第6部 最終章
ついに愛機から降りる決心をしたロン。
その訳は以外なものだった。
この物語はフィクションです。
登場する人物・施設等は全て架空のもので、実存するものとは何ら関係ありません。
実際の運転は、マナーを守り安全運転を心掛けましょう。
ACT.1 FSW-S
その日は、Nurに換装して初めての走行会だった。
いつもの霊峰富士に程近い富士スピードウェイ。
だが、世界有数のストレートを持つ本コースではなく、
こじんまりとしたショートコースである。
最高速は試せないが、それでも3速まで全開で踏める。
ピットからの走り出しが軽い。
Rをショップに引き取りに行った時にも感じたが、
明らかに別エンジンだと実感する。
これが職人によって手組されたNurエンジンなのか。
アウトラップを終え、タイムアタックに移行した。
結果、ラジアルタイヤ部門での最速をマーク。
3台居た34Rよりも速い結果に満足だった。
本コースのストレートでどれだけ出るか楽しみだ。
ACT.2 PowerだけじゃないNur
ある夏の日、北アルプスへとノーズを向けた。
穂高連峰への玄関口である上高地までは、自宅から
往復で約500kmほどである。
特別に燃費を意識せずに流れに乗って高速を走った。
真夏だからエアコンも普通に使った。
満タン法での計算であるが、8.2km/Lと2.6リッター
ツインターボとは思えない結果に驚いた。
それまでの純正RB26では、エアコンすら我慢当然の
燃費走行をしても、7.0km/Lが精一杯だったからだ。
ライン組と違い、手組のNurは内部のフリクションが
小さく、エネルギーロスが少ないのだろう。
そんなNurの側面も堪らない魅力だった。
ACT.3 終焉
時は流れ2015年の春、人生を動かす出来事があった。
現状を変える事は厳しいと判っていたが歩き出した。
だが、立ちはだかる障壁は多く、ついに力尽きた。
何も与えられず、何も教えられず、彷徨う日々が続いた。
それでも自分の真意に嘘は無く、やれる事は全てやった。
しかしそれは自己満足でしかなく上手く伝わらなかった。
「どうして私だけ…」
その言葉が心の奥底に突き刺さって取れなかった。
だから、自分の一番大切な愛機を手放した。
それは愚かな行為だとも判っていた。
だが相手と同じだけの痛手を負うためには、それ以外の
方法は考えつかなかった。
2015年初冬、22年間も苦楽を供にした愛機がついに俺の
元から去っていった。
想像を絶する絶望的な喪失感から、未だに立ち直る事が
出来ないままでいる。
― 完 ―