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天から堕ちてきた天使様を拾いました~恩を返すためと言って、天使が俺を甘やかしてきます。可愛すぎて死にそうです、助けてください~

作者: 水瓶シロン


 俺は、とある魔法学院に在籍する学生──補欠でギリギリ入学できたという、絵に書いたような落ちこぼれだ。


 今日の学院での一日を振り返ってみても散々。

 授業で出された問題は答えられないし、魔法模擬戦闘の実技では、同世代のクラスメイトに一勝も出来ないし、いつも通り柄の悪い奴らに下僕のように扱き使われる…………。


「はぁ…………」


 おまけにさっき急に雨が降りだしてきて、現在進行形で下校中の俺は髪も制服も心もビッショビショだ。


 こんな俺でも、家に帰れば家族に温かく「お帰りなさい」と言ってもらえる──と、そんな微かな希望は数年前に消え失せた。

 あまりにも魔法適正が低いため、一家の恥晒しだという理由で勘当(かんどう)された。


 だから、名前には家名が入っていない…………。


 ここの道を真っ直ぐ行ったところの街外れに俺の家がある。

 そんなとき────


「…………え?」


 俺は目の前の光景にたっぷりと沈黙を置いた後に、思わず情けない声を漏らした。

 いや、これはしょうがないだろう。

 だって────


 ────天使が倒れてる。


 純白の衣を纏った天使。

 純銀を溶かし込んだかのような美しい銀髪に雪をも(あざむ)く白い肌。すらりと伸びた、しなやかで細い四肢。そして、腰の辺りからは一対の白い翼が。


 そんな天使が、身体中に傷を負って、雨に打たれて倒れている。

 意識もなさそうだ。


 この出逢いが全ての始まり──俺がこのとき「ほっておけない」と思って自宅に連れ帰って看病したのが始まりだった。



 □■□■□■



「ん、んん……」


 おっと、いつの間にか寝てしまっていたらしい……。


 既に日は昇っていて、雨も上がっている。


 確か……昨日帰宅途中に傷だらけの天使を拾って、連れ帰って、魔法と薬で治療して……ああ、その後疲れて寝たのか。


 あ、そういえばその天使はどうなった!?


 と、俺は視線をベッドに寝かせたはずの天使に向ける。

 すると────


「あ、起きたわね」

「…………いや、それこっちのセリフだと思う」


 天使は既に目を覚ましており、ベッドの上で上体を起こして俺をその大きな銀色の瞳で見詰めていた。


 こうして改めて見ると、本当に────


「綺麗だ………」

「へ、へぇッ!?」

「あ、いやゴメン! つい口に出してしまった……!」


 恥ずかしいぃいいい………。

 なに、初対面の相手に変なこと言ってんだ俺!?


 見れば、天使も若干顔を赤らめてしまっている。

 しかし、それでは天使の威厳というやつが保てないと思ったのだろうか──一つ咳払いして平静を取り戻すと、ビシッと人差し指を向けてきた。


「た、たかだか生まれて数十年の人間風情が、私に惚れるなんて不敬よ!」

「い、いや……惚れたとは一言も言ってないよ?」

「え、でもさっき……き、綺麗だって……」

「いや、それは惚れたことにはならんだろ……」


 俺と天使の間に気まずい沈黙が流れる。


「あ、そ、そんなことより! 君が治療してくれたんだよね?」

「ああ、そうだよ」

「そう……で、でもお礼は言わないわよ!? どうせ治療中に私の美しい身体をいやらしく愛でたんでしょうから、それでおあいこよ!」

「い、いや何言ってんの……?」

「え、何もしてないの?」

「するとでも思ったか?」

「思った…………」


 一体俺をどういう目で見ているのか聞きたいところだが、まあ、なるべく見ないようには心掛けたが、治療にあたって服を一部剥がしたりしたのは事実……一概に否定は出来ないか。

 まあ、言わないけれども。


「えっと……私、実は帰るとこなくて……。だ、だからっ!」

「えっ、ちょぉ────」


 天使が急に俺の両手を掴んで、自身の胸に引き寄せてくる。

 微かに柔らかな感触が手に伝わる。


「しばらく、泊めてくれないかな……?」


 さっきは否定したが、これで惚れるなと言う方が無理があるだろう。

 そんな可愛らしく上目遣いで頼まれて断れる奴は、少なくとも男の中にはいない! 断言する!


「まあ、良いけど」


 俺の口からそう言葉が出るのは、いたって自然なことなのであった────



 □■□■□■



「ねえ君、何してるの?」

「ん、学院の宿題」


 ある日、俺が机に向かっていると、天使が背後から声を掛けてきた。そして、興味深そうに俺の宿題を覗き込むのだが────


 顔が近い! 胸当たってる!


「え、人間達はこんな魔法の勉強してるんだ……」

「ん、天使は違うの?」

「こんなレベルの魔法理論とか、勉強したこともないな~。自然と出来るものでしょ?」

「いや、人間な俺に聞かれても……」


 と、俺は平静を取り繕いながら会話を進めているが、心臓の鼓動は凄まじく速いし、変な汗出てきてるし、さりげに手先が震えている。

 それらを必死に押さえていると────


「ねえ……今ドキドキしてるでしょ?」

「──ッ!?」


 天使が耳元で甘く囁いてきた。

 そして、急にどうしたのか俺の首に背後から腕を絡ませてくる。


「ちょ、ちょちょちょ!?」

「人間の分際で私にドキドキするとか……まだ早いぞ?」

「な、ならドキドキさせるなよ……」

「でも、嬉しいでしょ?」

「…………」


 めちゃくちゃ否定してやりたいが、本心物凄く嬉しいのでなかなか返答できない。


 そんな俺が困った様子を見て満足したのか、天使は「なんちゃって」と可愛らしく呟いて離れていった。


「殺されるかと思った……可愛すぎて……」



 □■□■□■



 夕方────


 学院の宿題を終わらせた頃、何やら良い匂いが立ち込めてきた。


 俺はその匂いにつられるまま部屋を出て、キッチンに向かう。

 すると────


「あ、ご飯出来たよ!」

「え、作れたの!?」

「ひどいなぁ! 私、これでも料理の腕には自信あるんだから!」


 天使はそう言って、大きく胸を張って見せる。

 天使の白い衣の上からエプロン……何だか非常に可愛い。


 俺は横目でそんな天使を見ながら席につく。

 すると、天使が料理を運んできて俺の前に置く。

 そして、俺の顔を覗き込むようにしながら、隣に座ってくる。


「さあ、召し上がれ」

「お、おう……」


 俺は目の前の料理をフォークで刺し、口に運ぶ。

 どうせ出来る見た目して、激マズ料理なんだろうなと思いながら食べてみると────


「え、マジで美味いんですけど?」

「えへへ……」


 天使は嬉しそうに、そしてどこか気恥ずかしそうにはにかんだ。


「これもどうぞ! お口開けてください?」

「えっ……それはちょっと恥ずかしい……」


 天使がスプーンで具沢山のスープをすくって、俺の口許に差し出してきた。


「人間が私に口答えするなんて生意気です!」

「す、スミマセン……」


 俺は恥ずかしさを胸の奥に押さえ込み、口を開ける。

 すると、天使が「あーん」と言って口内にスプーンを持ってくるので、俺はそれを食べた。


 めっちゃ美味いけど、それ以上に恥ずかしすぎる…………。

 そんなことを思いながら、天使はよくやるなと半ば感心しながらその顔を見てみると────


「いや、恥ずかしかったんならやらなくて良かったのに……」

「うぅ~~ッ!?」


 顔を真っ赤に染め上げて、プルプルと震えていた。



 □■□■□■



 そんな日の夜────


「お、お背中流します!!」

「ちょぉおおおおおいッ!?」


 バン! と勢い良く浴室の扉が開けられたと思ったら、一枚のタオルのみで申し訳なさ程度にその(なまめ)かしい肢体を包んだ天使が入ってきた。

 俺は急いで自分の隠すべき場所を隠す。


「い、いや自分で出来るって!」

「両手が塞がってるじゃないですか!」

「お前が入ってきたからだよッ!?」


 そんな俺の言葉を無視して「いいから、いいから」と、身体を洗おうとしていた俺の背後に膝立ちになって、タオルにセッケンを付け、泡立て始める。


「って、何でこんなことまでしてくれるんだ……?」


 俺は前々から気になっていた疑問を口にする。

 すると、優しく俺の背中をタオルで擦っていた天使の手が止まる。


「私……君に助けられたのに、何も返せないじゃないですか……」

「え……?」

「だから、こうやって君の身の回りのお世話をすることで、少しでも恩を返せたらなって思うんです……」


 天使の声を聞いて、どこか寂しそうに感じてしまった。

 前に帰る場所がないと言っていた……俺も家を追い出された身としては、共通点を感じてしまう。


「だから君も、望むことは何でも言ってほしいんです! 料理、洗濯、炊事……あと、魔法が苦手なようなので勉強も教えます! それに……」


 天使はしばらく黙り込んだ後、背後から俺にそっと抱き付いてきた。


「お、おいっ……!?」


 入浴中のため、俺はもちろん全裸だし、天使もタオル一枚を(まと)っただけ。

 天使の濡れたきめ細かい肌が、俺の肌に熱を移す。

 そして、押し当てられたほどよい弾力と柔らかさを持つ二つの膨らみの感触が、確かに俺の背中に伝わる。


「もし君が望むなら……私は身体を捧げることもいといません……」


 そう言いながら、天使の手が俺の身体の前の方を下に伝っていき、俺が両手で押さえている部分に迫ろうとする。


「っ……!?」


 天使が驚いたように声を漏らす。

 俺がその手を掴んで止めたからだ。


「俺は、何か見返りを求めてお前を拾ったんじゃない」

「君……」

「前にお前、俺が惚れているだの何だの言ってたが……今思えばあながち間違ってないかもしれない」

「え?」

「正直お前を初めて見たとき、すげぇ綺麗だと思ったし、看病してるときも理性を保つのが大変だったのが事実だ……」


 俺は天使に振り返って、真っ直ぐに見詰めながら言う。


「でも、まだこの感情が恋愛なのかどうか良くわからない……そんな気持ちのまま、お前に手を出すのはイヤだ。たとえお前が受け入れたとしてもな」

「…………」


 俺は(うつむ)く天使の両肩に手を乗せる。

 すると、天使は潤んだ銀色の瞳を俺に向けてきた。


「だから、お前もそんな易々と身体を差し出すとか言わないでほしい」

「うっ……うぅ……」


 天使は心の内に溜め込んでいたモノを洗い流すように、ひとしきり涙を流した。

 俺はそんな天使の頭をそっと撫でる。



 ────しばらくして、天使の気持ちが落ち着いた頃。


「君……ありがとうね……」

「な、何だよ改まって……」

「私のこと、本気で考えてくれて」

「ん、んん……」


 俺はなんだか恥ずかしくなって、視線を逸らして頬を指で掻く。


「でもね、私は君のこと……結構好きですよ?」

「え、えぇッ!?」

「だから、私はこれから君を惚れさせてみせます────」


 天使はそう言って俺の頬を両手で包み、自身の顔を近付けてきた。

 そして、その柔らかな唇を俺の唇に優しく重ね、しばらくそのままの状態を保つ。


「ファーストキスです」


 天使はそう言って若干恥ずかしそうにはにかむ。

 そして、満足したように立ち上がると「じゃあ私は先に上がりますね?」と言って、浴室の扉に手を掛ける。


 俺はそんな天使の後ろ姿を(ほう)けたように見詰めて────


「あ、そうだ……」


 天使は何か思い出したのか、僅かに振り返ってきた。その顔はかなり紅潮している。


「君、隠すの忘れてますよ? 丸見えです」


 そう言い残して出ていった。


 浴室に不思議な静寂が訪れる。

 そして────


「なぁあああああああああああッ!?」


 俺は今さら遅いが、再び両手で隠すべき隠れていなかった場所を隠すのだった。

【作者からのお願い】

最後まで読んでくださりありがとうございます!


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上記の三点をしていただけると、作者は泣いて喜びますので、是非ともよろしくお願いします!!

( `・ω・´)ノ ヨロシクー

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