安堵と不安
ヴァンさんからの言葉にその場にいる二人と一匹は驚きを隠せずにいた。
俺からしたら隣の国に少しばかり出向き情報を集める仕事のようにしか伺えないのだが。
姐さんの顔を伺うと先ほどの元気の良さが少しばかり引きつっておりスーさんに関しては表情こそは変わらんがどこか落ち着きがない様子だ。
「ヴァン兄、潜入って本気か?やる気なのかよ。本当に」
「先に言うが別にガーデンと事を構えるつもりはない。ただ最近浮き足だった行動が少し目立っている。テンリ君に現状を知って貰うついでに偵察を頼むって事だ。」
「そうでしたか。それなら私も安心です。まさかホワイトに真っ赤な血が流れてしまうのかと」
今のヴァンさんの返答で少しは落ち着きを見せた二人だがどこか腑に落ちないような顔を浮かべていた。
「すまないなヒエ。テンリ君を連れてティアの所に行ってくれ。任務は朝八時に最初の門に来てくれ。設備の説明は私の秘書のクラリスにお願いしよう。頼むぞクラリス」
「わかりましたボス。」
「いつのまにーーー!」
ボスとクラリスと呼ばれる若いスーツをきた金髪グラマー美人以外が声をあげて驚いた。
ドアはたしかに閉まってたのにいつからそこにいたんだ。それも能力なのか。
「いつのまにと申されてもわたくしは初めからここにいましたよ?テンリ君とヒエさんがここにくる前からね」
全く気がつかなかった。この人は天性の影の薄さだな。
話がある程度まとまったので俺とヒエはティアさんのいる病室に向かうことにした。
あ、クラリスさんもいるみたいです……。
二人だけで歩いてると思うとよく耳をすませばもう一つ足音がすることで初めて気がつくそんなレベルの薄さだ。
きっと能力もそんな感じなんだろうと勝手に決めつけていた。
やっぱり気になるので思い切って聞いてみた。
「クラリスさんってやっぱり一体化【エボル】も影の薄さ見たいな力なんですか?」
彼女は鼻で笑ってスーツの袖から鍵を出した。
「それは違うわよ。影の薄さは私の性格的問題。私の鍵は砂岩って言うの。砂を岩に変えたり泥や土にも変えれる力よ。まぁー分からないと思うから今度見してあげるわ」
思ったより普通の能力でなんかすげー強そうな能力だった。
人は見かけによらずとはこの事だな。
彼女は今の質問のあとはなぜか上機嫌な様子だった。
流石にそれは聞かずに病室まで足を運んだ。
「ここがティアちゃんの病室よ。」
「ここまでの場所案内すまぬなクラリス殿」
小汚いドアを軽くクラリスさんがノックし返答が見られなかったがドアを開いた。
そこには紅色の綺麗な髪をしているティアが眠っていた。
部屋にはなにも無くただ一つベットがありそこに少女が寝ているといういたって普通の小部屋だ。
やはり戻ってきてさほど時間が経ってないせいか彼女は目を覚ましてはいなかった。
そして俺は彼女の綺麗な顔を見ると罪悪感と情けなさがジワリとこみ上げてきた。
俺は気がつくと彼女の横で深々と頭を下げていた。
「すいません。ティアさん俺が弱かったからあなたに大変な大怪我をさしてしまった」
ヒエが一番その光景に驚いていた。クラリスさんは持ち前の影の薄さでその場には居ないかな様な気配りだった。
「さっきも言ったがテンリのせいではないだろ。」
「だけど、これをしないと俺だってけじめがつけられねぇ。だから……。」
すると俺の手をギュッと握ってきた。
びっくりして下を見るとティアさんが俺の手を掴んでいた。
「別に頭を下げることはない少年。それに私を運んでくれてありがとうな。あとティアでいいぞ。」
何からから解放される気がした。
それはこんなことになった罪悪感からか目を覚ましていた安堵からなのかはわからないが俺は一息その場についた。
「俺の名はテンリです。よろしくティア」
彼女はニッコリ微笑み再び目を閉じてしまった。
ヒエもティアが一度目を覚ましたことに肩の荷が下りたのか部屋でグッタリしていた。
「テンリ君そろそろよろしいですか?案内をしたいのですが」
背後から急に話かけられるとやはり心臓に悪い。あのクソ坊主を無駄に思い出してしまった。
にしても多少の会話しか経ってないのにこうもすぐ影が薄くなると恐い。
ある意味すごい人なんだとは伝わってくるが人ではないのでは?とまで聞きたくなるレベルだ。
「そろそろ行きましょうか。案内お願いします。ヒエ、ティアによろしく頼むよ。おやすみなさい」
「ありがとうなテンリ。良き夜を」
俺とクラリスさんは部屋を出た。
「今からは食堂とテンリさんの部屋を紹介します。お風呂などは男子棟に浴場があるのでそちらを。あと部屋と人の数が合わないので先ほど門番をしていたレインと一緒の部屋ですのでよろしくお願いしますね。」
思ったより施設自体はしっかりしているようで安心した。
だけどよりにもよってアイツか。俺に鍵と言う名の刀であわよくば首チョンパしようとしたあいつか。
俺は少し胃が痛くなった。
「そーいえばここって何人ぐらい居るんですか?」
「ここには約五百人かな。戦闘するのは三百人程度です。ちなみに私は軍隊長兼秘書ですのでよろしく」
いや本当にクラリスさんていったい何なんですか。
色々と恐いよ。
色んな話を聞きある程度施設の説明を受けて男子棟の前まで案内してもらい、部屋の鍵を渡されて解散という形になった。
部屋の鍵と俺の神眼の鍵全く区別がつかない。模様や大きさに多少の誤差はあるものの大きな違いはなかった。
そしてさっきの門番との相部屋にたどり着いた。
ドアノブに手をかけると空いているようであればそのまま扉を引いた。
「おい誰だ?ってまたお前か。なんなんだイチノセ俺に斬られたいなら斬るが。」
先ほどの門の時同様にこの無愛想なイケメンが俺の首元に劔を持ってきていた。
よく見るとすごく劔は鋭くかつカッコイイ形状だった。
俺は刀とかに割と憧れるのだがまさに憧れそのものだった。
「話聞いてません?俺も今日からこの部屋で過ごすんですよ。」
「そんなの聞いてねぇーよ。誰の指示だよそんなの。」
「クラリスさんです。」
「まじか。あの人の言うことなら仕方ないか。逆らったら殺されるしな。」
待って。またクラリスさんの意外な一面かよ。このザ・武闘系がびびるってよっぽどだな。
よく見ると部屋すごく片付いていた。いや正しく言えば何もなかった。二段ベッドと机と椅子が二つそれだけの部屋だ。
「まぁとにかく空いてるベッド使え。俺はレインだ。敬語は使うなよ新入り。」
「わかった。よろしく頼むレイン」
「じゃあ。」
レインは特に俺と言葉を交わすことなくベッドに戻り豆電球を消した。
俺も気を使いすぐ歯磨きと外でお風呂を済ませてベッドに入った。
改めて明日からの任務にすごくドキドキしている自分がいた。
あと考えてなかったがどうすれば元の世界に帰れるか考えないとな。
とりあえず明日を生き抜かないとな。
俺は明日の不安とドキドキを噛み締め、遠足前日の夜のように眠れなかった。
あとレインのいびきがくそがつくほどうるさい。
なんてイライラしているうちに起床の時間が訪れていた。
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今日の鍵Wordー「ハマリス・ティア」
彼女はヒエの契約者でヒエのことを家族の様に思っている。作中ではまだ明かされていないが魔法使いになります。ヒエは自立がたなのであまりティアには恩恵がないので基本魔法発動で闘います。基本恩恵は炎を纏うことと火炎系魔法の強化に繋がります。一応正ヒロイン