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地下300Mからの・・  作者: 生丸八光
3/19

3話10年後

高杉が地下で生活を始めてから10年が過ぎていた。


高杉は漫画を読みながらお菓子を()まみ、ケラケラ笑い声を立て、ご機嫌な様子で布団の上に寝転がっている。


トトは一緒に漫画を読んでいるのか、高杉の肩の上に、ムムは相変わらず、まわし車を走らせていた。


まだまだ食料はたっぷり残っていて、孤独が苦にならないのか、地上の事など(まった)く気にする様子もなく地下の暮らしを楽しんでいる・・が、すっかり(なま)けぐせが付いていた・・


常に明るく電気の付いているこの部屋、昼も夜も分からず眠くなったら寝て、腹が減ったら食べる・・食い()らかしたゴミを片付ける事もなく・・


ぐうたら生活をしていたのだ!


体育館のように広々としていた部屋が、今や、ごみ屋敷になっていた。人間なんて環境によって何処(どこ)までもだらしなく、(なま)けてしまう生き物なのだ。


高杉は立ち上がるとポン・ポン!っとゴミを飛び越え、冷蔵庫から缶ビールを1本持ってきた。

『グイグイ』飲み干し、缶を(ほう)り投げる。


「カツン!」

そこには、空き缶の山が出来ていた・・


「ふあぁぁ~あ!」

大きな欠伸(あくび)をすると、布団を(かぶ)り寝てしまった・・


気持ち良さそうに(ねむ)っている高杉・・トトは、何か言いたそうに高杉の寝顔を見つめる・・



数時間後。

高杉は目を覚ますとステーキを3枚焼き、ビールを2本持ってくる。


「くうっ~うめぇ、リサ!最高だぜ!」


ビールを飲みながら地上を見上げ、リサへの感謝を込めたその時!


「パチンッ!」

(はじ)ける音と共に真っ暗になった・・


「ん?どうしたんだ・・」


突然の出来事を理解出来ない・・今まで(つね)に明るかったこの部屋・・

『停電か?しばらく待っていれば、また付くのか・・誰か、直しに来るの?・・』


かなり時間が過ぎたが、明るくならない・・地下300メートルの閉ざされたこの部屋・・闇の中に感じる圧迫感・・高杉に不安と恐怖が、のし掛かってきた・・


『ダメだ!・・このまま誰も来ない・・来る訳がない!俺は、閉じ込められ忘れられたんだ・・俺は社会から摘まみ出された人間だった・・』


高杉は()つん()いになり、扉の方に目を()らすが、暗くて何も見えない・・床のゴミが手に(から)み付く・・


『チッキショー・・どうする・・ハッ!冷凍庫・・あそこの電気は大丈夫なのか?・・』


記憶と(かん)を頼りにゴミをかき分け、四つん這いで向かっていく・・


『ここもダメだ・・』


冷凍庫の冷気は止まり、電気も付かなかった・・


高杉は、戻って来ると布団にくるまり


『もう終わりだ!・・何も見えない・・何も出来ない・・チッキショー!チッキショ~・・』


暗闇の中で、自分のバカさ加減と後悔の念が、グルグル頭を駆け巡る・・


『俺は、なんてバカだったんだ・・いつかこうなる事は少し考えれば分かる・・本当にバカだ・・大バカだ!・・チッキショー!いつもこれだ・・1つの考えで突き進み、失敗ばかりしてきたのに・・まず扉を開けるんだった・・バカヤロー!その後でのんびりすれば良かったんだ・・バカヤロー・・』


高杉は取り返しの付かない失敗に、何度も自分を責め、後悔し、布団に顔を(うず)める・・


落ち込んだまま布団にくるまり、2日が過ぎた・・


ただボーっとしている高杉・・目を閉じても、(ひら)いても闇の中・・カラカラとムムが走っている音だけが聞こえていた・・


「トトは何処(どこ)だ!いるのか?」


高杉の問い掛けに、トトはカサカサ音を立て、ゴミの上を走り回った・・


「そこか・・お前達は暗くても平気みたいだな・・俺はダメだ!暗くて何も見えない・・お前達は、上手(うま)くここから抜け出して好きな所に行ってもいいんだ・・俺の事は気にするな・・」


高杉はそう言うと、手探(てさぐ)りで缶ビールを(つか)み栓を開け、ぬるくなったビールを喉に流し込む・・


「ぐふっ・チッキショー・・」

缶を放り投げ、布団にくるまった・・


『あぁ・・俺は扉が開くまでこのままか・・ん?待てよ扉は開くのか?確か電動だったぞ・・もしかして、永遠に閉じ込められたのか・・あああぁ・・そうだ・・俺は永遠に閉じ込められてしまったんだ・・ああぁ・・終わりだ・・』


希望の見えない暗闇の中で、一筋の涙が頬を伝って行く・・


『終わりだ!終わりだ!もう扉は開かない!俺は、ずっとこのままだぁ~!・・あああぁ・・あああ~ぁ・これじゃあ生き埋めになったも同じだ・・あああああ~ぁ・・』


絶望感と息苦しさで、気が狂いそうになって、もがいていた・・


「生きるんだ・・」


暗闇の中から高杉に聞こえた声・・


聞こえるはずのない声・・


『遂に俺は・・頭が、おかしくなってしまったのか?・・いや、おかしくなっていないぞ!』

暗闇に耳を()ます高杉・・


「・・・生きるんだよ」

「誰だ!」


高杉は、聞こえた声に直ぐに問い掛け、暗闇に目を凝らした・・



「僕だよ・・トトだよ」


「トト・・トトがしゃべった!ホントか?」


トトはゴミの上を走り回り、ピタッと止まると


「健三、僕はいつも君に話し掛けようとしてたんだ・・でも、しゃべれなかった・・それが、今やっと言葉を話せる様になったんだ!」


『ホントかよ信じられねぇ・・だが、確かに話している・・これもスーパージョブ細胞の力か・・それとも俺の頭がイカれた・・』


高杉はトトの姿を見ようと目を凝らしたが、何も見えず声だけが聞こえてくる・・


「健三・・君は地下にとじ込められてから、毎日、漫画とビール・・それじゃあ、死んでいるのと変わらないよ・・生きるって、長さじゃなくどう生きるかなんだ。研究していた時の事を思い出して・・毎日、一生懸命がんばってた時の事を・・」


「トト・・」

高杉はトトの言葉で、自分の(なま)けた暮らしがトトを心配させていた事に気付いた・・が、今のこの状況・・


「心配掛けちまったな・・でも、もうどうする事も出来ないんだ・・」


がっくり頭を下げる高杉にトトは


「そんな事はない!まだ出来る事はいっぱいあるよ。もっと前向きになって少しづつでもやらないと・・この地下に閉じ込められ、10年で僕はしゃべれる様になったんだ。健三なら、今からでも凄い事が出来るよ。きっと・・」


「10年・・もう10年たったのか・・ん?・・なぜトトは、10年って分かるんだ。俺には、時間だって分かんねぇのに・・」


「それは、ムムが教えてくれるんだ!扉が閉じてからムムは、回し車を1秒間に3回転の速さで走らせ続け、さっき、3億1千5百36万秒になったって、つまり10年って事。」


「なっ!・・そのためにムムは回し車を走り続けていたってのか!」


高杉は驚き、カラカラ音を立て回し車を走らせているムムに顔を向け


「凄いなぁムム・・凄い・・」

ムムの頑張りに、感動し涙を流す高杉にトトは


「ムムは回し車が好きなだけだよ。空を飛んでる見たいで気持ちいいんだってさっ!だから走り続けてるんだ・・そして、いつか本当に空を飛んでやるってね・・」


「そうか、いつか飛べるといいなムム・・」


高杉は自分の気付かない(ところ)で、トトとムムが毎日頑張っていた事を気付かされ、自分も何かやらねばと思う気持ちが、沸々(ふつふつ)と湧いて来るのを感じた・・










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