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94話

 廊下の遠方から「いた!」と大きな声が響いて聞こえた。振り向くと見覚えのある女の子がこちらに向かっていた。


「やべっ、見つかった」


 コウキが苦い顔をしているのは、その女の子が妹のシズクちゃんだったからだろう。


「コウキ兄!やっと見つけた!」


 口ぶりから察するにコウキはシズクちゃんが来ることを知っていたのだろう。


「なんだよコウキ。シズクちゃんが来るなら言ってくれればいいのに」


「だってよー…」


「エツジさん!お久しぶり……ってわけでもないですね!この前も一緒にお菓子作りましたもんね!」


「この前?」「どういうこと?」「僕聞いてないなー?」


 例のごとく反応する三人の女子たち。それもそのはず、三人はこの事を知らない。

 実は夏休み明けてからもシズクちゃんがお菓子作りに誘ってくれるので、何回かコウキの家に遊びに行っていたのだ。お菓子作りということで、材料や家の都合上誰彼構わず呼べるわけでもなく、コウキとリキヤにしか声をかけていなかった。何故だか、いつも二人の都合はつかなかったが。


「ま、まあ、それはいいじゃないか。それよりなんで黙ってたんだよ?」


「どうせ劇を観られるのが恥ずかしかったんでしょ?コウキ兄、文化祭のこと全然教えてくれないんだもん」


 コウキの代わりにシズクちゃんが答えてくれた。シズクちゃんの推理は図星だったようで、コウキは露骨に嫌そうな顔をした。


「妹が学校に来るってだけで恥ずかしいのに、その妹に劇なんか観られるなんて地獄だろ。しかもお前、写真撮って母さんに見せるつもりだろ!」


「当たり前じゃん。お母さんにも頼まれたもん。写真も動画もばっちし撮るつもりだよ」


「絶対にダメだ!頼むから今日はもう帰ってくれ!」


 コウキは断固として拒み続ける。もちろん、俺はいつだってシズクちゃんの味方だ。


「シズクちゃんになんてこと言うんだ!」


「うむ、その通りだ。安心しろ。劇について詳しいことは俺たちが教えてやる」


 リキヤも加わり、助さん格さんばりにシズクちゃんを守るように立ちふさがる。


「二人を味方につけるなんてずるいぞ!」


「あら、二人だけじゃないわよ」


 この場にコウキの味方をする人は誰もおらず、コウキに勝ち目などなかった。それでも最初は諦めずごねていたが、抵抗したところで意味がないと徐々に悟り、次第に大人しくなった。


「皆さん、ありがとうごさいます!」


 シズクちゃんの笑顔は人を元気にさせてくれる。

 うん、今日も可愛い。


「そういえばエツジさんも探してたんですよ?教室にも行ったんですけど、見当たらなくて……本当はエツジさんに接客してほしかったのに」


「俺とエリカは朝の時間帯の担当だったからね。俺がいる時に来てたらめちゃくちゃサービスするんだけどなー」


「じゃあ今サービスしてもらってもいいですか?」


「今?できることならいいけど……なにがいい?」


「その……一緒に写真撮りたいです」


「それでいいの?だったらいくらでも撮るよ」


 今の格好で撮られるのは恥ずかしいが、もじもじとお願いするシズクちゃんにお願いされたら断るわけがない。たかだか写真を撮るだけなのだが、シズクちゃんはぴょんと跳ねて喜んでくれた。

 うん、やっぱり可愛い。

 コウキに撮影係を押しつけ、シズクちゃんと並んで撮ってもらう。俺が無難なポーズばかりするものだから、途中からシズクちゃんから指示される。


「シズクちゃん……ちょっと恥ずかしいというか……近いというか」


「我慢してください」


 吸血鬼のように首筋を噛むふりをしたり、後ろから腕を回してマントで包み込んだり、ひやかされながらも指示に従った。周りの視線が気になったが、シズクちゃんの為と思って乗り切った。俺も大概甘いようだ。

 撮り終わった写真を見て、シズクちゃんは満足気な顔をしていた。その顔を見れば我慢した甲斐があるというものだ。


「ありがとうごさいます!後でエツジさんにも送りますね!」


「どういたしまして。ところでシズクちゃんはこの後どうするの?よかったら俺らと回る?」


「ホントですか?!是非!……って言いたいんですけど、今日は友達と来てるので。待たせてるのでもう行かないと。またコウキ兄の劇で会いましょう!」


 そう言って劇の時間と場所だけ聞き、元気に走り去っていった。

中途半端になりそうだったので短めに区切りました。

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