穴があったら入りたい
ユウヒは焦っていた、なぜなら雨が降りそうだからだ、馬車にはもちろん耐水の魔法をかけているので問題は無いのだがただ場所が悪い。
今ユウヒ達がいるのは崖道でもし馬が足を滑らせでもしたら崖の底に真っ逆さまに落ちて行くだろう、ユウヒ1人なら助かることはできるが子供達やナズナはただでは済まない。
「このままだと少し危ないな」
「できれば雨が降る前にここを抜けたいんですけどね」
「ここの道を抜けるのは早くても一時間はかかる」
そんな2人の心配をよそに雨はポツポツと降り始める、2人はあーあ、という顔になり馬のスピードを少し落として慎重に進み始める。
地面が雨でぬかるみ始め馬の脚に泥が飛び散り汚れて行く、あとで洗ってやらねばと思いつつユウヒもカッパを着て雨を凌ぐ。
「見てみて!ユウにいちゃん向こう光ったよ!ピカって!ほら!」
ユウヒが振り向くと雷の方を指差して子供達がはしゃいでいた。
「こらこら、女の子が雷でテンション上げない、そこは怖がったほうが男子には喜ばれるから将来のために覚えときなさい」
「はーい!」
ユウヒは再び前を向いて「ん?雷?」と呟いてもう一度振り向くと雷が近場に何度も落ちていた。
「あ、これやばいやつなんじゃ…」
「はい、やばいですね」
そしてついにピカッと光りユウヒ達の間近に雷が轟音を立てて落ち地面が焦げる、それを見たユウヒは「やべっ」と言いながら馬のスピードを上げる、もうこうなっては仕方ないと馬が滑らないことを祈る。
雷は追いかけてくるようにユウヒ達の後ろにドンドンと落ちてくる。
「ゆ、ユウヒさん!やばいです!やばいですよー!」
「言われなくてもわかってるよ!お前らしっかり掴まってろよ!」
さっきまではしゃいでいた子供達も流石にまずいと思ったのかしっかりと近くにある物に掴まって静かにしている。
そして雷はついに馬車の真上に落ちようとしている事に気づいたユウヒはとっさに《雷魔法》で軌道をそらしバチバチという音が響き渡る。
その音に驚いた馬はついに足を滑らせ崖に向かって真っ逆さまに落ちそうになり次は《土魔法》を使って道を作り落下を防ぐ。
「た、助かりましたぁ…」
「いや、まだだ!」
本降りになった雨は土魔法で作った道をボロボロと崩し始める、そして間一髪落ちる寸前に先の道に繋ぐことに成功しなんとか落下は回避した。
「ミーナ!《探知》得意だろ!近くの洞窟でもなんでも良いから探してくれ!」
「了解しました」
ミーナと呼ばれた白髪の少女は静かに目を瞑り《探知》を始める。
「見つけました、300m先あまり広くはありませんが洞窟があります」
「よし、今日はそこで野宿だ!雷に打たれながら進むよりかは良いだろ!」
ユウヒ達は雷を回避しながらなんとか洞窟にたどり着くことに成功した、ミーナが言った通りあまり広くはないが野宿には十分足りるスペースだった。
ユウヒは全員を馬車から降ろして一応《土魔法》で入口を塞ぐ、もちろん焚き火をするので通気口はつける。
「ミーナ、お前のおかげでみんな助かった、ありがとう」
「はい、お褒めに預かり光栄です」
ミーナはユウヒに対してはいつでも敬語なので距離を感じることはあるが良い子である、そして何より
「あの…ユウヒ様…」
「ん?なんだ?」
「私…その…頑張ったので、ご…ご褒美が欲しいです…」
「分かった、いつものな」
彼女は恥ずかしがり屋さんなのである、ちなみに彼女が言うご褒美とは頭を撫でることだ、ミーナは頭を撫でると「ゴロニャ〜ン」とでも良いそうなくらい気持ち良さそうになる。
しばらくして夕食が出来上がり焚き火を囲んでみんなでご飯を食べ始める、ちなみにミーナはユウヒの膝の上にぽすっと座る、基本的恥ずかしがり屋さんの彼女は普段甘えられない分ご褒美のなでなでを貰った日はスイッチでも入れたかのように全力で甘えにくる、そしてみんなそれを分かっているので誰も止めることはなく、笑顔で見守る、当の本人は頭の中が甘えることでいっぱいなので周りに優しい目を向けられていることなど気づいていない。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
「美味しいか?」
「ひ…1人で食べれます…でも美味しいです…」
ユウヒもユウヒで普段からあまり甘えてこない彼女が甘えてきた日にはとことん甘やかす、ユウヒもたまに甘えて貰えて実は嬉しかったりする。
ミーナは甘えモードでも嫌がってそうな口ぶりだが実際はすごく良い笑顔なので説得力が一切ない。
そして夜、荷台の中にシーツを引いて子供達を寝かしつけユウヒとナズナは地面にシーツを引いて眠り始める、だがまだ彼女の一日甘えモードは終了していない、夜中にこっそりと荷台から降りてユウヒとナズナの間に潜り込みユウヒに抱きつく、ごそごそしていたので目を覚ましたユウヒは抱きついているミーナと目が合う。
「こっちで寝たら身体痛めるぞ…」
「…荷台の中でも一緒です…それとも…私と寝るのは…いや…ですか?」
「いや良いよ、寝ようか、明日も早い」
「…っ!はい」
「やった…」と小さく呟いた彼女はさらにぎゅっとユウヒを抱きしめる、そんなミーナを見て途中から起きていたナズナとユウヒはクスッと笑い2人でミーナを優しく撫でて眠りについた。
ちなみに朝になると甘えモードは終了なのでユウヒの膝の上でご飯を食べたり、あーんをしてもらったり、一緒寝たいと言ったことを思い出して顔を真っ赤にしてしばらく荷台の奥に引きこもったのであった。
「ミーナ、大丈夫か?」
「いいじゃないですか、たまに甘えるぐらい」
「い、いい今はなにも言わないでください!、あぁ〜、恥ずかしい…」
甘えモードの後はいつもこうである。
「穴があったら…入りたい…」