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16話

「んー美味しー。やっぱお母さんの料理は絶品だね」


「あら本当?そう言ってもらえると嬉しいわ。やっぱりマコちゃんは可愛いわねぇ。もう、うちの娘にしたいくらいだわ」


 俺も毎日美味しいと伝えてるんだがな。


「エヘへッ。1つ、そうなる方法があるよ?」


「そうね……。エツジ、あんたマコちゃんと早く結婚しなさい」


 ブフォッ。思わず咳き込んでしまった。


「母さん!変な冗談はやめてくれ!」


「あら、冗談じゃないわよ。こんないい子、他にいないわよ。優しくて気が利いて、可愛いし。向こうの両親とも仲良いし、結婚したらずうっと上手くいくわよ」


 どんだけマコトが好きなんだ……。


「母さんが良くても、マコトが良くないだろ。なあ?」


「僕、嫌じゃないよ?」


 そうだった。こういう時のマコトはよく乗っかるんだよな…。


「エっ君は嫌…なの?」


 誰か、マコトに上目遣いをやめさせてくれ。僕っ子にそんなのやられたら誰だって……。

 ふと我に返る。危うくプロポーズするところだった。


「はいはい冗談はそこまで」


 俺は食に集中する。「冗談じゃないんだけどなー」と隣から聞こえたが、聞かなかったことにした。

 食卓にいると、母とマコトにからかわれるので急いで食事を終わらせ、自分の部屋に戻った。

 少し後にマコトも戻って来たので、ゲームを再開する。

 2人で白熱しながら、22時頃まで遊び続け、そろそろお開きとなった。


 言われた通り、マコトを家まで送る。家を出る際にも母はマコトを甘やかす。


「いつでも来ていいからね。なんなら今日泊ま―――」


 言い切る前に扉を閉めた。


 マコトの家は俺の家から5分ほど歩いたところにある。わざわざ送る距離でもないかもしれないが、万が一ということもある。それに、夜道を歩くのは嫌いじゃない。静けさの中で微かに聞こえる周囲の生活音は聞いてると落ち着く。たまに吹く夜風は涼しげで、頭が冴えるような気がする。


「エっ君は、今、学校楽しい?」


 散々話して、ゲームした後に、この直球が飛んできた。


「……まぁ、それなりには」


「……そっか。ならよかった」


 「どういう意味だよ」なんてマコト相手には言えなかった。


「そっちこそ、どうなんだよ」


「うーん…、楽しいよ?たまにみんなが恋しくなるけど」


「そうか」


 沈黙が続く。決して気まずいわけではなかった。


 どこかの家庭から楽しそうな笑い声が聞こえる。

 夜空を見上げると星が明るい。明日は晴れかな?なんて考える。


 無言のまま歩き続け、気がつけば結城家の前まで来ていた。


「今日は楽しかったね」


「そうだな」


「ごめんね。わざわざ送ってもらって」


「別に。元々送るつもりだったし」


「うん、知ってた」


 お見通しと言わんばかりのその笑顔に思わず目を背ける。

 こういう時に目を合わせられない自分がダサくて、本当に情けない。


 もう用は済んで、あとは別れるだけなのに、2人とも動かない。どちらかが先に動くまで待っている。まるで無駄な我慢比べのようだ。


「母さんが言ってたからってわけじゃないけど、寂しかったらいつでも来いよ。暇だったら相手してやる」


「うん!毎日行くね!」


「いや毎日はさすがに……」


 プハッとお互い吹き出してしまう。空気が和らいだところで「じゃあな」と背を向ける。背後で「またね」と聞こえたが、扉の音はしない。見送ってくれてるのを察した俺は振り向かずに歩き出した。


 帰り道、何かを忘れている気がしていたが思い出せなかった。

 家について内山君からのメッセージを見て、やっと思い出したのだが、〈全然気にしないで〉という内山君はやはり聖人だった。

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