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第4部 赤い猛牛

東名高速で遭遇したレッドブル。そいつは子供の頃からの憧れだった。

この物語はフィクションです。

登場する人物・施設等は全て架空のもので、実存するものとは何ら関係ありません。

実際の運転は、マナーを守り安全運転を心掛けましょう。



ACT.1 Long touring


その日は、地元のモータースポーツ仲間と、ロングツーリングを楽しんだ。

まだ夜が明けない早朝から集まって、一般道で浜名湖まで鰻を食べに行った。

地元のオバタリアンから、お勧めの店を聞き出して向かった鰻屋は、まだ開店前だ

というのに、店の前にはたいそうな行列が出来ていた。

普段なら絶対に並ばない連中なのに、折角だからと促されて仕方なく並んだが、

出てきた鰻重を平らげると、不機嫌な顔をしたヤツは居なくなった。

浜名湖周辺の観光スポットを2、3ヶ所巡ったあと、渋滞が始まる前に帰路に着く

ことになったが、さすがに若くないので、帰りは高速だ。


東名上り、足柄SAを過ぎた辺り。

土曜の夕方、まだ渋滞にはなっていないが、交通量はかなり多い。

こういう時、何故だか自分のいる車線だけ、流れが悪いような気がしてならない。

しかし、気軽に車線変更が出来るほど、前後左右の車間に空きはない。

酷く退屈しながら、カーラジオから渋滞情報が流れるのを待っていた。

ラップ調の軽薄なDJが、ゲストに呼んだロックバンドにインタビューする声に、

明らかにそれとは違う何かが混じり始めた。



ACT.2 雷鳴の正体


(なんだ夕立ちの雷か?)

その雷鳴に似た音が、近づいて来ていると気付いたのは、トンネルに入った時だ。

(雷じゃない、車の排気音だ)

まだ、バックミラーで車種までは確認出来ない距離だが、そいつが発する爆音は、

間違いなく近づいて来ていた。

(フェラーリならもっと甲高いし、ポルシェのボクサーサウンドでもない、何だ…)

俺は自分の車を車線内で目一杯右に寄せ、バックミラーに写るであろうそいつを待った。

トンネルを抜けると、そいつが赤いボディのリトラクタブルだと判った。

右に左に、強引に車線を掻き分けながら近づいてくる。

日本車にはない幾何学的な造形美をしたそいつの正体は、小学生の頃、憧れの的だった

ランボルギーニ・カウンタックだ。



ACT.3 赤い猛牛


そいつにピッタリと後ろに着かれ、空ぶかしの洗礼を受ければ、その圧倒的な存在感と

威圧感で、みんな恐怖を感じるのだろう、すぐさま進路を譲る。

まさに、闘牛場から飛び出して来た猛牛そのものだ。

俺の車も、深夜や早朝にエンジンをかける事をためらう程度に爆音なのだが、そいつは

まだ2〜3台後方だというのに、そいつの咆哮しか耳に入ってこない。

遂に、そいつが俺の真後ろに来た。


猛牛の発する轟音で、鼓膜がどうにかなりそうだ。

だけど、コッチもGT-Rのプライドがある、そう簡単には譲れない。

ルームミラー越しに、猛牛のドライバーの顔を見ようとしたが、光の反射で見えない。

こらえ性の無い猛牛は、威嚇するように、その首を左右に振り出した。

猛牛の横に居た一般車は、たまらず減速する。

猛牛は、追越し車線に出来たスペースに飛び込んだ。

そして俺の真横に並ぶ。

今度はサイドウィンドウからドライバーを見ようとしたが、フルスモーク貼りだ。

ナンバーを覚えるために、前車との間隔を開けると、思惑通りに猛牛が前に来た。

(品川 33 む XX-XX)

ナンバー覚えて、それが何になると言われても困るが、とにかく覚えた。

強烈な排気音で、頭がクラクラする。



ACT.4 スーパーカーと国産車


目の前にあるエキゾーストからは、殺人的な爆音が響いていた。

何をそんなに急いでいるのだろうか、猛牛はさらに前の車を煽りだした。

退屈しのぎに、俺は猛牛を露払いに使うことを思いついた。

猛牛が煽って開けたスペースに、猛牛に続いて飛び込む。

時には先を読んで、猛牛より先にコッチのノーズを突っ込む。

しばらくすると、だんだん猛牛がムキになって来たのがわかった。

それまでとは明らかにペースが早いし、車間をすり抜ける間隔もギリギリになった。

次のターゲットは、ボンネットの先端に星を飾った高級外車だ。

猛然と迫る猛牛に、驚いて進路を譲ったその高級外車は、猛牛が強引に割り込むと、

その直後の俺には、ドアを閉めるように進路を塞いだ。

(クソー、スーパーカーとの差かよ、国産には譲れねぇってか)

そして、何をしても譲ってはくれなかった。


赤い猛牛は、みるみる遠ざかってしまった。

少し離れて観察すると、猛牛はその巨体に似合わず俊敏な動きをする。

ドライバーもかなりの腕前なのだろう。

もしかしたら、有名な漫画家の先生かなと思いを馳せながら、赤い猛牛を見送った。

カーラジオは、この先、東京料金所まで断続的に渋滞していると伝えていた。

猛牛はあのペースで東京まで行くのだろう、恐らくそれが宿命なのだ。

そして俺は、大嫌いな渋滞を回避するために、厚木インターで東名を降り、

いつもの健康センターで、一風呂浴びてから家路に着く事にした。


― 第4部 完 ―


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