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太陽の拳  作者: 文叔
第一章 お姫さま拾った
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第一章 お姫さま拾った 6

「そうなんですか」

「で、納得していただいたところで今度はあんたのことを話してくんない? あんたと太陽は一体どういう関係なわけ!?」

 一通りソレイユ姉弟の話を聞き、いささかユニークな彼らの生活や素性の理由にうなずいたフロルに、ここまで我慢して黙っていたエリが、嫌味だか皮肉だかを言って来る太陽にはジロリと目を向けるだけで何も言わず、テーブルを「ドンッ」と拳で叩きながらすごむ。彼女の素性についてではなく太陽との関係を訊いてくることに、さっきの「抱かれていた」をまだ強く気にしている心情があらわれていた。

「は、はあ… 関係、ですか? 関係と申されましても…」

 しかしフロルがさっき口走ったことは、足の痛みに押されてのことであり、彼女自身ほとんど憶えていない。そのため、エリがなにに怒っているのかわからず困惑してしまうのだ。また事実の方も「追われて逃げているところを助けてもらった」というだけのことで、抽象的なだけに返って要領のいい説明が思いつかず、どう話していいか迷ってしまう。

 そんなフロルを見かねた太陽が助け舟を出した。



「おいエリ、お前さっきからおかしいぞ? 関係関係って、ついさっき山の中で初めて会っただけだって」

「うそ! だってさっきこの娘が…」

「さっきフロルさんが?」

 と、太陽が訊き返すと、さすがにエリも「うっ」と赤面して詰まる。

「その…えっと…だからさっきこの娘が…あ、あんたに…その… だ…抱かれ…って…」

 それでもなんとか答えようとするエリだが、赤くした顔をうつむけ、尻すぼみに声は小さくなり、口の中でモゴモゴ言うだけである。

 当然、太陽は聞き返す。

「? なんだって?」

「だ、だから! あ、あんたに…その……」

 聞き返されたこと自体が恥ずかしく、今度は口にすることもできない。なにか言おうとして口を開いたり閉じたりするエリの顔は真っ赤で、これ以上はなにも言えそうになく、言おうとすれば怒声とともにまた蹴りが飛ぶだけだろう。それが経験上わかるだけに、太陽としてもこれ以上聞き返すのははばかられる。

 どうしたものかと思っている彼の肩に、ティアがポンと手を乗せた。

「なに、姉ちゃん?」

 と、なにげなく振り向いた太陽に、ティアは、これまたなにげない口調で尋ねた。

「あんたさ、フロルさんとやっちゃった?」

 三瞬、部屋の空気と時間が止まる。

そして、止まった時間が動き出すと、エリだけでなく太陽とフロルの顔も見る見る赤くなった。

「……ッ、な、なに言ってんの姉ちゃん!」

 さっきのエリの勢いに負けないほどの強さでバンッとテーブルを両手で叩きながら、太陽は姉に詰め寄る。だがティアはまったく動じない。

「いや、さっきのエリの口の動き見たら、そんなこと言ってたみたいだったから。ね、エリ?」

 ひょいと太陽の肩越しにエリを見ながらティアは確認する。

「あ……う……あ……」

 だがエリはエリで、恥ずかしさだけでなくその他様々な感情も込みでさっきより顔を赤くし、答えることもできない。

 そしてフロルはフロルで、首まで真っ赤になりながら、小さくなってうつむいている。

「だからさっき言ったじゃないか! 山の中で追われてたフロルさんを助けて、そのまま抱き上げて逃げてきただけだって! んなことする暇あるわけないでしょ!」

「暇があったらしてたようなことを…」

「ややこしくなるから揚げ足取るなよ姉ちゃん!」

「へ? 抱き上げて?」

 真っ赤になった太陽が、噛みつきそうな勢いで事実に基づいた弁解をするが、ティアはすまし顔でまぜっかえし、さらに弟に怒鳴られる。

 その太陽の弁解に、きょとんとした声を上げた少女がいた。当然エリである。

「そうだよ! フロルさんに走らせるより自分で抱えた方が速いって思ったから抱き上げて逃げたの! そんでそのまま家まで連れてきたの! そんだけ! ね、フロルさん!?」

 事実を一気に、真っ赤な顔のまま告げ、フロルに同意を求める太陽に、彼女もコクコクと勢いよく首を縦に振る。

「抱かれ……抱かれてってそういうことぉ!?」

 二瞬ほど呆けていたエリが、じわじわと湧いてくる羞恥とともに、大声でフロルに確認する。

「え? え、ええ…」

自分が「太陽に抱かれた」と口走ったことなど憶えていないフロルは、それでもエリに押されるまま、再度コクリとうなずく。それを見たエリは、怒気二割、羞恥三割、そして安堵五割で畳の上にひっくり返った。

「なんなのよお、それえ!? まぎらわしいこと言わないでよお!」

「は、はあ、申し訳ありません…」

 なんだかわからないが、なにやら自分が迷惑をかけたらしいと感じ、フロルは素直に謝る。

「お前なに考えてたんだよ… 謝る必要ないですよ、フロルさん。こいつが失礼なだけなんだから」

「なによ! あんたが最初からはっきり言わないのが悪いんじゃない!」

「言おうとしたら蹴りかましてきたのはどこのどいつだ!」

幼なじみの言うことに、ガバッと体を起こしたエリは彼を怒鳴りつけ、それを受けた太陽も負けずに反論する。が、またも始まりそうになった不毛な口ゲンカをさえぎるように、パンパンと手を打つ音が聞こえると、二人とも黙ってそっちに顔を向けた。



「ハイハイ、誤解も解けたことだし、そこまでそこまで。エリもいいわね」

 状況を一言で爆発させ、一気に燃焼させて終わらせる。なんだか悶々としていたエリの誤解をすぐに終息させるにはそれが一番だとティアは感じ、実行したのだ。ティアにしてはいささか品のない着火の一言がそのことをあらわしており、それを察したエリは、さっきと違う羞恥でさすがにおとなしくなった。

「…わかった」

「はい、よろしい。それじゃ今度はフロルさんの話を聞かせてもらえる? なんだかずいぶん不穏な感じだけど…」

 準妹が納得して収まったのを見て安心したティアは、今度はフロルに話を振る。彼女について知っているのは、その高貴そうな雰囲気と、「追われて逃げていた」という太陽との出会いだけだが、それだけでも充分不穏すぎる。

「は、はい、その……」

 自分に話を振られて、フロルは反射的に背筋を伸ばし、口ごもる。当然訊かれるべきことであるし、助けてもらい、その上歓待までしてもらった人たちになにも言わないというのでは恩知らずもすぎる。だが彼女としては、やはりいろいろとはばかられるところがあるのだ。

「言いにくいことや言いたくないこと? それだったら無理には訊かないけど、せめてあたしたちにどうしてほしいか教えてくれない? じゃないとフロルさんの手助けできないから」

「いえ、大丈夫です。きちんとお話します」

 フロルの様子からそれを察したティアはやさしく言う。だが、ここまで言ってくれる人たちに何も話さないことこそ許されないと感じたフロルは、意を決して顔を上げる。が、決しすぎたか、その内容は事情を四捨五入しすぎて、いささか素っ頓狂なものになってしまった。

「私、王子さまを捜しているんです。その人と結婚するために」

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