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~side 白石サユリ~

「今日は色々あったなー」


 お風呂上り、ベッドの上に飛び込んだ私は今日の出来事を振り返る。


「それにしてもかっこよかったなー……」


 目を閉じて思い浮かべるのは前に立って私を庇うあの人の姿。


「サユリは俺の彼女です…だって…フフフッ。しかも可愛いなんて…エヘへッ」


 想像したくないけど今の私の顔はニヤつきすぎて気持ち悪くなっている気がする。

 ……変態じゃないからね。


 彼氏役として言ってくれたとしてもかなり嬉しい。それくらい私は彼のことを―――

 





 初めて彼が可愛いと言ってくれた時のことは鮮明に覚えている。あれは中学に入りたての頃だ。その頃の私は今と違ってオシャレなんて知らないもっさりとした女の子だった。中学に入って周りが少し大人びているのを感じ、容姿を気にするようになる。だけど、どうしたらいいのかわからずに悩んでいた。自分に自信もなかったし、どんどん自分が嫌いになっていった。

 そんなある日、いつもの6人で1つの雑誌を囲んで集まっていた。その雑誌には当時人気だったアイドルグループのグラビアが載っていて、それを見ながら私たちは話していた。男子なんかは「どの子がいい?」「俺はこの子だな」なんていって盛り上がり、女子は「うわーやらしー」とか言ったりして。

 ちょうど私は容姿に悩んでいたのでその会話に上手く入ることができなかった。上手くもない愛想笑いでやり過ごしながら雑誌に目を落としてボソッと本音がこぼれた。


『私もあんな風になれたらなぁ』


『なれるよ』


『え?』


 独り言のつもりで呟いた言葉に思いもよらぬ返答がきたので一瞬固まる。


『サユリならなれるよ』


『無理だよ……私、ブスだし……こんな風になれないよ』


『何言ってんだ。サユリは可愛いよ』


 初めていわれた「可愛い」という単語に動揺してしまう。


『か、かわいい?わたしが?うそよ…からかわないで』


『嘘じゃないよ。サユリは可愛い。あとは身だしなみに気を遣えば―――』


『二人して何の話してんの?』


 会話の最中に他の人が割り込んできたので途切れたままその話題は終了した。あの時、彼は私の呟きについて黙ったまま別の話題でごまかしてくれた。

 今思えばこの時から意識しだしたのかもしれない。容姿のことだけじゃなくて彼のことも。


 後日、勇気を出して改めて彼に相談した。彼は茶化すこともなく真剣に話を聞いてくれた。そこから一緒にオシャレについて調べるようになった。流行りの服や流行りのヘアースタイル、メイクなんかも勉強した。彼もオシャレには疎かったが、私の為に頑張ってくれるその姿に胸がキュンとした。


 コツコツ続けた努力はやがて実を結び、学年が上がるころには周りの人からも認められるようになった。とくに男子は露骨に態度を変えて告白の回数も段々と増えていった。だが私はそんな告白を相手にしたことはない。私の目的は当初とは変わっていた。


 最初は周りの視線を気にして始めたことだったけど、途中からはある人に「可愛い」と言われたくて自分を磨き続けた。周りから褒められたことで自信もついた。これで”あの人”からも、もっと言ってもらえる、そう思ってたのに、


 ――――――周りから言われるほど”その人”がその言葉を口にする回数は減っていった。






 あの時も今も、可愛いと言われたい人は変わらない。その為に今も自分磨きは怠っていない。この気持ちが何なのかはとっくに自覚している。何度か伝えようとしたけどいつもためらってしまう。私たちの関係性が壊れてしまうかもしれない、そう思うとあと1歩が踏み出せない。

 

 彼はたまに自分を下げるような言い方をすることがあるが、私はそれがあまり好きじゃない。あれだけ何でもできて親身になってくれる人はなかなかいない。それに加えてかっこいい、少なくとも私は世界一かっこいいと思っている。ほかにもそう思っている人もいるみたいだけどそれはそれで複雑な気分。他の女の子と喋っているのを見ると胸が痛くなる。


 学力に大差はなく同じ高校に進学できたのは幸いだった。6人中5人も同じ高校なのは誤算だったけど。

 私は決意している。高校ではこの気持ちをしっかり伝えることを。




 そう、私、白石サユリは二宮エツジに恋をしている。

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