4話50年後・・・
地下に閉じ込められてから、50年が過ぎていた。
高杉は、何やら熱心に研究をしているようだ・・白衣を身に纏い顕微鏡を除き込む。
「見つけたぞ!この遺伝子だ。神経細胞のタンパク合成が異常に速い・・上皮細胞での再生もいいぞ!どんどん形成されていく・・」
高杉は夢の中にいた・・そこには、今にも死にそうなトム・・
「待ってろよ!トム!今、注射してやる!」
注射されたトムは、みるみる元気になり、ゲージの中を走り回った。
「よし!これで寿命が延びるぞ・・」
・・・と、目を覚ました高杉は闇の中・・
一筋の光も見えない地下300メートルの暗闇・・夢の中だけが高杉に光をあてた・・
トトは暗闇の中で漫画を読み。ムムは、ひたすら回し車を走らせる。
目覚めた高杉は、手探りで布切れを手に取ると、目を覆い、顔に巻き付け闇の中を歩き出す・・
高杉は、暗闇になって40年間で分かった事が幾つかあった。それは、起きていて暗闇しか見えないと、恐怖感とストレスを感じてしまうが、目を閉じればストレスなく、逆に集中力が増し、感覚が研ぎ澄まされる事に。
同じ暗闇でも目を開けているのと、閉じているのとでは感じ方が全然違うのだ!
ゴミを旨く避け壁際で座り込むと、壁を擦り始める・・
『水滴だって、岩に穴を開けるんだ・・』
そう思って、この数十年アルミ缶で毎日壁を擦って来たが、壁は頑丈だった・・
「ここは、まるで巨大な金庫だな・・」
しばらく擦り続けると、飽きてきたのか立ち上がって歩き出す・・少しずつスピードを上げ走り出した!
暗闇の中で、決まったコースをグルグル回り、1時間程走ると腕立て伏せに腹筋、背筋・・次々と筋力を鍛えると空手やシャドーボクシングを始める・・
「違うよ健三!もっと顎を引いて!腰を下げる!」
「お、おう・・そうか・・」
「もっと早く!腰を使って!」
何故かトトは、格闘の知識を深めていた・・
「健三!人差し指で相手の眉間を思いっきり突ければ、頭を爆発さる事が出来るんだ!」
「トト・・それは漫画の中だけだ・・」
「そ・・そうなの」
高杉はシャワーを浴びに行く・・
暗闇で何も見えなくなったが、全ての電気が付かない訳じゃなかった。空調や給湯器の電気は生きていた・・
熱いシャワーを浴び、サッパリした高杉は布団の上で胡座をかき、瞑想を始める。
薄目を開けて、青々と生い茂る森の中にいる自分をイメージして・・
深い瞑想状態に入った高杉・・急に肩を掴まれる感覚が走った!目を開け、暗闇に目を凝らすとゴハンの姿が見える。手にナイフを持って高杉に襲い掛かって来た!
ビックリして逃げようとするが、体が動かない・・
『うわぁわわわわっ~!・・』
体を動かそうと必死にもがく!
『んぐぐぐぅ・・「ぐわぁっ!」』
叫び声と共に体が動いた瞬間!目の前が真っ暗に!
暗闇になって気付いた。
夢を見ていたことに・・
高杉は大きく息を吐き、ぼーっと暗闇を見つめる・・
地下に閉じ込められて50年。地上にいた35年よりも長く地下で生きて来たが、今でも時々、暗闇と悪夢に恐怖を感じる高杉であった・・