0 day ①
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山道を駆ける赤い稲妻は2人の命を乗せ走る。
その時の彼はとても未熟だった。
彼女のためならなんでもしてやる。
彼の行動には常に彼女が中心にいた。
その浅はかな考えが今回の事故を引き起こしたのだった。
時速160キロ、坂道を下るスピードは徐々に上がりそれでも彼はブレーキに指をかけない。彼は高揚していたのだ。初めて後ろに誰かを乗せ走ることに。自分がどれだけの器の人間かを見せつけてやろうと、そんな小さな危険な自慢をしてやろうと彼は躍起になっていた。
ある程度楽しみそろそろブレーキをかけなければ本当に危ない。そう考えてブレーキに指をかけた。
しかし、遅かった。ブレーキをかけようとした瞬間、バイクの前に、先日の大雨で土砂が緩んでいたからであろう、いくつもの岩石が道に転がっていた。
慌ててブレーキをかけたが、間に合わず、岩石に足元をとられそのまま横転した。
目がさめると道路の真ん中に転がっていた。身体には擦り傷程度で特別重症な怪我は無かった。
意識がはっきりと戻り、辺りを見渡す。しかし、彼女の姿は見えない。一瞬。彼は考えうる最悪の結末を想像してしまう。そんな幻想を頭を振り葬り去る。そこで一度落ち着き、他の可能性を考えた。岩石の下、バイクの下、ここにいて欲しいと願いながら、探すが、
いない。どこにもいない。そして最後の選択肢。車道のガードレールを乗り越えた先。恐る恐る見下ろし、その視線の先にはー。
いた。ヘルメットを被り自分の彼女が着ていた服を着た人間がそこにはいた。
病院内
不幸中の幸いだと言えるのかどうか。結果だけを言うと、彼女は生きていた。しかし、意識は戻っていない。
目の前に確かに彼女はいる。だが、彼女は今も闇の中で一人なのだ。
まだ彼女は悪夢を見ているのか。俺のせいで。俺が招いたこの事故は、ほんの少しの強がりと意地だけで出来上がってしまった。
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終
ありがとうございました