その距離が愛しすぎて
「隆央、ごめんそこにある塩コショウ取って」
「わかった」
一つ屋根の下、笹木野隆央は森矢奈留に言われた調味料を探した。
狭い二階建て個別のアパートに一緒に住むようになってもう六年になる。
初め連なってるアパートにしようかとも悩んだ。
それは隆央が見えない為に。
完全見えない訳でもないがほぼ見えないに等しい。
なので縦より横に部屋がある方が言いかと奈留に言われたんだが、隆央は大丈夫と結局今の二階建てで、個別の場所に。
一階キッチンでガス台の前に居る奈留は今日の夕食野菜炒めを作っていた。
隆央は調味料が並んであるシンク回りの壁に手を伸ばした。
数種類ある中、塩コショウがある容器を指先で見つけると取り奈留に差し出す。
「ありがと」
「ううん」
奈留は共学高校の教師。
二人が出会ったのは十年前。
高校生だった隆央に奈留が新任教師で来た。
だが、クラス担任になるわけでもなく、部活なんて隆央は出来ない。
が、ある日の放課後。
まだ残っていた隆央。
それが職員室に向かう度に奈留が気になるようになった。
クラスの前を通る奈留。
一人残っている隆央。
『いつも残ってるけど帰らないのか?』
突然聞こえてきた声に小さく震え隆央は声のする方を見た。
『……ごめんなさい』
『いや、謝んなくてもいいんだけど…ずっと気になって、お前いつも残ってるだろ』
頭かきながら奈留はクラスに入っていく。
隆央の目線は奈留を向いてるが動きが少し遅い。
それが気になり近くまで来ると奈留は隆央の顔の前に近寄せた。
『……見えないのか?』
『少しなら、見えてる』
すると隆央は両手を差し出すと奈留の顔に触れる。
『………森矢……先生』
触れられた奈留は不思議と拒否反応は無かった。
『よくわかってるな』
『クラスの友達がよく言ってる、森矢先生…新任だけど人気あるって、だから……あと、新学期で自己紹介で声覚えたから』
『なのか』
離れた隆央の両手。
『それより、帰らないのか?それとも誰か迎えに来るのか?』
『お母さんが仕事終わったら来るから』
『……それまで寂しくないか?クラス一人で』
『少し…』
『だったら、付き合ってやる、部活顧問でもないしな』
それから、毎日放課後になると奈留は隆央のクラスに行き母親が迎えに来るまで話をしていた。
『先生……結婚してる?』
『してないっての、なかなかな……合わないんだよ、女性と…最近こんなんだったら同性の方がとか―――』
『なら、僕……は?』
半分冗談、半分本気で言った奈留に隆央は返した。
―――先生が、好き
『………いや、あのな笹木野………何って言ったらいいか……』
『後半年で卒業するから』
『じゃなくてな、笹木野』
『僕が見えないから?先生と一緒だったら迷惑かかる?』
今までの思いを吐き出すように言う隆央に奈留は………
気がついたら隆央を押し倒していた。
隆央だけじゃない。
奈留も。
放課後、誰も居ないクラスで二人。
他愛ない会話にそれぞれ自分の中にある気持ちが芽生えていた。
『……せん、せ』
『……笹木野……あのな、とりあえず話聞け』
床に押し倒された隆央は頷いた。
『お前が見えないからどうのこうのじゃない、俺もこの学校に来てまだ数年…来た早々、辞めたくないんだよ』
『それわはわかってるよ!だから卒業してからでもって――』
『少し黙ってろ!』
突然の怒鳴りに隆央は唇噛み締めた。
すると両手を差し出し、奈留に抱きついた。
『………あのな、笹木野……俺はお前が好きだ、いつの間にか好きになってた、話ていてお前の笑顔とか少しムッとする顔とか、友達に対して優しい性格とか…段々お前と話ていて好きになってた、けどな……』
奈留は起き上がると隆央に腕を回し抱き締めた。
『いずれ、体の関係も出てくるだろ…それでお前が嫌なら俺も辛いんだ……だったら、お前と付き合うわけにはいかない』
ゆっくり離れた隆央は、奈留の顔に近付く。
『……キス、しよ……僕、先生のキスしたい気持ちがいっぱいある』
少し顔を赤らめて泣きそうな顔をする隆央に、奈留は小さく息を吐いた。
―――後悔すんなよ
それは自分にも言い聞かせた言葉で…………
「ほら、出来た」
フライパンから皿に盛る奈留。
美味しそうな匂いに隆央の腹はなって、奈留は笑う。
「ごめんな、遅くなって、職員会議がなかなか終らなくて」
「大丈夫だよ……僕、奈留の料理好きだから、奈留が作ってくれるならいつまでも待つ」
「ったく、嬉しいこと言う」
「本当だもん」
皿を持ち居間へ。
ごはんに味噌汁に、一通りを居間にあるテーブルに置くと隆央は部屋の柱に触れ居間へ入る。
「隆央、こっち」
奈留は隆央の手を掴み場所へ座らせた。
「じゃ、いただきます」
いただきますと隆央も箸よりスプーンを手にした。
昔から、箸より多少は食べやすいスプーンを使ってる。
時折見ながら奈留も夕食を取る。
それから隆央を先に風呂に入らせた後、二階の寝室に連れていく。
向の部屋で奈留は仕事し、終ると風呂に。
上がるとそのまま寝室へ。
既に寝に入ってる隆央の寝顔を見ると当たり前のように疲れがなくなる気持ちで。
思いもしなかった生活が今こうしてある。
もちろん、学校には言っていない。
言える訳がない。
下手したら辞職する事になるかと思い、未だに学校では結婚してない彼女居ない程で居る。
――――森矢先生……
―――奈留だ、奈留って呼べ
奈留………大好き―――
End
こんばんは。
今回はちょっとした暇潰しに思い浮かんできた物です。
本当はもっとクラスでいちゃついてる風景が浮かんで居たんですが、何故かあのように短くなってしまいました。
これからも、こんな感じで短編は出て来るのでその内短編集でもやろうかと思ってます。
ではでは…
読んで下さってありがとうございます!
苑城 佑紀でした。




