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約束

夜、宿屋4人部屋の一室、ユウヒ達はナズナの買取が決定してから雰囲気が良くなかった、ユウヒは窓園とを見ながら何かを考えていて、ナズナは俯いたままずっとぼーっとしている、ミーナはどうすればいいのかわからずオロオロしている、ヒカリはそんな雰囲気も気にせずにすぴーっと可愛らしい寝息を立てながら寝ている。


「ミーナ、もう遅いから寝るぞ」

「え、でもユウヒ様…」

「いいから」


ミーナは「そうですか…」と言いながら布団に入る、ユウヒはナズナにも寝ろと言ったが特に返事も無かったので部屋の明かりを消して布団に入る。

しばらくするとミーナのベットからもすぴーっと寝息が聞こえてくる、どうやらみんな寝たようだ、だがしばらくするとパサっと布が落ちるような音が聞こえてきた。

そしてユウヒの上に何かがまたがってくる。


「ユウヒさん…」


そこにいたのは一糸まとわぬ姿のナズナだった。


「ナズナ、お前何して…」


質問には答えずにナズナは少しずつ顔を近づけ、唇と唇が触れそうになる瞬間、ユウヒの手がそれを防いだ。


「どうして…拒むんですか…?」

「お前は今日売れたからだ、契約はまだしてないとはいえ手を出すわけにはいかない」


ナズナの瞳から涙が流れる、涙は頬を伝ってポツポツとユウヒの頬に落ちていく。


「…私は…私は!ユウヒさんと…離れたくありません…、ずっと貴方のそばに…居たいです…」

「……やめろ」

「貴方の隣で…ずっと…」


ナズナがユウヒに向けている感情をユウヒはずっと前から知っていた、だが知らないふりをしていた、ナズナは商品でユウヒは商人、いずれ別れは来ると分かっていたからだ。


「…私は…貴方のことが…」

「…やめろ、それ以上言うな」


分かっていたからユウヒはどこかで怖がっていた、その感情と向き合う事を、言葉にしたらきっと今まで通りにはいられない、あの家族と過ごしているような時間を無くしたくなかったのだ、だがもうナズナは止まらない。


「私は…ユウヒさんの事が…好きです」

「……」

「私は…貴方以外の隣にいる未来なんて…嫌なんです…」


ユウヒはナズナの告白をどう答えていいか分からなかった、今まで誰かにこんな事を言われたことが無かったからだ、このまま受け入れてもいいんじゃないか、という考えが頭をよぎる、それと同時にナズナとした最初の約束を思い出した。


ユウヒはこの約束を叶えるために、あの願いを嘘にしないために、ナズナを押しのけた。

突然ナズナを押しのけてベットから降りたユウヒを見てナズナは拒絶されたと思い静かに涙を流す、ユウヒはそんなナズナの頭を優しく撫でる。


「ちょっと用事ができた、行ってくる」

「…え?用事って…どこに?」


ユウヒは何も答えずに宿屋から出て行く、そしてしばらく歩き裏路地に入る、すると後ろから足音が近づいてくる。


「あれぇ〜?どこ行くんですか〜?奴隷商人さーん」


暗闇から現れたのは騎士団の手配書の写真で見た男だった、おそらく宿屋に入る前から監視されていたのだろう。


「ハイドロフの旦那にな、あんたを見張っとけって言われてるんだわ〜、怪しい行動をしたら殺してもいいともな」


そう言って男は腰の鞘から小さな剣を抜いて《強化》を使いダンッ!と地面を蹴り一瞬で距離を詰める。


「痛みを感じる暇もなく殺してやるぜ!」


男は剣を振り下ろしながら勝ちを確信しニヤッと笑った、だがその笑いはすぐに消えることになる、なぜなら肉を切り裂く音ではなく金属がぶつかる音が響いたからだ。

よく見るとユウヒは右手の義手で剣を掴んでいた。


「なにっ!」

「今は機嫌が悪いんだ」


ユウヒは右手で剣をつかんだまま左手の拳をぎゅっと握り《強化》を左手に集中させる。


「死んでも恨むなよ」


バコンッ!と音が響きユウヒの左手は男の胸を貫いて貫通する、左手は血で真っ赤に染まり溢れた血はビチャビチャと音を立てて地面に流れ落ちていく。


「こいつは騎士団の土産にでもするか…」


ユウヒは男の死体を引きずりながら裏路地に入っていった。


次の日の朝、ハイドロフ家の前にユウヒとナズナは普通に来ていた。

扉をノックするとメイドが扉を開けて「お入りください」と言って頭を下げる。


「よく来てくれた、待っていたよ」


そう言ってエルニザードが二階から降りてくる、ナズナをチラッと見てニャッと嫌な笑みを浮かべている。

そしてなんの滞りもなく契約は完了して代金を受け取る。

ユウヒはナズナの方を見て「元気でな」と言って家から出て行く。


「さぁ、ナズナ、部屋に行っていい事をしようじゃないか」


そう言って強引にナズナの手を引いて二階に上がろうとする、だがその前にメイドがさっとエルニザードの隣まで歩いてきて「騎士団の方々が来られております」と言う、エルニザードは楽しみを邪魔されたので若干不機嫌になりながら玄関まで戻る。


「これはこれは騎士団の皆様こんな朝早くにどうされました?」


玄関にいたのは《狂犬》のハルナだった。


「エルニザード・ハイドロフ、お前を逮捕する」

「なにっ!」

「すでに証拠は掴んだ、お前が雇っていた殺し屋の遺体もこちらが持っている、さあ詰所まで来てもらおうか」


ハルナは後ろに控えていた騎士に「連れて行け!」と命じエルニザードは両手を拘束されて連れて行かれる。

突然のことで驚いて固まっていたナズナの元にハルナは静かに近づき二つ折りの紙を「ユウヒ殿からだ」と言って渡す。

手紙にはこう書いてあった『ナズナ、これをお前が読んでいる頃はエルニザードは捕まっている頃だろう、おめでとう、これでお前は自由だ、3年前の約束は果たした、後は自由に生きるといい』、3年前の約束、ナズナは忘れかけていた小さな約束を思い出す。


『願い?』

『ああ、なんでもいい』

『じゃあお兄ちゃんのお嫁さんなどはどうで…』

『却下』

『むぅ…じゃあ私が大きくなったら、奴隷から解放してほしいです』

『そうか、分かった』


何か願いはないかとユウヒに聞かれてふと答えたあの言葉をユウヒは果たしたのだった、それを思い出したナズナは泣きそうになる。


「これより君は仕事につけるまでは騎士団が保護する、これから君は奴隷ではない」


ハルナの言葉を最後まで聞かずにナズナは外に飛び出した、まだ朝早いのに人通りが多く、走っていると次々人にぶつかる。


「まって…」


あの見慣れた後ろ姿が遠くに移る。


「まって…ユウヒさん…」


だが人通りが多すぎてなかなか前に進めない、それどころか後ろに流されて行く。


「お願い…まって…」


だんだんと距離が離れて行き姿も見えなくなって行く。


「ユウヒお兄ちゃん!!」


一瞬、ユウヒの足が止まるが、ユウヒは振り返ることなく、また歩き始める、今のユウヒに振り返るという選択肢は無い、ここで振り返ってしまえばきっと進めなくなるからだ。

ナズナの泣き声が聞こえてくる、がだんだんと届かなくなっていきそして完全に聞こえなくなった。

ユウヒは馬車に乗ってすぐにこの国の出口に向かう。


「ユウヒ様、本当によかったのですか?」

「ああ…これでいいんだ」


ユウヒはフードを深く被り顔が見えなくなった、この時のユウヒの表情がミーナとヒカリには見えなかった、だから今のユウヒの感情を知る者は1人もいない。


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