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63話

 体育館と言ってもそれぞれ大きい小さいがあって、相原に誘われてやって来たこの市内の体育館は小さい方だ。と言っても競技場の面積が狭いわけではなく、それ以外の設備が少なめというだけ。俺たちが利用するにあたってさほど問題はない。強いて不満を言うなら劣化しているという点なのだが、それも外観だけで室内はそれほど汚くはなかった。何でも昔からある建物だそうだが、外観のおかげで利用する人はそこまで多くはなく、当日でも借りられる穴場スポットだと相原は語っていた。俺も初めて利用するが、借りやすさや雰囲気ですでに気に入った。


「うわー…久々にバッシュ履いたわ」


「それまだ使ってたんだ。懐かしー」


 今日の日の為に物置小屋から引っ張り出したバスケットシューズは俺が中学の時に使っていたもの。ボロボロだがまだ使えるし、思い入れもあるため捨てずにとっておいたのが役に立った。

 相原から連絡があったのは三日前だった。送られてきた内容は〈バスケしよ!〉というシンプルなものだった。もちろん承諾した俺はバスケの誘いということでリキヤにも声をかけようとしていた。俺が言わずとも相原も同じ考えだったようで、〈リキヤに声をかけといて〉という要望も追加で送られてきた。何でも相原も1人あてがあるようで、最初から4人でやることを想定していたようだ。

 リキヤに説明して誘ってみると「相原の誘いかよ」と言いつつも最後には行くという返事をもらえた。俺や相原という懐かしい面々で、大好きなバスケをするのだから断らないことはわかっていた。リキヤは渋る素振りを見せてはいたものの、なんだかんだ嬉しそうなのはバレバレだ。少しからかうと「うるせぇ!」と言ってどこかに行ってしまったが、そんなリキヤを見るのも面白かった。

 4人の予定を聞いてから日程を決めようとしていたら4人ともその週の土曜日に集まることが可能だった。場所の方も相原が確保するということで、急だがこうして体育館に来ている。


「そういえば二宮君、高校ではバスケやってないんだよね?もったいないなー。上手かったのに」


「新井さんは高校でもやってるんでしょ?今日はお手柔らかに」


 「私なんか全然だよー」と謙遜している人は相原が誘った新井(あらい)ホノカさん。新井さんは俺たちと同じ中学の同級生で、女子バスケ部のキャプテンをしていた。相原とは仲が良く、男バスの俺やリキヤとも面識がある。相原のあてがあるという言葉にも納得した。

 新井さんは長身でバスケが上手いだけではなく、面倒見が良くて後輩に慕われていたのを覚えている。キャプテンを任された時も引っ張っていくというよりも支えていくタイプで、おっとりした性格の優しい印象だ。


「リキヤはまだ来ないの?もう時間過ぎてんだけど」


「あいつは午前中部活してからだから遅れるのは仕方ないって。さっき連絡が来たけどもうそろそろ着くって…」


 俺が話している途中で競技場の入り口から大きな男がのそのそと歩いてきた。その歩き方は見慣れたもので、すぐにリキヤだとわかった。


「うーっす。ギリギリセーフみたいだな」


「あんたの時計壊れてんの?とっくに時間過ぎてるんですけど?」


「細けぇな。せっかく来てやったんだからありがとうくらい言えないのか?」


「はぁ?なんでうちがあんたなんかにお礼言わなきゃいけないのよ。うちが誘ったのはエツジなんですけど?」


「まあまあ2人とも落ち着けって。リキヤも部活なのは知ってるけど『来てやった』は良くないぞ」


「ミナミちゃんもせっかく来てくれたんだからそんな言い方は駄目だよ?」


 高校生になっても相原とリキヤのいがみ合いは変わらないようだ。中学の頃もよく俺が間に入って仲を取り持っていたことを思い出す。一種のノリのようなもので、本気で仲が悪いわけではない…多分。

 今回は新井さんもいてくれるので俺の負担も少なくて助かる。


「おう、新井!久しぶりだな。元気か?」


「うん、久しぶり。元気にやってるよ」


 相原とは違って新井さんとは仲良く話せるようだ。心なしか新井さんも嬉しそうに見える。先程までも笑顔は見せていたが、その時とはまた別ものの……いや、これは気のせいではなく、あきらかに―――


「ちょいちょい、エツジ」


 談笑している二人を眺めていると、後ろから相原に肩をつつかれる。


「ここで鈍感なエツジ君に問題です。バスケをしようと言い出したのはうちですが、何故あの2人を呼んだのでしょうか?お答えください」


 自分では鈍感と思っていないので腑に落ちないまま、頭を掻いて考える。普通に考えればバスケ経験者の顔なじみだからと答えるのだが、わざわざ回りくどく問題にするくらいだ。そうじゃなくても新井さんのあんな顔を見れば容易に想像できる。


「……つまり、そういうことか?」


「ピンポン。そういうこと」


 相原と顔を見合わせた後、もう一度リキヤと新井さんに視線を移す。リキヤはいつも通りで、新井さんは嬉しそうなのだがどこか照れているようにも見える。


「中学の時から何度か相談に乗ってあげてたんだけど、ホノカの勇気が出ないまま卒業しちゃってさ。それからも連絡取ってたんだけど、高校になってもまだ好きみたいだから…。ほら、うち、ホノカと仲良いじゃん?できれば応援してあげたいなーって。バスケだったら集める口実にもなると思って誘ったわけ。もちろんこのメンバーでバスケしたいって思ったのは本当のことだけどね」


「なるほどな。てことは俺も協力すればいいんだな?」


「んー…そうだけどそうじゃないかな。協力はしてほしいけど、無理に何かをしてほしいわけじゃないかな。うちらは自然とあの2人の時間を作ってあげるだけでいいと思う。それ以上は何もしなくてもいいんじゃない?あとのことは本人たちに任せることで、外野がどうこういうことでもないでしょ」


 女子とは友達に対してお節介を焼きたがるものと思っていたが、この考えは相原らしい。俺も相原の考えに同意した。俺たちはあくまで2人の時間を作るだけ。それだけでも十分なアシストと言えるだろう。


「一応言っとくけど、上手くはいかないかもしれないぞ?リキヤは色んな人に告白されてたけど、全部断ってるっぽい。自分から告白したって話も聞いたことないし、本人も彼女はいないって言ってたからな。新井さんと言えど…」


「それはそれでしゃーなし。応援はしてるけど、強引な手段でくっつけるとかはしないよ。ホノカの気持ちだけじゃなくてリキヤの気持ちもあるからね。うちらはあくまでチャンスを作るだけ。もし上手くいかなくてもうちが慰めてやるから任して」


「お前……俺よりかっこいいな」


 「惚れんなよ?」と笑う相原はかっこよくも可愛くもあって、何より友達想いということが伝わってくる。

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