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第1部 New Car

この物語はフィクションです。

登場する人物・施設等は全て架空のもので、実存するものとは何ら関係ありません。

実際の運転は、マナーを守り安全運転を心掛けましょう。



ACT.1 チューンアップ


AM03:00 東名高速上り厚木IC付近。

追越車線を走るユウジの前方に、巨大な羽を纏ったZ33が見えた。

一見しただけで、イジッてあると主張する大きな羽だ。

ユウジは少しだけ右足に力を入れ、愛車Z34の速度を上げた。

クォーンと、速度は160km/hに達し、そのままZ33をオーバーテイクした。

追い抜かれたZ33は進路を変え、ユウジの後ろを猛然と追い上げてきた。

ユウジはZ34を全開にして迎え撃つ。

スピードメーターが170,180と上がるにつれ、周りの景色は後方に弾け飛び、

視界はどんどん狭くなってゆく。

突然、Z34は息継ぎをするように加速を中止した。

その横を悠然と加速し続けるZ33は、まだ夜が明けない都心方面へと消えていった…。

悲しいかな、ユウジのZ34は新車ゆえ、全てのリミッターが生きたままなのだ。

「クソっ」ユウジはアクセルを離しながらZ34のチューンを決心したのだった。



ACT.2 番長


「Z34買ったの? 早いねー」

「いいでしょ、33と全然違うでしょ」

「富士で380より速いんだもん、驚いちゃったよ」

矢継ぎ早にまくしたてているのは、とあるショップの社長だ。

GTRチューンで有名なこの男は、一部の崇拝者から番長と呼ばれ慕われている。

ユウジはこの男がリリースしているZ34用のECUチューンに、白羽の矢を立てたのだ。

この日、悪友のロンに同席してもらい、Z34のステップアップを敢行した。

ロンは古くからの友人で、昔レースをやっていた。

今はレースから引退しているが、車遊びを辞められない車バカだ。

2児の父親であり、子供と組んでレースをするのが夢らしい。

笑ってしまうのは、その子供達はまったく車に興味が無い。



ACT.3 テストラン


「そろそろ行くか?」豚キムチを鱈腹食い、腹をポッコリさせたロンが言う。

「あぁ、ボチボチだな」ユウジもそれに答え、愛機のキーを手にした。

日付が変わろうかという頃、2人はZ34の試走に繰り出そうとしていた。

夕方に降り出した雨は既にあがっていて、路面は乾き始めていた。

ユウジとロンがそれぞれの愛車に火を入れると、閑静な住宅街の湿った空気が震えた。

ロンは15年前に買ったBNR32を大事に乗っている。

エンジンはノーマルだが、所々に彼好みのチューニングが施されている。

2台は葛西ICから西へ、まずは首都高速湾岸線を大黒パーキングまで流してみた。

「Z速くなってるよ、100km/h位からの中間加速は、俺のRと同じくらいだな」

ロンはZに付かず離れずの距離を保ちながら、ここまで追走してきた感想を伝える。

「あぁ、アクセル踏んだ時のレスポンスが格段に良くなってる」

ユウジもご満悦そうに、そう応えた。

それにしても土曜深夜の大黒パーキングはウルサイ。

音響族だが何だか知らないが、パーキングエリアの最前列を占拠して、無駄に大きい

スピーカーを鳴らし続け、騒音を撒き散らしている。

「世も末だな…」

無粋な大人に付き合わされている幼い子供達を見てユウジは呟いた。

「うるさ過ぎて話も出来ん、海ホタルへ行こう」

ロンは返事を待たずに車へ乗り込んだ。



ACT.4 リアル湾岸ミッドナイト


「くぅー、怖えェー!!」

初めて体験するZ34での200km/hオーバーに、ユウジは思わず弱音を漏らしていた。

さっきから純正メーターは振り切ったまま、目盛りの無い所に貼り付いている。

フロントの接地感は薄くなり、両手で押さえていないと、どこかへ吹っ飛びそうだ。

「くわァ、ロンが来たー!!」

「ぬ、抜かれるー!!」

バックミラーに大きく写るヘッドライトに、ロンが迫ってきたのを感じるユウジ。

220,230,240…Rのフルスケールメーターの針がゆっくり動いていく。

250を指し示したとき、ロンのRがZを抜き去っていった。

「うーん、240くらいか…」

ロンは、速度差を計算してZの最高速度を推測していた。


AM01:00 アクアライン。

2台のほかに誰もいない海の底は、現実感がまったく無い。

「なぜ走るの? そんなことして楽しいの?」

そう聞く人は想像力が乏しい。

そこには、答えなど無い。

日常では経験出来ない世界が、そこにある事を知っているか、知らないかだけの差だ。

たったそれだけの事で、命を落としかねない危険な世界に、人は魅了され踏み込む。

登山家と理屈は同じだ。

但し登山家は命を落としても英雄扱いされるが、ここでは只の愚か者で終わる。


ユウジは「ECUチューンしたZ34ならロンの前を走れるかも」と考えていた。

だから、いくらGTRとはいえ、15年も前の車に最新のZ34が抜かれた事に憮然としている。

「まぁ、腐っても鯛ってヤツで、腐ってもGTRなのさ」ロンがうそぶく。

「でも、ECUだけで60km/hも最高速が上がったのはスゴイな」

「次は軽量化だな、お前のZと俺のRじゃ、200kg近く車重に差があるからな」

ユウジは黙って頷いている。

「おうそうだ、アレ見なきゃ」ユウジは自分のZの前に立ち、何やらニヤついている。

「なかなかセクシーじゃないの」

ユウジは交換したばかりの、ブルーのLEDポジションランプがお気に入りだった。


第1部 完



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