王都
王都エルミナ、そこは他の街よりも建物が綺麗で人も多く賑わっている、もちろん人間以外の種族もちらほらといる、王都を守る騎士団もいてここではほとんど犯罪が起きない、起きるとしたら貴族がなにかやらかす時ぐらいだという。
「人が多いですねー」
「まあ王都だからな」
ユウヒ達はようやく王都に着いた、ここに入るための手続きはイギンの街よりさらに時間がかかってそうとう疲れていた。
とりあえず今回は宿屋は探さず顔なじみがいる騎士団の詰所に向かう事にした。
王都の騎士団には3年前の戦争で奴隷を売っているので今日はその奴隷に会いに行く。
しばらく進むと3年前と変わらない詰所があった、ユウヒは馬車を道に止めてナズナ達は馬車で待機させて詰所に入る。
詰所に入るとゴツゴツとした鎧を着た騎士やその他の事務作業の人がいた、とりあえずユウヒ達は受付に向かった。
「すいません、《狂犬》のハルナ、居ますか?」
「あの…ハルナさんのお知り合いの方でしょうか?ご用件は」
受付嬢さんはかなり怪しいものを見るような目をしていた、《狂犬》に恨みをもう人も少なからずいるので警戒しているのだろうか。
「小汚い奴隷商人が来たって言えばわかるよ」
受付嬢さんは「少々お待ちを」と言って後ろの扉から奥に入っていった。
しばらくすると扉がバンッ!と開いて鎧を着た赤髪の女性が早足で歩いてくる。
そしてユウヒの前まで来て片膝をついて頭を下げる。
「お久しぶりです、ユウヒ殿!」
「ああ、久しぶり」
そろそろ周りからの視線が痛いと思ったユウヒはハルナを立たせる。
ハルナは3年前までユウヒと旅をしていたうちの1人だ、騎士になりたいと言っていたので徹底的に鍛えて騎士に売ったが活躍できているようで何よりだ。
「この国にはどういった用件で来られたのですか?」
「奴隷販売、あともしかしたら迷惑かけるかもだから先に挨拶をと思ってな」
「なるほど、ユウヒ殿はよくトラブルに巻き込まれるお方ですからね」
そう言ってハルナは「ははは」と笑っている、ユウヒは申し訳なさそうに目をそらす、昔はよくトラブルに巻き込んだものだ。
あの時は大変だった、雪崩に巻き込まれたり、崖から落ちたり、魔族と軍の戦場付近を通って魔法が大量に飛んできたり。
「何かありましたら、いつでも頼ってください!」
「そうさせてもらうよ」
ハルナの敬礼に見送られながら詰所を出たユウヒは馬車に乗って販売が許可されているスペースまで移動する。
販売スペースはさらに賑わっており歩くのも一苦労しそうなほどだ。
「入口より人多いです」
「まあここが一番人気だからな」
「ユウヒ様…人酔いしそうです…」
軽くグロッキーなミーナの世話をしながら、ユウヒの後ろに隠れて出てこないヒカリと他の奴隷達と店の準備をして全員に値札を渡す、そして客が来るまで待つ。
だが何時間経っても客が来る気配はない、理由は簡単、近くに普通の奴隷商があるからだ、それから何時間か経ったあと男の子1人と女の子2人が売れた、ヒカリは謎の無言の圧力で客が寄り付かずミーナも無表情でじっと客を見つめ不気味がられて買われなかった、実際は2人ともただ普通にしているだけなのだが慣れていないとなかなか怖いものがある。
「ユウヒ様、私の顔は不気味なのでしょうか…」
「いや、そんな事はないぞ、むしろ綺麗なくらいだ」
「……」
「ヒカリもな」
そして陽が傾き始め空がオレンジ色に染まりだんだんと人も減っていく。
ユウヒふ今日はもう店じまいにしようかと片付けをしようとすると1人の青年が近づいてきた。
「へいらっしゃい」
「そこの50万の奴隷を買いたいのですが」
そう言って指をさしたのはナズナだった。
ナズナは自分が選ばれた事を驚きながらチラッとユウヒを見る。
「お買い上げあり「少し待ちたまえ」何でしょうか」
突然割り込んできたのは少し小太りの2人の奴隷を連れた男だった、おそらく貴族だろう。
「私はその子を70万で買おう、君、譲りたまえ」
「え?あぁ、はい」
青年も貴族には逆らえないようで少し残念そうに人混みの中に消えていった。
「じゃあ私が買い取らせてもらうよ」
そう言いながら貴族は2人の奴隷の頭を撫でる、奴隷は一瞬ビクッとして俯く、2人の手は少し震えていた。
「…お客様、この奴隷は少し特殊でして、今すぐお売りすることができないんです」
「む、ではいつならいいのかね?」
「明日の朝、そちらの家に送らせていただきますので住所とお名前をご記入ください」
そう言ってユウヒは紙とペンを渡す、名前はエルニザード・ハイドロフ、ユウヒはこの名前を何処かで聞いたことがあった。
「…ハイドロフ様ですね、では明日そちらに伺います」
「よろしく頼むよ」
そう言うとエルニザードはさっさと帰っていった。
ユウヒが振り返るとナズナは俯きながら服の裾をぎゅっと握っていた。
「…宿屋行くぞ」
「…はい」
王都に入ってきた時とは違い宿屋に着くまでの馬車の中は暗い空気だった。
そしてその後ろには怪しい影が付けてきていた。