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地下300Mからの・・  作者: 生丸八光
8/19

8話強者

 2000年ぶりに地下から這い上がった男・・高杉健三2035歳・・不死身の男・・

 彼の見た目は、35歳の時から変わってなかったが、すっかり変わってしまった地上の様子に(しばら)呆然(ぼうぜん)と辺りを見回し、空を見上げる・・


『静かだな・・鳥の声も聞こえない・・日本は滅んだのか・・・いや、世界が滅んだのかもな・・』


 何が起きたのか想像を巡らせ、時の流れと現状に物悲しさを感じていると


「健三!誰か来る!」

 トトが声を上げた。


「ん?ホントか!」


 辺りを見回すが誰も来ない・・


「足音がこっちに近付いて来てる・・」


 トトの耳には聞こえていた・・健三は回し車を手に取り、草むらに身を隠して正体を確かめる事にした・・


 暫くすると、草をかき分け1人の少女が姿を見せる。少女は12歳程でポンチョの様な服を着て、手に一輪の花を持ち、(はず)む様に目の前を歩いて行く。


 高杉は、2000年ぶりの人の姿に嬉しくて飛び出ようとしたが、トトにグッと肩を抑え込まれ


「ダメだよ!そんなカッコで・・」


 高杉は、素っ裸だった・・自分の体を見て


『これじゃあ、変質者だな・・』


 息を(ひそめ)め、人類が滅んで無かった喜びで身を(かが)めると、少女は高杉が地上に上がる時に倒した岩を見てビックリして立ち止まり、キョロキョロ辺りを見回すと慌てて元来た方へ走って行く・・


 少女の行動に違和感を感じた高杉・・倒した岩の所へ向かい、岩を注意深く見ると文字が刻まれている事に気付いた・・


「地下から這い上がりし者が、この世界を救う・・って書いてあるな・・」


 トトに目をやり

「これって、俺の事か?」


「多分・・そうだと思う・・」

「う~ん・・俺が救世主か・・」

 満更でもない気分の高杉・・


「取り敢えず、何か着ねぇとな・・」


 岩の横に空いた穴を見つめ、溜め息を漏らすと回し車をトトに預け、再び中に入って行く。


「服を取って来るから、そこで待っててくれ!」

 暗闇の中に消える高杉・・


 長年暗闇で暮らし、住み慣れた筈なのに、再び光を浴びて地下に降りる事に抵抗を感じ恐怖さえ覚えたが、直ぐに感覚を取り戻し、スタスタ歩き巨大な扉の前に来ていた。


「てめぇ!閉まるんじゃねぇぞ!」


 扉を蹴飛ばし、一息でクローゼットのある部屋へ向かい、手探りでクローゼットの中の服を何着か両手で抱え込むと扉の所に戻って来る。


「ふぅーっ!」


 一息付きホッとすると、服を抱え階段を上って行く・・



 地上に上がった高杉は、地面に服を並べて


「一度も着て無いから、まだ新品みたいだな・・トト!どれが似合う?やっぱ、これかなぁ・・」


 黒のスーツと白いYシャツを手に取り、トトに聞いたが何も応えない・・


「なぁトト!どう思う?・・ん?・・トト・・」


 トトの姿が見当たらない・・


「おぉーい!トト~ッ!ムム~ッ!」


 大声で呼んだが出て来ない・・


「どこに行った?何かあったのか?・・」


 不安が(よぎ)ったが、トトも不死身の体だった事を思い出し、気楽に考えてYシャツとスーツを着て座り込み、暫く待って見たが戻って来なかった・・


「仕方ない・・探しに行くか・・」


 高杉は立ち上がり、残りの服を穴の中に押し込むと


「この穴は、(ふさ)いどいた方がいいな・・」


 倒れた岩を抱え力を込めると、高杉の5倍はあろう岩が持ち上がり、穴を塞いで立て直す。


「これでいいだろう・・」


 自分の力に満足して誇らしげに岩を見上げ、もう一度刻み込まれた文字を読み返すと、岩の根元に(しお)れた花が何本か並べられているのに気付いた・・


「この花・・さっきの子が持ってたな・・」


 高杉は服に付いた砂を『パン!パン!』っと力強く払い落とし、少女が走り去った方に向かって歩み出す・・高杉の力強く自信に満ちた歩き方には覇気が溢れ出し、強者(つわもの)としての風格を(かも)し出していた・・


 生い茂る草をかき分け、人が通った痕跡を見付けながら進むと、懐かしい匂いが鼻先と胃袋を刺激する・・


『この匂い・・焼肉?』


 匂いに誘われ突き進むと、20人程が笑顔で焚き火を囲み、中心には豚の丸焼きの様な物が・・注意深く覗き込み『ハッ』とした!


『もしかして・・トト!』


 高杉は、茂みを飛び出し一直線で焚き火へ駆け寄る!


 焚き火の周りでは、突進して来る高杉に気付き、槍や棍棒で迎え撃つ!


 高杉は、軽快なフットワークで槍を避け、棍棒を奪って振り回すイメージで、素早く左右にステップした瞬間!


『ガツン!』と棍棒が高杉の頭を直撃!更に槍が太股(ふともも)に突き刺さった!


「いっ、いってぇ~!」


 地面に倒れ込むと上から棍棒が降り注ぐ、袋叩き状態の高杉・・


「うわぁ!いててっ!やっやめろ・・クソッ!」


 殴られ続ける高杉は納得出来ない・・暗闇の中で何百年も身体を鍛えて、この状況・・メチャクチャ強くなってると思ってたのに、メチャクチャ殴られてる・・


『俺って弱いのか・・』


 落ち込み、悔しさと痛みで涙が滲み出た・・その時!


「止めなさい!」


 その一声で棍棒がピタリと止まる!


 高杉が声の主の方へ目を向けると、一段高くなった所に80歳を越えた長老が杖を手に立ち


「お前達!御方(おかた)様がお(いか)りだぞ!暴力が嫌いだと言っとる!」


「長老!この者が悪いのです!この者は、御方様の肉を狙ったのです!」


「その者を責めてはイカン!御方様は、その者を知り合いだと言っとるんじゃ!」


 それを聞いて高杉は、首を伸ばして覗き込み、御方様を見て驚いた!なんと、長老の後ろの椅子にトトが座って居たのだ!


「トト~ッ!」


 何とも言えない高杉の声が響き渡る・・







 

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