9話混乱
高杉が長老に呼ばれトトの側へ行くと、トトは花飾りを頭に被り、澄ました顔で椅子に腰掛けていて、その横でムムが嬉しそうに回し車を走らせている。
「トト・・どう言う事なんだ?」
「僕にもよく分からないんだ・・健三が地下に行ってる間に長老達がやって来て『地下から上がって来たのかい?』って聞かれて『うん』って応えたら『おぉ!伝承にあったとおりじゃ!さぁ、さぁ、御方様!こちらにお越しください!』って、ここに連れて来られたんだ・・」
「そ、そうか・・」
トトの話を聞いた高杉は、長老に向かって
「伝承って何?」
と尋ねた。
「ワシらに託された使命じゃよ!」
「使命?」
長老は遠くの山を見つめ話し出す・・
「この地で遠い昔から語り継がれる言葉でな・・ネズミを連れたその者は、岩を押し退け怒りと共に這い上がって来る。怒りで世界を破壊し喜びで世界を救う者。その御方をもてなし怒りを鎮めよ!その御方は救世主なり・・と」
「へぇー!そう・・」
何となく高杉はそう応え、言葉の意味を考えているとトトが
「健三と僕を間違えてるんだ・・」
と言った・・
「いや・・案外トトが救世主かもな!」
「どうして?」
「だって俺、メチャクチャ弱ぇじゃん・・さっきの見ただろう。ヤられっぱなしだったし・・」
「健三は弱くない!地下に長くいて、まだ地上に慣れてないだけだよ!」
トトは励ましてくれたが、殴られた事を思い出しショボくれていると豚の丸焼きが運ばれて来る。
「おっ!御方様!肉が焼けましたぞ!」
高杉の前を通り過ぎ、トトの目の前に置かれた豚の丸焼きにトトは
「僕、あまり肉は好きじゃない・・」
「なんと!肉がお嫌いでしたか・・」
ガッカリする長老・・
「僕は木の実か野菜がいいな、この肉は健三にあげて」
肉を高杉の前に移動すると高杉の機嫌が一気に良くなる。
瞳を潤ませて涎をたらし
「ひ、久しぶりの肉だ・・うまそ~っ!こいつにビールがあれば最高なんだがな!」
すると長老が
「ビールが欲しいなら、ありますぞい!」
と高杉の目の前に缶ビールを持って来た・・
『か、缶ビールって・・しかも冷えてる・・何故だ?原始的な生活をしてるんじゃないのか・・』
頭が混乱して来た・・辺りを見回しても簡素な小屋がいくつかあるだけ・・
「何故、ここに缶ビールがある理由?」
長老に尋ねると
「ビールは、神様からの頂き物じゃよ」
「かっ神様って・・」
ますます混乱する高杉・・
『まさか・・俺が地下にいた2000年の間に神が降臨?・・キリストの再来か?・・いったい、何があったんだ・・』
混乱しながらも、とりあえずビールを一口・・
「くぅ~っ!たまんねぇなぁ~っ!」
一瞬で考えている事がふっ飛び、夢中になって肉に食らい付く・・トトは、そんな高杉から目を背け、見ない様に木の実を摘まんだ・・
『健三の食べ方・・相変わらずの品がない・・』
高杉は、肉を食い散らかし一頻り満足すると
「で、神に会った事あるの?」
長老に聞いてみた・・
「ありますとも!いつも我らを見守っていて力を貸して下さる」
「へぇー・・俺でも会える?」
「勿論!神様に会いたければ、そこの小屋にある神棚に手を合わせれば出て来て下さるでな」
「ま・マジかよ・・」
長老に案内され、半信半疑で小屋の中へ入る高杉・・
『確かに神棚だ・・昔見たのと変ってねぇ・・』
『パン!パン!』っと柏手を鳴らし手を合わせた。すると神棚の扉が開き、赤や青のスポットライトに照らされ、頭のハゲた小っさいオッサンが姿を現しニコやかな顔で
「悩み事かな?それとも願い事かな?」
と話し掛けると高杉は透かさず
「この小っさいオッサンが神なの?」
神棚に手を伸ばし捕まえ様としたが、体をすり抜け掴めない。そして気づいた・・スポットライトの光を遮ると姿が消える事に・・
『フォログラムか・・』
「悩み事かな?それとも願い事かな?」
再び話し掛けられた高杉は気軽に
「悩み事」
と応えた。
「話してみなされ」
小っさいオッサンの円らな瞳がキラキラ輝き、高杉の心を包み込む様に見つめると、高杉の心の奥に秘めていた思いが、ついこぼれ落ちる・・
「俺、何をすればいいのか分かんねぇんだ・・この先、どう生きればいいのか・・」
不安な気持ちを口にすると、小っさいオッサンは真っ直ぐに高杉を見て
「そんな事、わしゃ知らん!」
キッパリと応えた!
「はぁ?てめぇが話せって言うから、こっちが話したんだろ!」
誘っといて突き放された怒りが沸き上がる高杉に小っさいオッサンは
「生き方は、自分で決めるんじゃよ!自分のヤリたい事を見つけて生きて行けばいい!」
「まぁ・・そうだけど・・」
とりあえず高杉が納得すると小っさいオッサンは満足して
「分かったなら良かった!では、ワシは行く!いつも天から見守っているでな、頑張るんじゃぞ!」
と言って、すーっと姿を消し神棚の扉も閉まる。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!まだ聞きてぇ事が・・」
高杉は慌てて、もう一度柏手を打とうとすると長老が
「無駄じゃ!もう手を合わせても出てこん!」
「何で?」
「神様に会えるのは、一生で一度きりじゃでな!」
「へっ?一生に一度・・マジ・・何でそれを先に言わねぇ・・あぁ・・願い事にするんだった・・」
高杉は、ガックリ首をうなだれ悔やんでも悔やみ切れない・・まさに痛恨の極み・・そんな様子を見かねた長老が高杉の肩にそっと手を置き
「まぁ、そう落ち込み成さんな・・お前さんもワシ位の歳になれば分かるじゃろう・・何事も自分の力で成し遂げてこそ価値がある!それが人生じゃぞ!」
「うるせぇーっ!」