天才ギャンブラー健 麻雀編
今書いている小説のどれかが終わったら書こうと思っている小説の10年後の話です。
ある日の事だった。男が3人ほど家に押しかけて来た。
「あなたが本山 健様ですか?」
「…」
「返事ぐらいはしてください!!」
長身のその男はノートを取り出して文字を書き始めた。綺麗な字だ。ちゃんと跳ねる所は跳ねてるし、止める所は止める。書き順も全て正しい。そしてノートにはこう書かれていた。
「そうだ。俺が本山 健だ。年齢28の身長195cm。体重83kgで、妻子持ちだ。d(^_^o)」
「そこまで聞いていませんが、取り敢えず聞いた話通りですね。自分では喋る事が出来ない。ノートやスケッチブックに文字を書いて喋る。そして絵文字が好き」
「YES」
元から書いていたのか、YESはページを捲るとすぐにあった。
「私達の主である小枝 空様が、貴方と1勝負したいと」
健が無表情のまま首を傾げ、ノートに文字を書き見せた。
「なぜ俺となんだ?」
「貴方は十数年間負け知らず。噂によっては、生まれてから負けた事は一度も無いと聞きました。それを知った空様は、是非貴方と戦いたいと」
「俺だけか?」
健は聞いた。男達は
「出来れば貴方の妻 本山 義美。旧名 神原 義美も連れて来てほしいと」
健は頭を掻き出した。しかしやはり無表情だ。そしてまたノートに文字を書き出して
「それは難しい」
「どうしてです?」
「彼女は10年前にギャンブルを辞めた。だから今回も参加する可能性はほぼゼロだ」
と書いた。男達はそうですかと溜息を吐いた。そして紙を渡した。その紙には小枝邸への道が記されていた。
「ここが今回貴方と空様が戦う所です。実際は空様と貴方の戦いなので、もし来れるようであれば来て下さいと頼んでおいてください。義美様に…」
神原家は昔かなりの勢力を誇るヤクザの家系として、有名であった。勿論その強いにはギャンブル強さも含まれている。麻雀や、トランプ。海外に行ってはカジノ等で稼いだりしている。時には麻薬も売って稼いだりしていた。
しかし神原一族はある日を境に突然姿を消した。消えたのだ。というよりその日から全国のヤクザ達は次々と消えて行った。
神原家の神原 義美と神原 拓巳は、幼馴染だった本山 健と、他の一族だった斎藤家の斎藤 麻里弥と、麻里弥の幼馴染 狩間 ヒロト。そしてヤクザとは無関係の小田原 百合。現在は神原 百合。神原 拓巳と結婚したのだ。因みに斎藤 麻里弥もヒロトと結婚し、現在は狩間 麻里弥。6人は一緒の家で暮らしており、拓巳とヒロトはギャンブラーとして、麻里弥と百合は同じ会社のOLとして、義美は専業主婦。健は頭とIQは良いのだが、PCに疎く今の会社では暮らせない。なので、作家として現在は暮らしている。因みにFAXで書類を送る時には、義美に手伝ってもらっている。
「ゲームの内容は?」
「空様が得意のゲーム。麻雀です。特に特別なルールはありません。普通の麻雀です。空様と健様のサシ勝負。義美様は貴方のパートナーとして参加してもらう為、失う物はありません。あくまで貴方と、空様の勝負です。それでも参加されないのであれば、他の方を誘って下さい」
「YES」
健は男3人を見送り、玄関のドアを閉めた。紙には東京都〇〇区〇〇の〇〇と、集合時間 AM11:00と書かれていた。リビングに入ると、7歳ぐらいの女の子がパパーと健に抱き付いてきた。
「何してたの??」
健はノートに文字を書き、女の子に見せた。
「仕事の話だよ」
その女の子は7歳にして、漢字を普通に読める。理由は健が文字で話しているから、自然と漢字が読めるようになったのだ。健は女の子の頭を撫でて、白髪のロングヘアーの女性の横に座った。
「ん?健どうしたの?」
紙を渡した。
「あぁさっきの人達に渡されたのね。ギャンブルの話なんじゃない?日本もカジノ法が合法化して、カジノが増えてきたし、それに伴って金持ち達が独自のギャンブルをしたり、レート高めの賭博を沢山してるんでしょ?1つ言っておくけど、私は参加しないわ」
「あの時の事をまだ引きずっているのか?」
義美と健は目だけで会話が出来る。殆どテレパシーの様な物だ。20年以上も一緒だと普通なのだろうか?
「あの時の事を引きずってるの?ですって!?あんな大衆の前で、人生初めての負けだったのよ!!しかも私の所持金は全て奪われた!弟も危うく失う所だったし…」
「だが失っていない。それに金も俺達の金から、また増やして元通りにしたじゃないか」
「貴方には分からないのよ。負けを経験した事の無い、神に愛されている貴方には…」
健は義美の頭に優しく触れた。
「お前は強い。いや強かった。だが…。今は弱い。何故か教えてやる。お前は自分を信じる事が出来ない。だから弱いんだ。負けるんだ」
義美は健の居る方向とは逆の、右側をずっと見つめている。健とは目を合わせようとしない。
「ママ?」
「義子。貴方は拓巳と遊んでなさい」
義美は上を指差した。義子はヒロトとTVゲームで遊んでいる拓巳の部屋へ向かった。
「とにかく私は参加しない」
「そうか。じゃあ代わりになる奴を探すしかないな。麻雀と言ったら…彼奴しかいないか」
「あの子?」
「あぁ」
「あの子も仕事とかで、無理って言いそうよ?」
「大丈夫だ。彼奴はこういう事を言うと必ず来る」
「ん?」
「おっとお前には見せられないな」
「なんでよ!」
「見たら色々と言って来るだろ?」
「まさか浮気…」
すると突然ドアが開いた。そこにはショートヘアーで、右目に眼帯を付けている若い女性が
「拓巳さんと1夜を過ごさせてくれるって本当ですかーーーーー!!!!????」
「あっ政香ちゃん」
健はノートを取り出して
「あぁ。今回の麻雀バトルで勝てればな」
「参加します!!勝ちます!!やってやります!!!」
目を輝かせながら言った。
「決まったみたいね。それじゃあ2人でよろしく…って、ねぇ拓巳がなんて言った?」
「え?聞いてないんですか?私と健さんが麻雀で勝てば、拓巳さんと1夜を…」
健は紙と同じ事を先ほど書いたノートの切れ端を政香に渡して、そのまま家から出した。
「健。ゆっくりと話を聞かせなさい…」
「いやいや。あれは唯彼女を呼び出したいが為の事で…」
この後散々と文句を聞かされた。
そして翌日遂に小枝 空という成金との戦いの時が来た。
「それじゃあ行くか」
「そうですね!!!いっちょやってやりましょう!!!」
「はい。健。予備のノート2冊とペン」
「ありがとうな」
「早く行きましょう!!」
政香はやる気満々だ。2人は健の車に乗り込み、紙に書かれている小枝邸の所まで、向かった。
「お待ちしておりました。本山 健様。やはり義美様は来られませんでしたか」
「YES」
「そちらの方は?」
「私は伊藤 政香です!」
「その右目はどうなされたのですか?」
「あぁ私生まれつき右目が無いので…。というより早くしましょう!!麻雀を!!」
「はっ…はぁ分かりました。こちらになります」
2人は男の後に付いて行った。それにしても広い。金持ちなのは、確かみたいだ。
「それにしても健さんと戦いなんて物好きも居たものですね」
「と申されますと?」
「健さんは強過ぎて、勝てないから誰も健さんと戦わなくなったの。だからギャンブラーとしての道を諦めて、昔から字を書いてるから、作家として今暮らしてるわけ」
「そうなんですか。やはり噂は本当なんですね」
健は無表情のまま頷いた。基本、というより健はずっと無表情だ。その表情の違いは政香やヒロト、麻里弥にも分からない。分かるのは昔から知っている、拓巳と義美しか分からない。
「こちらになります」
大きなドアを開けると、そこには1人の女が立っていた。
「ようこそ。我が家小枝邸へ。私が小枝 空。この家の当主よ」
「広いな」
ノートに書いて見せた。
「そりゃあ金持ちだからね」
「俺も金持ちだが、ここまで広くはないな」
「特別に教えてあげる。私の貯金額は、1500億。貴方達にとっては途方もない金額でしょ?」
「1500億…」
政香は自分ではそれだけの金を手に入れるなんて無理だと思った。それを察したのか、空は
「安心しなさい。貴方の金を毟ろうなんて思ってないわ。私は健さん?貴方の金が欲しい。貴方は、負け知らずだからかなり持ってるんでしょ?あと貴方が書いた小説もかなり売れてるみたいだし」
すると手下達が麻雀の台を持って来た。
「だから私は本当に貴方が強いか試したいの。この私が得意な麻雀でね。全自動卓だからイカサマは出来ない。心配なら見てもらっても結構よ」
政香は全自動卓を触ったり中を見たりした。満遍なく。そして特に異常な所は無かった。
「なるほどこれなら公平な勝負が出来そうね」
「どう?」
健はOKという文字を見せた。
「よし!それじゃあ早速だけど、勝負をしましょうか。ルールを説明するわね。半荘勝負。どちらかが有り金全て無くなったら終わりよ」
「え!?有り金って…」
「そう。預金してる分も含め、自分が持っている金全てを賭けるの…どう?」
健は通帳を開けた。そして机に置いた。
「良いだろう。お前は1500億だったな」
「ちょ!!健さん!?」
「YES!良いわね!ノリが良いのはとても良い!!そういう人は好きよ。そうだ貴方の預金額を見せてくれない?」
健は通帳を渡した。
「なっ!?これは予想外ね…」
「え?」
政香も一緒に通帳を見た。そこには15兆500億というとてつもない金額が書かれていた。
「それが俺の分の金だ。昔は皆同じ所に入れて、ヒロトに管理してもらっていたのだが、今は個人個人で管理してる。まぁカジノが増えたり、仕事を始めたりで、自立してきてるからな」
「ふふふ面白いわね…。良いわ。貴方のお金全て奪い取ってあげる」
「貴方はその1500億円を失ったら、どうなるんですか?」
「私にも家族が居るからね。失っても大丈夫。まぁ失わないけどね」
全自動卓を囲むようにして健、政香、空、空の手下である多村という順に座った。
「レートは千点…そうねぇ…。1億というのはどうかしら?」
「千点1億…」
「そしてウマはツースリー。そして今回は差しウマだから、私が勝てば貴方から、貴方が勝てば、私から、3万点が行き来するわ」
政香は唾を乗り込んだ。
「安心しなさい。貴方は関係無い。唯健さんの為だけに打ってくれれば良い」
「そうは言っても…」(もし負けたら、私の所為で負けたら…)
健は目だけで政香の顔を見た。そして少し頷いた。これは大丈夫だという合図だ。これだけは紙に文字を書いてもらわなくても、何となくだが分かる。
(そうだ。健さんには運が、神が、全てが、味方している。必ず勝てる)
「それじゃあ始めましょうか。じゃあまずはサイコロを」
サイコロを振った結果、政香から東、空南、多村西、健北。
「ドラは9萬。それじゃあ始めましょう」
東一局
4人は政香から順番に配牌を見て、理牌した。
(私の手配は…)
1萬が3つに、1索、5索、7索、9筒、東が2つに、南が2つ、白が3つだった。
(結構良い手ね。何が良いって、暗刻が既に2つもある。そして東と南が対子だから、三暗刻が狙える。上手くいけば、四暗刻も…)
「政香さん?」
「はい!」
「早く牌を」
「あっ!すみません!!」
政香は1索を捨てた。空は牌を1枚引いて、南を捨てた。
(焦らなくて良い。南はまだ1枚ある。その時に鳴くかどうかを…)
多村が南を捨てた。
(なっ!これは鳴くか…)
すると健が睨んできた。どうやら政香の考えている事はお見通しらしい。そしてよく考えたら、鳴かなくても、この南を頭にすれば良い。そうだ焦るな政香よ!と自分に言い聞かせた。
そして健は牌引いた。そして2索を捨てた。すると
「ロン。緑一色」
この2索を合わせ、2、3、4が4つ、6索が3つ、8索が3つ。そして發が2つ。綺麗な緑一色だった。
「早速だけど、役満よ」
「そんな!ちょ!直撃!?」
健は表情1つ変えない。
「ごめんなさいね。計算計算。あっ因みに簡易計算よ。その方が分かりやすいでしょ?符とか入れると、ややこしくなるでしょ?」
「という事は3万2000点。お金にすると…」
「これで32億円手に入れたという事。逆に健さん?貴方は32億円を失ったという事よ」
あっという間だ。たったの一巡で、役満を上がってしまった。この空という人。健さんと同じぐらいの運の持ち主…。と政香は思った。
「どうしたの?何か不満?イカサマしたと思ったの?」
「いいえ。イカサマは…出来ませんから」
「そうよ。私の全自動卓は普通の卓。イカサマ用のやつなんか使ってないの。正々堂々と戦った結果、こうなった。ただそれだけ」
「健さん…」
大丈夫だという文字を見せてきた。
「本当ですか?」
頷いた。表情はやっぱり変えない。
「ふふふ。勝負は始まったばかりだからね」
健はジーッと空の顔を見つめた。そして場の牌を中央の穴に入れて、混ぜるスイッチを押した。
「じゃあ東二局ね」
東二局
政香の配牌は最悪1萬、5萬、9萬、2筒、3筒、6筒、9筒、5索、8索、東、北、發、中が2つだった。
(良いと言えるのは、中が2枚あることだけ。他は全て最悪。この局は上がるんじゃなくて、健さんの手助けに回ろう)
この時健の配牌はテンパイ。早速のテンパイ。しかも四暗刻、字一色。東南西北が3つずつ。そして白が1つ。健は目で教えた。
(という事は健さんは上手くいけば、ダブル役満。もしロンで上がっても、役満確定の手…)
空は3萬を捨てた。
(よし!健さんなら、もし番が回れば…)
しかしその前に多村が、6萬を捨てた。
「ロン」
「なっ!?」
「…」
「九連宝燈。役満よ」
「また役満!?」
「今回はお金は貰わないけど、これで点差は広がった。さっきの6万4000点の差に加えて、今回の4万8000点。合計11万2000点。大丈夫なのかしら?」
「…」
健は全然顔色を変えない。そして麻雀牌を集めて、中央に入れた。空は点棒を貰い、スイッチを押した。すると山が出て来た。
「じゃあ一本場スタートね」
この時健は別に現段階では負けても良いと思っていた。彼の目的はこの勝負に勝つ事ではなく、他にあったからだ…。
東一局 一本場
「立直」
空が南を捨てて立直をした。政香は現物である、3索を捨てた空は南を捨てた。
(相手は何待ちなの?萬子や索子とかを捨ててくれていたら、まだ分かってたかもしれないけど、1巡目から現在の6巡目まで、殆ど字牌しか捨ててない。これじゃあ何待ちなのか分からない。字牌以外というのはわかるのだけど…)
「さぁ健さん。貴方の番よ」
健は山から牌を引いた。そして手牌の上に横にして置いた。
「どうしたの?」
健は1萬を捨てた。すると
「ロン!国士無双!」
「なっ!?」
「4万8000点。48億貰うわね。そして現在の点差は、20万8000点。あれ?貴方。本当に負けた事無いのかしら?随分と弱いわね。期待外れだわ。もしかして弱い人としか戦った事なくて、だから今まで負けずにここまで来れたのかしら?それとも…」
空は健の耳元で
「私を前に怖気付いちゃった?無理もないわ。だって私には神が味方してくれてるのよ」
健はフンと真顔で、鼻で笑った。
「信じてないのかしら?」
「そうだな。神が味方してくれるってのは、信じるが、それがお前だとは思えない(笑)」
完全にふざけている。
「ふふふ。まだ余裕はあるみたいね。まぁまだ金はあるんだし、当たり前かな?それにしても神が味方しているのは、私じゃないってどういう事?」
健はノートに書いた文字を空に見せた。
「何故ならここまで俺の予想通りだからwww」
「あらそう。でも笑ってる場合じゃないわよ。勝負の展開は貴方の予想通りだとしても、今麻雀の流れ自体は私にある」
「本当にそうかな?」
健は手牌と山をまたごちゃごちゃにして、中央の穴に入れた。
「ちょっと健さん良いですか?」
「?」
健は政香と一緒に一旦卓から離れて、2人で話をした。
「どうして…なんでテンパイなのに上がらないんですか?しかも自分から振り込まれに行くなんて…」
そう。先程の健の手配は、大三元のテンパイ。しかもあの時にツモ切りした牌。あの1萬。あれを頭にして上がれていたのだ。わざと振り込まれに行ったとしか思えない。
「なんで…」
「…」
健はジーッと政香の目を見た。
「どっどうしたんですか?」
すると鼻でフンと息を吐くと、紙に
「まぁ任せておけ。後から逆転する。確実に」
と書いた。
そしてしばらく経った。あれから何回も、東場、南場を繰り返した。そして現在に至るまで、負ける負ける負ける。健は一度も勝てず、空の1人勝ち。跳満、倍満、3倍満。時には役満そればかり上がっていった。
(もう差は金で換算すると、10兆円…。12兆5250億対2兆5250億。あの健さんが負けてるなんて…)
すると政香のスマホが鳴り出した。
「すみません。ちょっと良いですか?」
「えぇ。勿論」
政香はその場から離れて、電話に出た。
「はい。何でしょうか?」
「政香ちゃん?今どんな感じ?」
「今ですか?」
電話の相手は、義美だった。
「1500億対15兆500億円だったのが、今12兆5250億対2兆5250億で負けてます」
「はぁ…そうなの。仕方ないわね。じゃあ私が行くわ」
「え!?でも義美さんはギャンブルをやめたんじゃ…」
「ギャンブルはしない。ゲームをするだけよ。簡単な作業ゲーになるかもしれないけどね」
そう言うと、義美は電話を切った。
「義美さん…」
「もう大丈夫かしら?」
「あっはい」
政香は席に着いた。そして南四局最後の局。健の親番だ。
「健さん…」
健は政香の方を見た。政香は目だけで
(義美さんが来ると…)
健はその後、空を見て、紙を書き始めた。
「確か義美に来て欲しいと言っていたな?」
「えぇ。出来ればで良いけどね」
「来る」
「へぇ」
「ちょ!言って良いんですか?」
「結局はバレる。だから良い」
「じゃあそれまで待つ?」
「いや…別に良い」
すると健は牌を倒した。
「ん?」
「え?」
「お嬢様…これは…」
天和。
「16000オール…」
すると健は麻雀と書いているノートを取り出して
「本場無しで進もう」
流れ関係無く。健はそのまま半荘を終わらせた。そしてトイレという紙を置いて、メイドにトイレを聞いて、行ってしまった。
「そうだ。今役満をツモあがりしたから、点数は…」
この半荘に関しての点棒は、これで健の逆転。30000対、46000となった。金は16000=16億。つまり現在12兆5244億対2兆5266億円。
「チッ」
空は舌打ちをした。
「あと少しって時に。しかしどうやってイカサマをしたのかしら」
天和なんて役、さっきまで上がれなかった所か、振り込みばかりしていた奴が出せる訳が無い。しかし政香は健が要約本気を出して来たのにすぐ気付いた。いや本気というより、要約健は普通に打ち出した。
(でもなんで?)
何故今動き出したのか…。もう負ける必要が無くなったから?
「どういう事?」
そしてまた暫く経つと健が戻ってきて、その数分後義美がメイドと一緒に中に入って来た。
「健は?」
健が手を振った。
「やれやれ負けてるらしいじゃない。わざとでしょ?」
「あぁ」
2人は目だけでやり取りしている。なので他人から見たら、義美が1人で喋ってるように見える。
「なんで?」
「お前をここに来させる為。俺自身は負けても良いと思っていた。つまり俺にとっては、お前がここに来るかどうかの賭け。来なかったら15兆の金を失い。来たら儲ける。それが俺の勝負。こんな麻雀俺自身どうでも良かった」
「はぁ。なんでそんな事したの?」
「お前はあれからギャンブルを捨て、生きがいを無くした。だから生きがいを作る為、お前に戻って来て欲しくてした」
「私はギャンブルをしないわ」
「だがゲームはしてくれるんだろう?」
「はぁ。そうね。それにまた別の目的があるし」
「…?」
その義美の目的は健も知らない。義美は政香の方へ歩き
「そこを代わってくれる?」
政香は義美に席を代わった。
「じゃあ今から本気という事ね」
健は頷いた。
「どういう事?」
「あなたが空さん?ごめんだけど。今から勝たせてもらうわ」
すると健が手を前に出した。空が何?と言った。健は義美の顔を見た。義美はあらあらと言って
「前回の半荘終わりのウマを含めた合計点数の差の支払い分が終わってないみたいね。差は16000プラス、ウマの30000で、合計19000点。つまり19億を払って欲しいと言ってるわ」
「言ってるわ…て。あなたもしかして、この人の言葉分かるの!?喋ってもないのに!!」
「えぇ。当たり前じゃない。20数年も一緒にいるのよ?」
支払いを終わらせて、次の半荘を始めた。
東一局
「どうするの?早速行っちゃう?」
「…」
「そうね」
空目線だと、本当にこの2人の会話が分からない。そして親は健。そして8筒を捨てて早速立直してきた。義美はニヤッとして、2萬子を捨てた。
(ダブリー?私はまだ3シャンテン)
山から牌を引いた。
(よし!これで2シャンテン!)
2萬子が3枚と、3萬子が2枚。そして4、5、7萬子に東が3枚と白と發と中。空は中を捨てた。この中は義美が先に捨てた牌だから大丈夫かもと思ったのだ。そして通った。
(よし!このまま行けば、混一色で東の合計4飜。満貫。しかも奇跡的にドラが2萬。つまりドラ3で、跳満。例え、鳴いても、6飜になるだけで、跳満には変わらない!つまりこの手。このまま育てる!そして出来ればリーチもして…)
その時ハッ!と思い出した。
(彼は…健はリーチをした。もしこれを見破っていたら?彼らは本気を出すと言っていた。…私の出す手を読んでいる可能性が…)
中を捨てたいが怖くなった。するとある事を思い出した。多村だ。多村の手牌は…?
(多村!手牌を教えなさい!)
(混一色手です。1、2、3索と、4索が3枚、8索が2枚と、7索と東、西、北、白の、3シャンテンです)
(そう…)
という事は、東は無い。
(ここは…振り込んじゃダメ。東を出そう)
東を出した。当然通る。国士無双だったら危なかった。
(ホッ…危なかったわ。そして多村。その東を出しなさい。鳴くわ)
(分かりました)
多村は東を出した。そして空がポンをする。
(OK。これでもし混一色から逃れる事になっても、取り敢えず適当な面子を作っても上がれる。一安心。だけど。ここからよ)
空は發を捨てる。
(大三元は無い。何故なら、私達で既に白を2枚持っている。だからあっても小三元)
通った。
(よし!通った!!)
多村は、白を引いた。
(ナイスよ!多村!!これで小三元も無い!よし!)
健は山から引いて、すぐに8筒を捨てた。盲牌したのか。見ずに捨てたのだ。そして義美。
「あらあら。これは…ふふふ。どうする?健」
「…」
「もう笑っちゃって!相手にバレるわよ」
(((笑ってるの分んねぇぇぇぇ!!!!)))
空、政香、多村、他周りの人達は、同じ事を思った。どうやら義美には、あの無表情な顔から、表情を読み取る事が出来るらしい。何かが違うのだろう。
「分かったわ」
義美は5筒を捨てた。当然通る。そして空。引いたのは、9筒。
(9筒か…。要らないかな…)
その時空に電流走る。
(いや待て。この9筒。もしかして罠?義美が筒子を捨てから…。それに最初健がダブリーをした時の捨て牌が、8筒。だから9筒は行けるかもと思ったんだけど、それが罠だとするなら…)
もし対子として9筒があり、9筒を待っていたとしたら、かなりマズイ。
(くっ…)
しかしそう考えたら、自分の持っている萬子もマズイ。
(行くしかない…。例え振り込まれても、まだ金はある)
9筒を捨てた。そして通った。よし!と空は心の中で思った。
流局。混一色テンパイで終わった。多村は安牌を捨ててノーテン。そして義美が健より先に
「テンパイ。断么だったんだけどね」
「じゃあ健さんは…」
健は牌を伏せた。
「健はノーテンよ」
「え!?」
健は真っ直ぐ空を見た。
「ノーテン立直」
「は?」
「のっノー…テン…?」
「確かめてみる?」
義美が健を見た。健は、牌を開いた。
「1シャンテン…」
「よし。東一局は終わったわね。次私よね」
2人は牌を中央に入れて
「早くあなた達の牌も入れなさいよ。続けるわよ。そうだ」
健の1500点と、多村の1500点を空と義美2人で分けた。
(意味が分からない。なんでノーテン立直をした?この2人は一体何を考えているの…?)
山が出てきた。
(こいつらは一体何がしたいのよ!ノーテンで立直したり、天和で上がって、流れが味方してきたのに、それを無視して、半荘を終わらせたり…)
東二局
義美が親。義美が西を捨てた。
(くっ!何とかして、流れを変えないと…)「ダブル立直!!」
3索を捨てて2索、5索待ちテンパイ。
(よし!)
多村も3索を捨てた。すると健が千点棒を置いて、7索を横に置いた。そして手牌を開いた。
「健はオープン立直ね」
「な!?」
空は椅子から立ち上がった。しかも健は1筒が3枚、5筒が3枚、8筒が3枚、東が3枚、そして3萬が1枚の四暗刻単騎待ち。因みにドラ1。義美と健は空を見て
「ここから反撃開始よ」
義美は7索を健の河から拾った。
「カン」
7索のカン。ドラは元の3萬と1筒になった。
「ドラ4…!?」
そして義美は新たに牌を引くと、笑いながら
「あらあら。またまたカンよ」
「え!?」
ドラは5筒。ドラ7。そして牌を引くと
「ごめんなさーい。またまたカンでーす」
1萬のカン。ドラは8筒。つまりこれで健はドラ10。牌を引いた。
「あっ…あぁやめて…」
「ふふふカン」
ガタンと空は腰を落とした。
「四…槓子…。役満」
ドラは東。それより心配するべきなのは、健のドラ。現在ドラは3萬、1筒、5筒、8筒、東の5牌。なので健の手は一気にドラ13に
「さーて。私一人でカンを4回したから、流局しないわね」
「く…」
義美は西を捨てると
「早く引いて、捨てるか上がるかしなさいよ」
「うぅ…」(そんな…健のオープン立直に、義美の四槓子…)
空は尋常じゃない汗をかいていた。白い服を着ているので、肩や腕の肌が透けるぐらい、汗をかいている。震える手で山から牌を引いた。出たのは、ドラの3萬。空にとっては、当然上がり牌じゃないので捨てた。しかし健にとっては
「四暗刻…単騎待ちのオープン立直振り込み」
「トリプル役満…あ…あぁ…違う……それは!?」
そう。健の手牌はご存知、1筒が3枚、5筒が3枚、8筒が3枚、東が3枚、そして今の3萬を含めて、3萬が2枚。ドラが14で、14飜。13飜から数え役満なので
「4倍役満よ」
「よ!?」
「よ!!!!」
「「「4倍役満!!!???」」」
この場に居る健と義美以外すべての人が驚いた。
「ふふふ。そうそう裏ドラ裏ドラ〜」
義美の笑顔が悪魔に見えた。
(凄い…この神がかり的なオーラ…昔と変わっていない)
すると義美が裏ドラ表示牌を捲り出した。そうだ。終わっていない。裏ドラがある。裏ドラは1筒、8筒、東、3萬、5筒。つまり現在ドラ28。そう…
「13翻で役満。今健は四暗刻単騎のダブル役満と、オープン立直直撃による役満と、ドラの28翻」
「と…いう事は…」
政香は10年間ずっと健達のギャンブルを見て来たし、幼少期から、麻雀をしていたが、こんな異常な状況は初めて見た。
「5倍…役満…」
空が涙を流しながら言った。
「160000点」
義美と健が空を指差して
「直撃よ」
「そ…そんな…そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
健が紙を卓に置いた。
「まだ金が沢山あるじゃないか。何を焦っている」
「へ…?」
「次あなたが親よ。さぁ続けましょう」
牌を卓中央へ入れた。
「早く座りなさいよ」
「む…無理だよ…」
「無理?何言ってるの?」
義美は空の耳元で
「金は今健よりあなたの方があるのよ?無理な訳ないじゃない」
空をゆっくりと立たせて、座らせた。
「さぁ続きをしましょう」
「ギャンブラーに戻ったな」
「ギャンブルはしてないわ。これはあくまで貴方と空さんとのギャンブル。私はただ貴方の手助けをしているだけ」
政香は義美に
「よくドラが乗るって分かりましたね」
すると義美は
「そりゃあ分かるわよ。だって健よ。私は健をずっと見て来た。だから健の事は誰よりも知っている。だから誰よりも信じられる。だから彼処で、ドラだけでダブル役満が行くのは、普通に想像出来たわ。彼が四暗刻単騎待ちになった時点でね。ね?健」
義美は健を笑顔で見た。
「…」
健は真顔で義美を見ている。義美はそんな健を見て
「もー。照れちゃって!」
(え!?照れてるの!?真顔だよ!?顔赤くしてないよ!?モゾモゾしてないよ!?どこ見て照れてるって分かったの!?)
「えー。チューして欲しいの?」
(え?今そんな事言ったの!?分からないよ!?というかここで何でそんなに、イチャイチャ出来るの!?人の家だよ!?この人達の精神どうなってるの!?)
東三局
(私が親…早く…流れを私に…)
西を捨てた。すると健が牌を倒す。それを見て義美が
「人和。国士無双13面待ちだから、トリプル役満ね」
「と…トリプル…」
健は表情を変えない。だから義美以外の皆は、健の心が読めない。
「32000×3だから、96000点。さぁ早く払いなさい。点棒と金を」
台詞だけ見ると、まるで義美対空だが、健が喋らないから、代わりに義美が喋ってるだけで、健対空の勝負である。
「96億…」(今までの空の上がりが弱く見える…。これが健さんの力…)
健は頭が良く、IQも170。しかし健はギャンブルに頭を使わない。運だけで戦っている。しかしそれだけで今まで勝ってきた。
東四局
多村が2萬子を捨てた。そして健が牌を引いた。そしてまた手牌を倒した。
「地和みたいね。どれどれ?緑一色?」
健は頷いた。
「という事はダブル役満ね」
「そ…そんな…」
南一局
ここから空達にとって、地獄の時間が始まる。
「天和、四暗刻、字一色、大三元。4倍役満」
麻雀と書いているノートを開けて、3人にその字を見せながら、手牌を倒した。
「う…」
この時から…いや。義美の四槓子の後の5倍役満から、空の精神は崩壊してきていた。
南一局 一本場
ドラは9萬
この局は10巡目まで行った。
(二盃口、平和、ドラ2…)
この時空の手牌は、1、2、3萬、7、8、9萬が2枚ずつ、5、6、7筒。そして白が1枚に、發が1枚。場に白は、もう2枚も出ている。發は3枚出てるから要らない。
(待ちとしては良い…。立直をせずに、待とう)
發を捨てた。当然通る。多村は場に2枚出ている6萬を捨てた。
(さて何をツモる…。健…)
すると健は紙に
「平和のみ」
と書いた。今引いたのを入れて、1、2、3、4、5、6萬、4、5、6索、3、4、5筒、7萬が頭。
「1500点…」
「500点オールね」
あれからもうどれ程経ったのだろう。現在空と健の金の差は、15兆1999億対1億。もう勝負はあった。しかもあの南一局から、進んでいない。場には積み棒がもう何本もある。途中から誰も数えていない。100は超えただろうか?
「うぅ…うぅ」
空は泣いていた。ここまで惨敗したのは始めて。負けた事はあったが、ここまで負けたのは…。健は立ち上がった。そして紙に
「俺の勝ちだ。勝負あったな」
と書いて、卓に置いた。そして紙の文字には続きがあった。
「今回は勝ち分の金要らない。俺には必要の無い金だ。そしてお前にこれだけは言っておこう。また誰かと戦って、金を稼ごうとするのなら、まず相手を選ぶんだ」
義美はやれやれと言って立った。
「あんたはどこのカジノに行ったって、断られるんだから、貰った方が良いんじゃないの?勝負に勝ったんだから、誰も文句は言わないでしょ?」
健は首を横に振る。因みに義美の言う通り健は、カジノや雀荘等といった、ギャンブル系の所には出入り禁止にされている。何故なら、イカサマはしてはいないが、健が勝ち過ぎて、赤字になってしまうからだ。だからギャンブラーという道を捨てて、今は作家という仕事をしている。まぁそれも運で売れているのだが。
「じゃあ私達は帰りましょう。行くわよ。政香ちゃん」
「あっ!はい!!」
3人は小枝邸から出た。空は暫く泣き続けた。
「結局意味の無いギャンブルだったわね。勝ったのに何も手に入らなかった」
「良いや。手に入れたさ」
「何よ」
「昔のお前。あのギャンブルが大好きだった頃のお前。さっきのお前の顔は完全に昔のお前だった。昔のお前に会えただけで俺は満足だよ」
「そう…」
少し義美は顔を下に下げた。そして健の腕を掴んだ。
3人は健の車に乗った。義美はタクシーで来たので、一緒に健の車に乗った。政香が義美に
「何故あそこでノーテン立直したんですか?」
「あぁ。あれはただ敵を錯乱させる為の罠よ。わざわざノーテン立直をして、自分の親を捨てるなんて、普通はしないからね。そして空はまんまと、その罠にかかって、次の局。つまり私が親の東二局の時に、健にある流れを、自分に向けようと、わざわざ立直をしてきた。普通はしないわよあんな事」
すると健が紙に文字を書いて、政香に見せた。
「だから義美が来る前に天和をした。因みにあそこで、本場を続けずに、わざわざ半荘を終わらせたのも、空を錯乱させる為。普通はあそこ連荘するのに、どうしてしない?どうしてやめた?と思わせる為にな」
政香は2人の顔を見て、改めて凄いと思った。もしそれでも錯乱せずに冷静に打ってきたら危なかった。しかし2人はそんな危険性をまるで考えていない。何故なら、自分達は豪運によって守られていると、分かっているから。現に今回も、イカサマ無しで普通に圧勝した。やっぱり2人は凄い…。
「そうだ。お前。ここに来たのは、もう1つの理由があるとか言ってたな。それはなんなんだ?」
「あっ!それよ!」
義美は後ろを振り向いて、政香の方を見た。
「貴方がやってた時には、健は負けていた。そして私が代わりに入ったから、勝てた。だからあの条件は無しよ」
「あの条件?」
「拓巳と一緒に1夜寝られるという条件よ」
「え!?えーーーーーっ!!!!そんなぁぁぁぁ!!!!」
残念だったなとノートに書いて、ページを破り、政香に渡した。政香はショボーンという顔をした。
「それじゃあ帰りましょうか」
時計を見た。
「そろそろ晩御飯を考えなきゃね」
「今日昼ご飯食ってないな」
「じゃあ何処か食べ放題に行く?」
「そうだな」
「政香ちゃんも行く?」
「はい…」
この後神原家の6人と、政香は焼肉屋に行って、たらふく肉を食べましたとさ。
お・し・ま・い