田鉄也主演で制作されている。
しかしBS枠で、一般的にはあまり知られていない。
TBSのHP上にある専門コンテンツ『水戸黄門大学』でも、43部までの記載しかない。
だから同シリーズに含めるのは、ちょっと違うと判断するしかないのだ。
テレビ時代劇の黄金期と言われたのは1990年代。過ぎ去っても生き延びていた『水戸黄門』も『暴れん坊将軍』も10年も前に終了したから、テンプレ擁護の例として出すには、「価値観古くない?」と思ってしまうのだ。
時代劇ファンだからこそ、そういう考えに結びつき、擁護の例に出す?
いやいや。その可能性はない。
なろう系作品も時代劇も個々の魅力を見出そうとせず、十把一絡げに『ワンパターン』って認識してる時点でファン目線とは言いがたい。
加えて、これは自分が時代小説を読み続けているからの感覚だろうが。
徳川関係者がチャンバラやっての勧善懲悪は、昨今の出版物では絶滅と呼んでも過言ではないため、そのタイトルを出されると余計に時代遅れ感がするのだ。前述した徳川関係者主人公作品など、ドラマの『水戸黄門』『暴れん坊将軍』よりももっと古い時代の作品だと認識しているのもある。
通販サイトの最近のランキング作品を紹介することも考えたが、面倒くさいので詳しくは各自出版社の紹介でもあさってもらうことにして。
剣豪がチャンバラするにしても、地位がない主人公が圧倒的だ。浪人になる前でも地方役人。三つ葉葵を身につけれる徳川関係者が主人公なんてまずいない。
仮に徳川関係者を主人公に据えるなら、歴史上の偉人として数えられる人々を、作家の独自目線を加えて生涯を描く、大河ドラマチックな作品になる。
そうでなければ隠密や忍びなど、アウトローな主人公が役目として戦う作品となるが、これは今に始まったことではない。剣豪小説が持て囃された時期から一定数存在している。
そもそもチャンバラしない作品が最近は増えている。時代小説でも職業モノや料理モノが特に増えている。
あとは捕物帖、刑事モノの時代劇版も、昔から今も一定数存在して評価されている。
なろう系作品の台頭で、最近のラノベ主人公は最初から最強で、負けたり悩んだり葛藤したりしてはいけない、なんて言われている。
だが昨今の時代小説だとむしろ逆の傾向にある。
最初から地位も金も力もあって大した悩みもないチート主人公なんて、最近はほとんど存在しない。
そもそも大きな力なんて求めていない、日々の生活が守れればそれで充分という等身大の主人公がほとんどだ。
あ。あと、成り上がりも少ないよ。ないわけじゃないけど、ごく小数。無職が就職する程度の立場向上ならいくらでもあるけど、プーが金も女も自由だウハハーみたいなのはまずない。ついでに時代小説に三角関係くらいの恋愛模様はあっても、ハーレムなんてまずない。
そういうのが読みたければ時代・歴史小説ではなく官能小説をあさったほうがいい。
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そんなわけで、テンプレなろう系作品のワンパターンさを擁護するなとは言わんが、やるならもーちょっとアップデートした意見でやってくれよ。