Rainy
窓の外は透明な線がブラッシュされたように白く糸が引かれている。部屋にはスピーカーの音が響いている。眠る前と比べて雨脚が強くなったのか、弱くなったのか、見当がつかない。
飴袋のなかから、その琥珀のひと粒を取り出して、そして口の中に。午睡を終えたばかりでうまく働かない脳にエネルギーを送ると、重大な過失に思い当たった。
「あー、何ページまで読んだっけ……」
手元の五百ページを超える長篇ロシア小説の翻訳版は、しおりをはさまれることなくぱたんと閉じられていた。読書中に寝落ちすると時々やってしまうのは注目が必要だ。何となくのあたりを親指でつけてから、ぱらぱらと探る。
「うん、ここからだ」
佳境に入ったインストゥルメンタルを止めると、部屋は一瞬の静寂のちに雨音で満たされた。なんだ、いいBGMがあるじゃないか。もっとよく聴こえるように、と窓を開けると雨の独特な蒸れた匂いが身体に浴びせられる。
気持ちよく続きが読めそうだ。雨も悪くないな。
大雨警報発令中ですって。