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第3部 霧の中のチェイサー

いつもように走りに出かけたユウジとロン。そこには2人とは違ったストーリーが存在した。

この物語はフィクションです。

登場する人物・施設等は全て架空のもので、実存するものとは何ら関係ありません。

実際の運転は、マナーを守り安全運転を心掛けましょう。



ACT.1 GARAGE of BLUE SKY


よく晴れた土曜の昼下がり、洗車をしていたロンの前に、ユウジのZ34が現れた。

「よう」

「おっ、何だこんな時間に」

「ちょっと手伝ってくれよ」

そう言うと、ユウジはナビシートに置いてあった、ビニール袋をロンに見せた。

真新しい箱に、ENDLESSのロゴが見える。

ユウジは、万人向けの純正パッドの特性が、最初から気に入らなかった。

やっと注文していたヤツが届いたので、早速取り付けにやって来たのだ。

「あぁ、構わんよ」

ロンは作業スペースを空け、フロアジャッキと馬、それに必要な工具を準備した。

昔から車イジリが好きな2人にとって、ブレーキパッドの交換なんて朝飯前だ。

手際よく馬に乗せ、エンケイのホイールが外された。

ほんの数十分で、交換作業は完了した。

「ディーラーやショップに頼むと、こんなんでも1万円は取られるからなぁ」

トルクレンチでホイールナットを締め込みながら、ユウジは呟いた。

都内のマンション暮らしで、車イジリの場所がないユウジは、時々だがこうして、

郊外に住むロンの家の駐車場にやってくる。

ロンも、愛車のモディファイのほとんどを、ここで自分で行っている。

但し、青空ガレージなので、雨の日と夜は使用出来ないが…。


夜まで時間を潰した2人は、市内のコンビニで、今夜の出撃先を模索していた。

「海か山か、どっちにする?」

ロンの問いかけにユウジが応える。

「最高速は、次のステップが済んでからにしてぇな」

「次のスッテプって?」

「マフラー入れるのさ」

「ほう、どこの?」

「アミューズ」

「ほう、んじゃ、山だな。コースは?」

「銀時経由、永尾でいいべ」

2台はノーズを箱根方面へ向けた。



ACT.2 ホームコース


銀時山入口。

ここまで来ると、さすがに一般車の姿は無い。

2台はペースを上げた。

道端に積り溜まった山桜の花びらが、2台の走行風で舞い上がる。

九十九折りのコースをしばらく登っていくと、霧が視界を奪い始めた。

酷い濃霧だ、ひとつ先のコーナーも見えない。

それでも、記憶を頼りに走る2台のペースは落ちない。

ほどなく、山頂の展望台まで辿り着いた。

「昔はもっと長かったよな、このコース」

「あぁ、そうだな、短く感じるよな」

今でもここを走っているヤツが、他にどのくらい居るかどうかは不明だが、

間違いなく最速に近い走りをしている事に、2人は気付いていない。

山頂付近はさらに霧が濃くなり、2台のヘッドライトが、まるで生き物の

ように動く霧のスクリーンに反射している。

「この分じゃ永尾も霧だな」

「そうかな、意外と平気じゃねぇかな」

「いんや、ここが霧の時は100%あっちも霧だ、霧の永尾は怖いぜ〜」

「でも行くんだろ]

「あた棒よ」

2台は次のスペシャルステージを目指し、霧の中へ溶け込んで行った。



ACT.3 霧の中のチェイサー


同時刻、永尾峠。

俺の名は、コウイチ。

先週ついに自分の車を手に入れ、こうして地元の峠を攻めに来ている。

車はチェイサー、無理してTRD仕様を買ったのはいいけど、月賦がキツイ。

ナビシートでビビッてるのは、ダチのシンヤ。

まだ仮免で、車も持って無いシャバい奴だけど、中坊からの付き合いだ。

シンヤは4ドアなんてオッサン車だと言うけど、俺は狭っ苦しい2ドアが嫌いなんだ。

大人4人がちゃんと乗れて、それなりに走る車って探したらあんまり無い。

しかもFRって条件をつけると、もう選択の余地は無かった。

それに、無理くり付けたような羽が、なんか俺に似合ってる気がしたんだ。

「なぁコウイチ、夜の峠って何も見えないなぁ」

「・・・」

「なぁ、対向車がはみ出て来たらどうするんだよ」

「・・・」

「オイ、何か言えよー」

「うるせぇな、バカヤロー、集中してんのが判らねぇのかよ、黙っとけ!!」

ホントは俺もかなりビビッてた。

夜の峠がこんなに怖ぇとは思ってなかった。

でも、コイツの手前、そんな素振りは見せられない。

(な、何とか上まで行かねぇとカッコつかねぇ、つ、次は右か左か、どっちだ)

その時、バックミラーに何か光った。

(後続か?)

間違いない、スゴイい勢いで迫ってくる。

「なぁコウイチ、うしろ2台来てんぞ」

「わかってるよ!」

「コウイチ、譲ったほうがいいよっ」

俺はチェイサーを左に寄せた。

その右を「ドヒュン、ギョワン」と黒いZと白いRがブッ飛んで行った。

「あいつらキチガイだ…」

シンヤは呆気にとられていた。

俺は敗北感で一杯だった。

(俺だって目一杯走ってるのに、あのスピードで追い抜きザマにハザードまで焚いて

行くなんて、あいつ等にはまだ余裕があるんだ…)

途中から小雨のような霧で路面はウエットになり、さらにビビりながら、なんとか

頂上に着いた時にはもう、あの2台の姿は無かった。



ACT.4 ナビゲーション


国道138号沿いの、とあるコンビニ。

「今日は最悪だな、どこも霧ばっかりだ」

タバコに火を着けながら、ユウジは毒づいた。

「途中の、ちょうどチェイサーを抜いたあたりまでは、イイ感じだったけどな」

「そのあとは、路面も濡れて滑りまくるし、ストレス溜まるぜ」

怒った機関車のように、鼻から煙を吹き出した。

「それで、新しいパッドはどうよ」

「あぁ、踏んだ分だけ効くっていう、望んだ通りの特性だよ」

「そうか、そりゃ良かったな」

「でも、今夜はもうムリだな、どうする?」

「風呂でも行くか」

「厚木のか」

「この時間だと、そこしかないべ」

「ちょいと待て、ナビにセットするから」

ユウジは自慢のナビゲーションシステムに、いつものサウナをインプットした。

「ピンポン、目的地まで約55分です」

ナビゲーションが無機質な音声で喋っている。

そこからR1を下って、小田厚経由で厚木まで、2台はナビが計算した半分の時間で、

目的地に到着した。


― 第3部 完 ―


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