ちょっとした短編集
『片方だけのイヤホン』
私のイヤホンは片方だけだ。
二股に分かれるところの一つが根元から無い。
なら、その片方はどこにあるのか?それは謎に包まれている。
購入した時は普通にあった、だけど使おうとした時に片方が綺麗さっぱりと消え去ったのだ。
まるでそこには元からありませんでしたよーと言いたげに。
しかも、このイヤホン、おかしいところがもう一つある。
それは私が曲を聞こうとイヤホンをつけて、かけようとした曲とは別の曲が聞こえてくる時があるのだ。
それは聞いたことのない曲だけど妙に趣味に合う曲。
私は思った、誰かと同じイヤホンを使い曲を聴いたらこんななのか、と。
こんなに趣味が合う人と曲を聞けたらどんなに心地いいのだろうか。
だから、私は今日も今日とてもこの誰ともしれない人と繋がっているイヤホンを使う。
顔もしれないその誰かに出会うために。
俺のイヤホンは片方だけだ。
買った後にさあ、いざ使おうと思って袋から取り出すと綺麗さっぱりと片方だけが消え去っていた。
なんだよこれ、不良品かってゴミ箱に直行させようとしたけどその時イヤホンから聞こえてきた曲が気になり捨てるのをやめた。
それからというもの、曲を聞こうとイヤホンを付けるとまた曲が聞こえてくる。
このイヤホンの片方はどこかの誰かにつながっているのだろうか。
なら、知り合いたい、と思った。
理由は簡単、とてつもなく趣味が合う人からだ。
それに、理由はもうひとつある。
このイヤホン、片方に音量調整とマイクが付いていたのだがちょうどそれがない。
つまり、誰ともしれない人の方にはあるということだ。
そして、そのマイクを使っているのだろうか、その時に聞こえてくる鈴のような声はすごく心地よかった。
いろんな曲が流れるイヤホンではあるが俺は何よりもその声を楽しみにしている。
だから、俺は今日も今日とて片方だけのイヤホンを使う。
誰ともしれない、美しい声を持つ人に出会うために。
『怪談』
村の古い井戸の話って知っているか?
ある日、私が畑作業をしているところにお父さんがそんなことを言い出した。
どんな話?と聞くとお父さんは昔な、と話を始めた。
この村ができた頃、村には一つの井戸しかなかった。
その井戸は村人の生活を安定させる為のライフラインであって大事にされていた。
事件は起こった。
その井戸に水を汲みに行った子供が落ちてしまったのである。
その井戸は深くその時代の人たちには底まで行くことはできなかった。
その井戸はそれ以来使われなくなって花が添えられるようになった。
子供が一人死んでしまったという悲しい話、で終わるはずだった。
ある日、井戸に花を添えに行った村人が井戸の底から声を聞いたと言っていた。
なんで助けてくれないの?
寂しいよ。
そんな声が最初は聞こえていたらしい。
けれど、それから月日が経つごとにその声は変わって行ったらしい。
僕はなんでこんな目に。
僕だけがこうなるなんて。
僕と同じ目にあっちゃえばいいのに。
僕と同じように落ちちゃえ。
僕と同じように……
死んじゃえ。
死んじゃえという言葉が聞こえて来て以来、その井戸に近づくとまるで引き寄せられるようにふらふらと歩いて行く人が出てきた。
その井戸に行こうとしている人がいる時、丁度同行している人がいたからなにも起こらなかったらしい。
しかし、また事件は起こった。
あの時と同じように、子供が落ちてしまったのだ。
それ以来その井戸は人が近づかなくなった。
なんでそんな話するの!
と怖い話ですっかり冷えた体を両手でさすりながらお父さんに怒鳴る。
悪い悪い、と笑いながらお父さんはでも、と続けて話を続ける。
この事はちゃんと覚えておけよ、あの井戸には近寄るな、危ないからな。
と真剣な顔で続けたので私はうん、と頷いてその怖い話を忘れるために鍬を振り上げて土を耕すのを再開した。
井戸に水を汲みに私は桶を持って歩いていた。
その途中、離れのところに古めかしい井戸を見つけたので見てみたら何か声が聞こえた気がしたけど私は気のせいかなと思って桶を持って井戸に向かった。
……死んじゃえ
『雨』
雨は憂鬱になる。
じめっと湿っていてその上空気もどこかどんよりとする。
じめっとした空気はほっとけばそのうちキノコを生やし始めるのではないかと日頃思ってしまう。
頭からニョキッとカラフルなキノコを生やした人がそこらじゅうを闊歩する。
……考えて見ると少し面白いかもしれない。
けど、キノコを生やすわけもなく気持ちだけではジメジメとする。
傘を差して歩く道は水たまりを作りだし歩くのも一苦労する。
しかし今日は一つ違うのだ、そう長靴を履いてきたのだ。
パシャっパシャっと音を立てて、水たまりに波紋を作り出しながら歩く。それだけで憂鬱だった雨の日が少しだけ楽しく感じることが出来る。
しかし、憂鬱と言っても今日の雨はサーと静かな音を立てる雨で、ザーッと強い音の雨と比べると憂鬱さなど雲泥の差である。
川のせせらぎのように静かな音を立てて雨は何処か輝いている空から陸を目指して降ってくる。
ささやかな雨粒は水たまりに小さな波紋を作る。
雨は憂鬱と言ったけどこのような静かな雨に関して、本当は好きなのかもしれない。
『夢』
夢、それは僕をいろんな世界に連れてってくれる。
ある時は話の主人公、または傍観者。ある時は鳥になったり、犬になる。そして、またある時は、もしもの未来。
目を開けるとそこは一面荒れ果てた荒野。
僕がいたはずの家は焼け落ち、その前に僕がいる。
どうしてこうなったのか、僕の帰る場所は何処にあるのか、棚の中から、ドアの中まで探してもない、昨日までありふれてたごく普通の幸せはどこを探してもない。
一人、荒れ果てた荒野を裸足の足で歩き始める。
ジャリッジャリッ、と砂を踏みしめて足に血を滲ませながらただひたすらと歩き続ける。
僕が探してるものは何処にあるのか、ありふれた日常を返して欲しい。ただ、その思いを胸に今日も僕は歩く。
どのくらい歩いたか分からない、けど景色は一行に変化はない、荒れた大地が広がるだけだ。
疲労感は不思議と訪れてこない、まず、どうしてこうなったのかも分からない。
望むならば何かが変わるかもしれない、けれどそんな"夢物語"はある訳がない。その時にそんな判断をしたことをのちの僕はある意味後悔することになった。
今日も何も変わらない。雨が降ったことで出来た水溜りに口をつけて犬のようにしゃがみ込みながら水を啜るように飲む。
幾ばくかの活力をそれで取り戻して再び歩き出す。
歩き続けてもう一年経っただろうか、そこで僕は一つの変化に出会う。けど、その変化は僕の望むべき変化ではなかった。
うず高く積まれる屍累々、辺りには死の腐臭が漂っていて虫がたかったりカラスが啄ばんでいる。
そんな壮絶な光景を見た僕は頭を抱えてうずくまるしかできなかった。
歩き続けて辿り着いた所には望む光景どころか、その希望を全てブチ破るような光景しかなかった、もう何も見たくない、これが全て夢なら覚めてくれ。もう、こんなのはやなんだ………
……チチチッ
目覚ましの音で次第に覚醒する。
がばっ!と体を起き上がらせて周りを確認するがそこはいつも通りの光景、僕があの夢で望んでいた何時もの光景。
その光景は当たり前なのだがあの夢を見たことで僕はこの当たり前を噛みしめて、大事にして行こうと思った。
如何でしたか?
少しは楽しんでもらえたでしょうか。
楽しんでもらえたならば幸いです。
ちなみに、この作品たちは部活で作成したものです。
夢や雨はその日の気分や、その日の天気で書きました。
こんな感じにバーっと書いた作品はほかにもありますので溜まって来たなぁてな感じになったらまた投稿するかもしれないです。
それと魔獣を従えし英雄の方も見てもらえると嬉しいです
どうか、これからも生暖かく見守ってくださいm(_ _)m