7話 そして・・・
暗闇の中、回し車と壁を擦る音が、静かにリズムを刻んでいた・・・
そんな中で静かに漫画を読んでいるトト・・
地下300メートルの空間に閉じ込められ、果てしない時が流れていた。
高杉は、瞑想してるのか夢でも見てるのか、壁の前に座り込み、ボーっと壁を擦っている・・・
ムムは200年経つ度にトトに知らせ、トトはそれを高杉に伝える。
そして、またムムから200年が経とうとしている事が伝えられた。
「健三!また200年経つみたい・・・あと10秒だって・・」
高杉は、ピタリと手を休め
『・・・これで10回目か・・』
と思った瞬間!
「ガシャ!ガシャ!ガッシャーン!」
扉から大きな音が鳴り響く!
目を凝らして扉の方を見つめる高杉・・・暗闇の中に感じる僅かな風・・・
「け、健三!扉が開き始めてる!」
トトが驚いて大声を上げた!
扉はゆっくりと静かに開いて行く・・高杉の目には見えないが、入り込んでくる新しい風に、扉が開いている事を確信させた・・・
「・・ついに、開いちまったか・・」
扉は開かないと諦め、壁を擦り続けて来た高杉・・夢を見ているのかも知れないと、一応自分のホッぺをつねった。そこにトトが近付いて来て
「健三!ムムが言うには僕たちは、この地下に2000年間もいたんだって、ビックリだね!」
「あぁ・・そうだな・・」
「どうするの?すぐ地上に出る?」
「当然だ!今すぐ行こう!」
立ち上がり、扉に向かって歩き出したが、カラカラと回し車が回る音・・・
「ん?ムムは、まだカラカラやってんの?」
「うん・・地上に行きたくないみたい・・」
「何で?・・」
「もっと、回し車に乗ってたいって・・」
「はぁ?2000年も乗り続けて、まだ足りねぇのかよ!」
高杉は、あきれながらもムムの所へ行き
「一緒に行くぞ!」
と回し車ごとムムを持ち上げる!ムムは、夢中で回し車を走らせていた・・
高杉は扉の外へ出たが、そこも、光の射し込まない地下300メートルの空間・・
「確か、エレベータと階段があったんだけど・・」
「あるよ!すぐそこに」
手探りで、エレベータのボタンを押すが、動く気配がない・・
「階段だな・・」
隣にある階段を登り始める・・1段づつ地上に近付いて行くのを感じながら、階段を踏みしめ、上がるに連れて高鳴る鼓動が、死者に生気を吹き込むように高杉に力と気力を蘇らせて行く・・
逸る気持ちに足もどんどん早まって行き、地上まで、あと10メートル程と迫った所で行く手を阻まれる。
崩れた瓦礫が階段を塞ぎ、進めなくなっていた。
『ちきしょお・・どうなってんだ・・崩れて放置されたのか、それとも埋められた?・・』
手探りで進めそうな所を探す高杉に
「健三!ここから行けそうだよ!」
トトが通れそうな所を見つけた!
トトの声を頼りに瓦礫の間を登って行くと、遠くに一筋の光が見える!
「光だ!光が見える!」
1本の糸のようなに細い光が瓦礫の隙間から射し込んでいた・・
高杉は、光を目指して突き進む!
『もうすぐ、地上に出れるぞ!』
『ドックン!ドックン!』と、高鳴る鼓動に呼吸も早まり、光を目指し一直線に向かう!
岩の脇から射し込む光!その岩を右腕と頭で支え、踏ん張って押し退けた!
降り注ぐ光!
眩しさに目を閉じ、顔全体で受け止める・・・瞼を閉じても感じる光と太陽の温もりに微笑み・・
『光を感じる・・温かい・・』
2000年振りに太陽の光を感じると、目を閉じたまま地上に顔を出し上半身で風と匂いを感じる・・
『懐かしい・・気がする・・』
2000年振りの地上・・・懐かしいような・・初めてのような感覚を感じつつ、ゆっくり目を開ける。
眩しさに何度も瞬きをしながら目を慣らし、辺りを見渡す・・
青々と茂る木の葉の間から射し込む光・・・青い空に白い雲を眺めると、ハッとして地上に飛び出た!
「ここは、都会のど真ん中だったハズだぞ!」
ビルの影も形も無く、周りには樹齢1000年を越える大きな木々が生い茂る・・
「どうなってるんだ?・・いったい・・」
高杉は、ムムが走らせている回し車を手に、茫然と立ち尽くし、長い歳月で、驚く程変わってしまった地上の様子に
「人類は、いったい!どうなってしまったんだ!」
と叫んだ!
「よいしょ・・よいしょ・・」
茫然と突っ立っている高杉の目の前に、見た事のない生き物が、地下から這い上がって来た・・
「よかったね、健三!地上に出れて・・」
「えっ?お前、トトなのか?どうしたんだよ!・・その体・・」
「ちょっと、大きくなっちゃって・・」
今まで暗闇の中で分からなかったが、トトの体は、身長1メートルを超え、大きな耳に大きな瞳・・ぽっちゃりとした2頭身のぬいぐるみのようになっていた・・