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41話

「まあまあ皆さん落ち着いてください。あんまり責めたらエツジさんがかわいそうですよ。今回はうちの愚兄が招いたことなので大目に見てあげましょう」


 この中で一番大人なのはシズクちゃんだったようだ。よしよし、と俺を甘やかすシズクちゃんは年下なのに聖母と呼んでしまいそう。その横でコウキは追い打ちをもらっているが…。


「次からは気を付けてくださいね?合コンなんてするくらいなら、また私と一緒にお菓子作りましょう」


「ありがとうシズクちゃん。今度はコウキの部活ない日にしようか」


「え?あの日俺は部活なかったけどシズクに―――」


「コウキ兄は黙ってて」


 終始辛辣なシズクちゃんによって、ついにコウキが壊れてしまったのか何か呪文のようにブツブツ唱えている。


「ちょっと…シズクちゃんとお菓子作りってどういうこと?」


「それに関しては私も知らないわ」


「私の家で2人でお菓子作りしただけですよ?一緒に作って、お互い食べさせ合っただけですって。まあ…共同作業ってやつですかね?」


 シズクちゃんまで張り合う必要ないんだけどな。ますます収拾が付かなくなってくる。というか何故マコトは黙ったままなんだ?コウキはさっきから何か「水に流す水に流す」と唱えてるし…。

 俺も考えることを放棄して時間の流れに任せようかと思った時、隣のコウキが「そうだ!」と勢いよく立ち上がった。


「水に流す…つまり、プールに行こう!夏休みの最後の方だったらみんなも部活ないだろうし、そこでこのメンバーにリキヤを加えてプールに行こう」


 本当に故障していたようで、コウキの突拍子のない提案に全員が困惑していた。だが、終わりの見えないこの状況ではまったく関係のないこの話に乗るしか俺に残された道はなかった。


「名案だな!文字通り水に流すってことでみんなでプールに行こう!」


 俺も一緒になって壊れたように「プールに行こう!」の一点張りで押しまくった。それを感じたのか戸惑っていたサユリやエリカも、渋々納得してくれたようだ。


 帰り際になってコウキも正気を取り戻したみたいだ。シズクちゃんの信頼を取り戻そうと必死で弁明している。サユリとエリカはあの後歌を一緒に歌っていてご機嫌な様子。なんだかんだ仲が良いのがここでもわかる。


「……そういえばマコト全然喋らなかったよな?」


 最後尾、俺と並んで歩いているのはマコト。


「僕も喋りだすとかわいそうかなーって思って」


「そういうことか…。黙ってるのも怖かったんだけどな」


 しばし無言の時間が続いた。

 その時、俺は佐々木さんやトウコのことを頭に浮かべていた。申し訳ないことをしたな…という謝罪の気持ちと、あのまま遊んでたらいい関係を築けていたのかなっというちょっとした願望。連絡先も交換しなかったのでもう会うことは無いのだろうが。

 考えながら歩いていると、背中に点のような何かが触れているのを感じた。感触の正体はマコトの指だったのだが、指とは思えないそのプレッシャーは銃口を突き付けられた気分だ。


「……約束したんだけどなぁ」


「今回のは仕方ないというか…」


 背中を突く力が強まる。次の返答を間違えれば弾丸が貫通して俺のへそから飛び出てきそうだ。


「……ごめん。相談するべきだった。許してくれないか?」


 背中の感触が無くなった。許してもらえたという意味合いなのか。


「……水着…持ってないんだよなー」


「……今度買いに行くか?」


「ホント?よかったぁ。エっ君に選んでほしかったんだよね」


 いつものマコトに戻ったようだ。最近になってマコトという人間がわからなくなる時がある。一番近くにいたのに、まだ見たことのない側面を持っているような……。

 マコトは俺の悩みを強引に聞いたことがない。ならば俺も、マコト自ら口にするまでは待とう。その時が来るまで。

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