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30話

 ゲームセンターの奥の方にはまだまだ面白そうな機械が羅列している。その中から、適当にプレイすることになった。

 「これやりましょ!」とサユリが飛びついたのはゾンビを倒していくシューティングゲーム。ハンドガンタイプでペダルを踏んで隠れながら交戦していく、わかりやすい仕様となっている。「雰囲気が大切よ」と構えるサユリはさながら女性の主人公だ。それに倣って俺も構える。それだけでゲームの世界観に近づいた気がした。

 気持ちを作って意気込んでプレイするものの、2人ともそこまで上手くはなかった。


「エツジ!そこいるわよ!」


「そいつはサユリの担当だろ!」


 連携なんてあったものじゃない。「あーあ…、エツジのせいで…」「サユリがもう少し頑張ってればなー…」とお互いに押し付け合っているが、仲の良い煽りのようなもので、それなりに楽しめた。


 「次これやらない?」と俺が提案したのはレーシングゲーム。アイテムを使用して逆転も狙えるので初心者でも競い合える。

 「負けた方はアイスおごりね!」とハンドルを握るサユリは俺がポップコーンをおごったことを忘れているようだ。かと言って拒否することもなくその挑発に乗った。


「なかなかやるじゃない…」


「さすがに負けられないからな」


 俺が1位でフィニッシュした。このゲームは家庭用ゲーム機にもソフトがあって、よくマコトと遊んでいた。そういう打算もあったので負ける気はしなかった。思った以上に競ったので焦ったが…。


 その他にも遊び回り、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 「そろそろ帰る時間かな」と呟いたら、隣でサユリが何か言いたそうにしている。


「どうしたサユリ?まだやりたいことあるのか?」


「えっと……その……」


 歯切れは悪いが、やりたいことがあるのは理解した。


「せっかくなんだし、言ってくれよ」


「……最後にアレ、一緒にどうかなって…」


 サユリがゆっくりと指をさす。その先にあったのは―――


「プリクラか……」


 最後に記念に撮って帰りたいというのがサユリのやりたいことのようだ。それだけのことなのにサユリが言い出せなかったのは、俺にも思い当たるところがある。


「やっぱりいいわ…。エツジこういうの嫌いだったわよね?」


 サユリの言う通り、俺はあまり好きじゃなかった。プリクラが、というわけではなく写真を撮られることが苦手だった。それは自分の外見のコンプレックスが起因するものである。

 自分に自信が持てなくなっていた俺は仲間内でも写真に写りたくないと度々言っていた。絶対に写らないわけではなかったが、極力避け、自撮りなんかはするわけなかった。もちろんサユリもそのことを知っていて、それが遠慮していた理由だろう。


「ごめんなさい。わがまま言って……」


 でも、あの頃とはもう違う。


「俺も撮りたいと思ってたんだ」


「そうよね……。帰りま……え?ホント?」


 サユリから言ってくれるなんて、こんな嬉しいことはないじゃないか。


「ほら、行こうぜ?」


「うん!」


 なんでもないことだけれど、俺にとっては大きな進歩だ。


 経験のない俺には最近のプリクラなんて全くわからないので、サユリに任せる。サユリが操作する横で立っているだけなのに緊張してしまう。中に入る頃には体がガチガチになっていた。

 撮影の時間になってカウントダウンが始まる。


【ピースのポーズ】


 これくらいなら…。


【3、2、1―――パシャッ】


【小顔のポーズ】

 

「え?なにそれ?」


【3、2、1―――パシャッ】


【猫のポーズ】


「猫?ちょ、待って」


「ちゃんとやってよエツジ!」


【3、2、1―――パシャッ】


【ハートのポーズ】


「ハート?!それって…」


「手出して!早く!」


【3、2、1―――パシャッ】


 それからも何パターンか撮影したが、途中でオーバーヒートした俺は言われるまま、サユリにされるがまま、覚えてないまま終了していた。

 加工についてもサユリに任せる。少し絵を加えようとしたけど不採用だった。文字くらいは参加しようと日付や記念やら、ありきたりな言葉を添えておく。


 出来上がりを見てみると、最初に目の大きさに驚いた。俺とは思えないくらいには変化している。そういうものだろうとは思っていたので受け入れることに。

 ポーズについては何パターンか撮った内、サユリが選んだのでここで改めて確認する。唯一まともにできたピースや小顔は選ばれていなかった。その代わり、記憶が曖昧な後半に撮ったものが採用されていた。

 2人で手を合わせて作ったハートのポーズ、腕を組んで顔を寄せているポーズ、背中合わせのポーズ。

 こんなポーズしたっけ?

 極めつけは、向かい合って、見つめ合っている。しかも顔と顔の距離が近い。見る人が見ればキス寸前のような……、これじゃあまるで―――


「カップルみたいじゃない?」


 思うだけで恥ずかしかったのに、声に出されるとどんな反応をすればいいのかわからない。体温がグッと上がった。夏のせいじゃないのは確かだ。

 俺は何も言えなかった。サユリも自分で言っといて顔が赤い。言わなきゃいいのに……。


 この時気づいた。いつもはこんなやり取りに何も感じていなかったのに、今日は一々動揺している。


「スマホにも送れるの。【NINE】のトプ画これにしようかな?」


「それはやめとけ」


 「えー…どうしよっかなー?」とからかいながら喜ぶサユリの姿を見て、待ち合わせの時からずっと感じていた違和感の正体がわかった。

 俺の目に映る世界が色づいていたんだ。それまで、くすんでいた世界と違って。

 中学の頃から一歩引いたところで接するようになっていって、勝手にフィルターがかかっていたんだ。芸能人を見るかのような、近いようで遠い存在。そのフィルターが取り除かれたことを、目の前の手の届く距離で、彩り鮮やかに、それでいて華々しく煌めくサユリを見て、今、自覚した。

 その瞬間から初めてサユリのことを、友達としてだけではなく、女性として、異性として―――


 ――――――こんなに……可愛かったっけ?


 今までも使ってきた言葉。そのニュアンスに違いなんて……。


「どうしたの?」


「なんでもない。帰ろうか」


 俺の見え方が変わっただけで、サユリはサユリだ。大切な、友達。

 よくわからないこの気持ちは、今は心の奥にしまっておこう。


 まだ夏は始まったばかりだ。

ここから何かが……


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