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単発作品

スパイスっ!

作者: 風雷寺悠真

スパイス...それはインド周辺から伝わったとされる魔法の香辛料である。

このスパイスというものはカレーなどに多く使われ、種類も豊富だが

あまり知られていない事がある。そう、それは人間の知能指数すなわちIQを

一時的に上げるとされていることだ。


つまりスパイスとは魔法の香辛料なのである。


「ン...ン?...............ッッッッッ!!」

俺は嫌な悪寒がしたからかベッドから飛び起き、自分の布団を勢いよく剥がし、

枕元にある目覚まし時計で現在の時刻を確認する...。


「えーと...今は8時丁度と。

うむ、中々いつもより早く起きられたんじゃあないか?

実に素晴らしい朝だ。っというか?今日は?

そういえばなんかあったような?無いような?ン?.........

あ、ヤバイかも。そういえば今日はテストだったァァァァ!!!

ヤバイッ!!」


俺はベッドから転げ落ちる。急がなくてはいけない。

テストは最初から全て受けるというのが自分の中のルールとしてある。

それはなぜか?点数が取れないからさ!


まずいまずいまずい...!!

制服に着替えた俺は再び時計を見る。時計の長い針は1を指している。

電車は確か15分発に乗れば間に合うが...5分で駅に着かなくてはいけない。

こうしてはいられない。俺は財布と筆箱や教科書の類が入ったスクールバックを

手に取り、家を駆け出した。しっかりと鍵も閉めてあります!問題ナッシング!


そして俺は駅まで全速力で駆け抜けて13分くらいにはホームに来れた。

途中、育ち盛りでもある俺は腹が減りすぎて死にそうだったので

改札口のところにあるコンビニのワゴンに

「大特価!売れ切れ御免!!」のコーナーにあった丸っこいパンを

適当に取りレジへ出し、電子マネーでお金を払ってやっとの思いで朝食を手に入れたのだ!!


その名も

「これであなたも天才に!?魔法陣込み込みの魔法のスパイスカレーパン」だ。


どうも胡散臭い。値段は価格安く70円という破格。

だが俺は腹を満たせればそれでいいと思っていたのだが...。


「なんで今日に限ってこんなに混んでるのぉぉぉぉぉ!!」

そう。ホームがキツキツになるぐらいまで人が沢山電車を待っていたのだ。

これじゃあ、飯なんか食ってられない...!くそうっ!なんでだよっ!

運無さすぎだろっ!俺っ!そう心の中で叫びつつ、

キツキツの通勤ラッシュの電車に乗り、自分の高校へと向かった。


俺の通う高校、花扇高校は田舎の方にあって校舎が最近改装されたばかりだ。

4階建ての校舎で俺の教室はありがたい事に1階。

俺は大慌てでクラスのドアを開け、勢いよく自分の席に座った。


そして自宅で時計を見たように、クラスでも時計を凝視する。

朝のホームルームまではまだ5分あった...。


「ふぅ...。助かったァァァ。これでやっと飯が...なぬ!?」

お、俺のパン、カレーパンが潰れているだとぉ!?

うわぁぁぁ、なんかパンの先から茶色っぽいカレーが出てるし...。

カレーが茶色いのは当然か。ハハハハ...。

俺は渋々潰れたカレーパン、胡散臭い名前の安いカレーパンの封を開け、

そそくさとむさぼる。


「うわぁ峰人どうしたのぉ?急いで学校に来たと思ったら潰れてるカレーパンなんて食べ始めて。今日はテストだよ???」


話しかけてきたのは俺と同じクラスで幼稚園からの幼馴染の辻伊吹だ。


「そんなん分かってるよ伊吹。遅刻だよ遅刻。全くついてないよな俺」

「本当だね峰人ぉ。テストなのに日直」

「へ?俺日直なのか!?」

「え?知らなかったの?日直サボると放課後掃除なんだよ?あらら~ぁ」

「マジかよ...うわぁあぁ...」

「ドンマイだね峰人。じゃ、テストも掃除もがんばっ☆ホント、残念な人だ☆」

「おいおい...それは無いよ」


そうして伊吹はさささーと居なくなった。

伊吹はメガネっ子なのだがクラス一の元気なやつだ。

行動力があるって言うのかな?

そんなこんなでカレーパン完食。

安すぎだとは思っていたが不味いわけでもなく、

ちょっとピリ辛な普通のカレーパンだった。パッケージの裏の表示には

なんだよこれという名前の添加物(おそらくスパイスの類?)が

気持ちが悪いくらい並んでいた。まぁ食ってしまったものは仕方がない!


そして先生が教室に入って朝もホームルームが始まる。

「えーとまず初めに、鹿崎、鹿崎峰人!」と最初から言う。


うわぁ、絶対日直のことだ...。


「はい、センセ?なんでしょうか?」

「お前ぇ?日直はどうしたァ?サボりだな?放課後掃除確定だからやれよ?」

「は、はい」


俺、鹿崎峰人の1日はこうして始まる。

クラスメイトの注目を集めて。俺、鹿崎峰人は勉強が出来ず、

運動もまぁまぁ、容姿が兄貴がイケメンの為まぁまぁ血を

引いていて良いという...。学年で残念な奴で知られている。


そして朝のホームルームも終わり、

待ちに待ってないテストがやってくる。

この高校、花扇高校はテストの次の日には

結果が廊下に貼られ、10位までの人にはプレゼントがあるらしい。

そしてなにより俺と同学年にも関わらず入学した時の新入生の言葉から

全校生徒の目を奪っていた人物、最初のテストから学年、校内1位の成績をもつ

人物がいるのだ。名前は...覚えてないなぁ。ま、俺には縁が無いことだ。


最初のテストは数学。俺が最も苦手とする教科だ。

だが今回のテストは選択問題オンリーというチャンスだが、

なにより...勉強なんてしてないのだ!


でもなんか凄い出来そうな気がした。とりあえず解答欄を埋める努力をして

全て解答してやったぜ!どうだ数学!どうだ先生!!


そして数学のテストが終わる。

次のテストは国語。得意か不得意かと言われるとどちらでもないが

どうしてか、数学のテストの様にできそうな気がする。

国語のテストは読み物を読んでから答える問題が多いからだ。

そして俺は理数系の問題より文系の問題の方が解けるということもある。


こんな良くわからない自信を胸に国語のテストに望み、終わった。

中々いい結果になるんじゃないかと思われる。


他のテストも同じように終わらせて全てのテストは終了した。

帰りのホームルームで日直だった俺は先生に


「鹿崎、お前は1人で居残り掃除だからな」


と名指しで言われて再び注目を浴びてホームルームは終了。

そして俺はお掃除のお時間となる。先生から依頼されたのか見張りは

幼馴染の伊吹が担当している。


「峰人ぉ、早く掃除終わらせてぇ、帰ろぉよぉー」


伊吹がまるで駄々っ子の様に言ってくる。


「それ無理だなぁ。1人で教室と廊下掃除だぞ?

教室は終わったからいいものの...」


「じゃあ、わたしも手伝うよ!!あとは雑巾がけでしょ?」

「今更手伝ってくれてもな...」

「じゃあ、手伝わなくてもいいのかなぁ?」

「すいませんでした。伊吹さま。お手伝いのほどよろしくお願いします」

「よろしい。ならば3秒で終わらせるっ!!」


伊吹がそう言うと俺から雑巾を奪い取り、勢いよく雑巾がけを始める。


「おいおい!そんなに早く雑巾やったら人にぶつかるって!!」


俺のクラスの教室は階段が近くにあり人通りがとても多い。

その為伊吹は俺に言われた通りに人にぶつかった。

それもぶつかると色々と面倒くさいことになる人物に。


「痛ッッッ!...」


ぶつかった本人もそれに気がついた様ですごい勢いで頭を下げる。


「あなたこそ、大丈夫?そんなに身を固めて」


そして伊吹が顔を上げるとそこには男子に囲まれたこの学校の有名人、

阿部乃香澄が居たのだ。俺も思わず伊吹の横で頭を下げ、伊吹も下げなおす。


阿部乃香澄という人物は俺と同じ学年だが学年一の秀才いや

この学校で一番の秀才といえる人物だ。定期テストでは常に校内で1番の

点数をとり続け、部活も助っ人としていくつも兼部しているという

完璧美人だ。常に周りに親衛隊(本人は嫌がっているらしい)がまとわりついているため誰も近づけず、なにかしたら頭を下げるのが普通なのだ。


特に俺みたいな残念なやつはな。


「なんで2人して頭を下げてるの?私何かした?もう大丈夫だから、ね?」

と阿部乃さんが優しく返してくる。

確か...親衛隊以外は話してもいけなかったような。


だけど無視も出来ないし...あぁ!もうっ。


「すいません、伊吹が迷惑をおかけしました。僕らはもう戻るんで...」

と言い、顔を上げる。


「あれっ...君って........」

阿部乃さんが何かを言いかけた様な気がするが俺は逃げるように教室に入った。


「あぁ~。これで親衛隊の奴らに目を付けられたかもな...面倒くさい」

「ごめん...峰人」

「あぁ。もういいよ。さ、もう十分綺麗だしさ帰ろう?」


教室廊下ともに十分綺麗になった。居残り掃除は終わりだ。


「え?あ、うん。分かった帰ろ!」


そして俺たち2人は下駄箱で靴を履き替え帰路についた。

帰り道、明日はテスト返しという話題で盛り上がった。


俺の通う高校はテスト後の次の日にはテストが帰ってくることで有名なのだ。

今回はどれだけ点数が取れたか楽しみで正直眠れなかった。

そしてテスト返しの日は言われなくてもやってくる。


学校へ着き、靴を履き替えいざ廊下へ行くと凄まじい人だかりで教室に

入れそうもない。いつものテスト返しの日はここまで

人ごみは無かった筈だが...。


「あ、噂の鹿崎の弟じゃん!」

「あれがぁ~?うそぉ~」


俺は兄貴がイケメンで学校でモテていて、阿部乃さんと同じく有名なせいで

自分も鹿崎の弟として知られていたりもする。全て兄貴という存在のせいだ。


兄貴、鹿崎雅は阿部乃さんと校内で唯一お似合いとされ、

もてはやされている。だが2人は付き合っているわけでもなく、他人だ。

だが俺は知っている。誰もが知らない事を。そう、兄貴は今は他人の

阿部乃香澄を密かに狙っているのだ。


んんん、あれ。というか噂の鹿崎の弟?

俺が何か噂になるようなことをしたかな?放課後の掃除で阿部乃さんに

ぶつかった人(伊吹のことだが)を庇ったからか?

いや、そんなことで噂になるはずがない。


とりあえず廊下に貼られているテストの校内順位表を見てみる。

1位は相変わらずの阿部乃さん。2位は鹿崎...。


兄貴か。な~んだ。兄貴必死こいて勉強してたからな。

兄貴が2位だから噂の鹿崎の弟...ってあれ!?


2位のところには鹿崎、峰人と記されていた。


そんな訳が無い!そんなはずがない!夢かと確認するために

頬をつねったが痛い...。嘘だ...。


そして3位には鹿崎雅の文字が。

そりゃあいつもよりは自信あったし、なにより出来る気が凄かったけども

校内で2位を俺が取れるわけが無いのでひとまず、

教室に行って先生に確認してみよう。あれは採点ミスじゃありませんか、と。


だが教室に入っても先生は居ない。さっきからチラホラ聞こえるのだが

周りの奴らが俺の話をしている。なんか本当に嫌だ。


「峰人ぉっ!!一体どういうことかなぁ~!」


その掛け声で俺の机の前にすっ飛んできたのは伊吹だ。


「なにがどういうことだよ。俺にも分かんねぇんだよ」

「だからぁ~、一体どんなセコい手を使ったの?って聞いてるの」


うわ、コイツ...俺がセコいことしたと決めつけてやがる!


「真面目にお答えしましょう」と敬語で言ってみる。

「それでは真面目にお聞きしましょう」と伊吹が返してきた。


「結論。俺は何もしていない。した覚えもないんだ」

「なんだ~結局なにもしてないのかぁ~。やっぱり?マグレ?」

「あぁ。丁度良く先生来たし聞いてみようぜ」


俺は先生に駆け寄る。


「先生っ!自分が成績校内2位取れたのはなんかしらの採点ミスですよね?」

と俺がにこやかに言うと先生は顔をしかめる。


「オイ鹿崎、私が何年丸つけしてるか分かって言っているのか?ん?ん?」

「ア、ハイ、誠に申し訳ありませんでした...」


「だが驚いたよ鹿崎、お前勉強ができるのに出来ないふりしてたのか。

まぁ、最も?お前に校内2位を取らせたくなかったのだがな」


この先生いきなり酷いこと言いやがった。

まぁ確かに俺みたいなバカがいきなり2位なんて取ったら

どこぞの真面目君やどこぞの秀才君は屈辱だろうね。

本当に申し訳ないことをしたと心より思うが今回限りだ問題ない。


そして先生の号令によりテスト返しが始まる。これでやっと今回の件が

本当か嘘かを見抜けるテストが帰ってくるわけだ...。

出席番号一番からテスト全てが入った大きな封筒が手渡されていき、

俺も渡された。そして最後の人まで配り終えると

同時にチャイムが鳴ってしまった。


俺はそれまで封筒を開けることはなかったが。

屋上で1人で確認してみることとする。


「よし...誰もいないな」

屋上に入るドアを少し開け人がいるかいないかを確認した後、

俺はこのドアのすぐ横にある梯子を登り、タンクの後ろに座った。


そして封を開け、テストの確認を始める

成績は国語:96点、数学:94点、社会:99点、

理科:93点、英語:95点の計500点中477点だった。...ありえない。いつもなら90点にも届かないのに。


どうしてだろうかと考えているとどこからか声が聞こえてくる。


「国語は...いつも通り。数学も、英語も。理科も。社会は落ちてる...

こんなんじゃだめだぁ...お母様に叱られてしまう...」


この声のトーンはどこかで聞いた覚えが...。

俺は先客が屋上にいたんだと思い、顔を覗かせる。


見てはいけないと思ったが阿部乃香澄がテストを広げている。

その為点数も...見えている。阿部乃親衛隊に殺されるのを覚悟し、

自分の点数と比較するために点数を確認する。


阿部乃香澄の点数。国語:100点、数学:100点、社会:99点、

理科100点、英語:100点。計500点中499点。1点足らず。


俺のテストと22点差。十分な差をつけてぶっちぎりだ。

やはり届かないんだなぁ。マグレでも無理なんだなと実感し、

タンクに寄りかかる。するとタンクがギシギシと音を出す。


「ねぇ!!そこに誰かいるの!?」


感づかれてしまった。相手はあの阿部乃香澄だ。いないふりをする訳にもいかず

おとなしく前に出る。


「すいません。元々は自分のテストを確認するため来たんですが...

先客がいたとは。すみません。自分はこれで...」


俺は梯子を降りて大人しく出入り口のドアノブに手をかける。


「ねぇ、君って鹿崎峰人くんだよね?」


阿部乃香澄さんが俺に声を掛けてくる。


「はい。鹿崎雅の弟、鹿崎峰人ですけど」

「やっぱりそうだよね!?」

「はぁ、はい。間違ってはないです」

「あの面白いで有名の!?」


「自分はそこまで面白くないですよ。残念な奴なんで関わらないほうがいいです。じゃあ、自分はこれで」


俺は阿部乃香澄さんを突き放すような口調でわざとそう言った。

俺みたいなやつが声をかけていい人じゃないからな。

出入り口のドアが閉まったとき、阿部乃香澄さんが「待って!!」と

言ったように思えたが、幻聴だろう。俺には接点がない。


そして何もなかったようにクラスに戻り、席に座ると伊吹が飛んできた。


「で!で!峰人、点数はどうだったの!?」


どうやら俺が1人で確認してたのはお見通しのようだ。白状するか。


「あぁ、なんかまぐれで全て90点以上。合計477点だよ」

「え!?嘘...でしょ...峰人なんかに28点も負けるなんて...」

「なんかってなんだよ。ったく。でも今回だけだよ。まぐれだまぐれ」

「そうだよねぇ。まぐれだよね、ま・ぐ・れ!」

「そんなにまぐれを強調せんでいい!!」

「ごめんなさ~い☆」

「許さん」

「それはそうと峰人、結局朝さ、カレーパン食べてたけどあれはどこの?」

「どこだったかな...う~ん。でもなんか安っぽいやつで」

「安っぽい!?」

「あぁ、それでな名前が胡散臭くてな...」

「え!?」

「なんでお前はそこまで驚いてんだよ!」

「ん、え?あぁ。別にいいじゃん。続けて?」


「確か作っているところには...うーん、

蓮見スパイス工房とか書いてあった気が」


「嘘!?本当に!?」

「あぁ、聞いたことないなぁとは思ってたけど...」

「......」


伊吹がいきなり黙り込み、何かヤバイ事があった様な表情を浮かべている。


「おい、一体どうしたんだって...」

「それ...食べちゃまずい...やつだよ」

「へ?」


「それは食べちゃ...ダメなやつだよっ。得体もわからない、

アイツが作ってるやつ!」


「アイツって誰だよ...」

「蓮見スパイス工房は蓮見恭介が仕切ってる、料理教室」

「その蓮見恭介とは?」

「うちの親戚。前に工房に行ったけど胡散臭いものしか作らなくて...吐いた」

「吐いた!?」

「うん。峰人そんなものを食べたのか...オウェッ」

「でも結構いけたけど?」

「んな!?そんなはずが...」

「美味かったぞ?」


「何故だ...何故なんだ...」

伊吹はそう言いながら俺の前から居なくなり、廊下へ向かった。


そして帰りのホームルームが終わり、今日は1人で帰路に着く。

日頃一緒に帰っている伊吹は部活があるらしい。そして

いつも通りかかる公園を見てみるとタオルを巻いた赤髪の

俺より年上に見える人が何か、食べ物だろうか。

食べ物をワゴンに入れて客引きをしている。


「さぁさぁ、いらっしゃいませい!!70円均一だよぉう!!」

とても威勢が良いが寄ってきて見ているのは小学生位の子供だけだ。


だが70円という価格に聞き覚えがあった俺は

自然と公園の前で足を止めていた。


それに気づいたのか、威勢のいい客引きのお兄さんは俺の方を見てきた。


「おうおう、そこのあんちゃん!見ていかないかい!?」

客引きのお兄さんの周りに居るチビッ子か一斉に視線をこちらに向けてくる。


「じゃ、じゃあ一度だけ...」と独り言をつぶやき渋々俺は公園に入り

ワゴンに近づき、中身を覗いてみる。


「これは...!?」俺が見たのはテスト当日に買ったカレーパンが沢山詰まったワゴンだった。


それをまるで分かっているかのようにお兄さんが話しかけてくる。

「ほほぉ、どうやら君はこのカレーパンを知っているようだね?」


俺は一度この客引きお兄さんと視線を合わせてから答える。

「あの胡散臭いカレーパンですよね、これ」


「胡散臭い...だと。君は伊吹と同じことを言うのか...ハァ」


これは...間違いない。この人が伊吹が言っていた蓮見恭介か。


「もしかしてあなたは伊吹の親戚の蓮見恭介?」

「おう、そうだ。俺こそが蓮見スパイス工房の創設者、蓮見恭介だ!」

「やっぱりか。...俺と同じで残念な人だなぁ」

「ん、今残念な奴とか言ったか?まぁいいがそういう君は伊吹のお友達かな?」

「あ、まぁ。伊吹の幼馴染の鹿崎、鹿崎峰人です」

「あ!君が伊吹の、そういえば!そういうことか。君が鹿崎君か」


なんか、伊吹の親戚蓮見さんがなんか分かった様に1人で頷いている。


「それでこのカレーパンについてお聞きしたいんですが」


俺がそう切り出すと蓮見さんは真剣な眼差しになり言う。


「はいはい、チビッ子のみんな今日はここまでな~♪今日はこのお兄さんとお話があるからな~悪いな~♪」と愛想良く言った。


そしてチビッ子居なくなり、片付けも蓮見さんが終わらせると

「じゃあ気になるなら着いてきな」と俺に一言言い、

スタスタと歩いて行ってしまった。


俺はテストが終わり、点数を確認する時には確信していた。テストの成績が上がったのはあの胡散臭いカレーパンを食べたからだと。気になって仕方がなかった俺は日が暮れて暗くなっていたのも気にせず、黙って伊吹の親戚蓮見恭介について行った。


案内されるがまま公園をあとにして最近出来た綺麗な橋を渡る。

そしてしばらく道なりに歩くと住宅街が見えてきた。


「あの~蓮見さん?もしかして住宅街やなんかでこの胡散臭いもの作ってるんですかね?」そんなわけがないと思いつつ、一応聞いてみる。


「あぁ、そうだけども?どしたの?」


予想外だ。そんな訳があっていいのか!?


「さぁ~てここが蓮見スパイス工房だッッッ!」

目の前にあるのは住宅街だけあってただの一軒家だ。どこが工房だ?

これの...どこが...。


「あの~蓮見さん?胡散臭いものはこの一軒家でお作りに?」


「いいや、違う。庭に建てた小屋で日々作ってるのさ。てかその胡散臭いってやめてもらえる?これは立派なカレーパンだぞ?魔法陣ことスパイスの魔法が丹念に込められた、そんなものを胡散臭いと言ってみろ?どうなるか...想像できるかね?」


ヤバイ、目がマジだ。殺される。


「ここがその小屋だ」


一軒家の玄関を通り抜けて、庭に出るとそこにはそこそこ大きなトタンでできた小屋が建っていた。そしてなにやら異様な臭いが。また小屋の入口には凄まじい数の鍵が掛かっている。


その鍵を蓮見さんはなに食わぬ顔でポケットから鍵をたくさん取り出しまたなに食わぬ顔でテキパキと開錠していっている。


「その鍵...」思ったことが思わず口に出てしまった。


それに蓮見さんも反応する。


「ん、この鍵か?全部で18コ掛けてある。理由は中に入れば分かるさ。

さぁ、お入りお入りッと」


中に入ると異様な臭いは刺激的な臭いへと変化する。


「ッッッ!?なな、なんですかこの鼻に来る臭い...」


その理由は蓮見さんがあっさりと答えてくれる。

「それはニンニクとショウガを特殊な方法で調合したものを昨日使ったからね。

そりゃぁ...鼻にも目にも来るッ...さぁ...」


そのあっさりと答えた顔は鼻水が垂れて目も涙目と今、臭いでやられている俺より酷い顔だった。


「な、なぁ...蓮見...さん。アンタ毎日スパイスやらなんやらで

こういうの大丈夫なんじゃないのかぁ?」


「いいや...そういうわけにも...いかないんだ...ハックショイィッ!!」


こうしてこの臭いに慣れるのにも時間を要した。


「さてまず君の疑問に答えよう。なぜ18コもの鍵を付けていたか。

理由はこれだッ。ド~~~ン!」


蓮見さんが取り出したのはカゴに入ったものだった。


「あの~、これなんです?」


「高級食材だ。これをスパイスと調合することにより美味しさと

効能を両立させる...という結論だ」


ダメだ。この人の言っていることが理解できない。


「んで今ある食材はエスカルゴに...ツバメの巣...フカヒレ...トリュフ

...リュッフショイッッッ!」


あえて言っておこう。最後のはトリュフに向かって凄まじいくしゃみを蓮見さんがしたのである。俺は何もしていない。

そしてそのトリュフは鼻水でグショグショだ。


「まぁ、何となく分かりました。んで魔法陣込み込みカレーパンはどの様に?」

「フフフ、やっと聞いてくれたか。使うスパイスはこちら」


どこからともなくスパイスが入った小瓶が蓮見さんの手から出現していく。


「これら全てのスパイス45種類で出来ている。45種類目は私の愛情だぞ?」


「そうですか。スパイスは良いです、お腹いっぱいです。だけどなんかあのカレーパンを食べたからかテストの成績が上がった気がするのですが。それが聞きたいんですよ、自分みたいなバカがあんな点数取れるの、おかしすぎ...」


そう言うと蓮見さんの表情が硬くなる。


「ヤッパリ上手くいく奴には上手くいくみたいだな。スパイスの魔法は。

スパイスってのは一時的に人のIQを上げるって聞いたことないか?」


「え、あ、まぁ...聞いたことくらいは」


「そうだろう?だがIQを上げるとは言え頭が良くなるわけではない。

それは分かるな?」


「ええ、知能指数とかいうもの???」

「そうだ、馬鹿のくせにやるな。知能指数という単語が出ただけで十分だ」

「ハハ、ハハハハハ...」


「そこで世界を巡ってかき集めた様々なスパイスやらなんやらを

調合し始めて約半年」


「エッ!?半年しかやってないの!?」

「あぁ、高級食材に目がいってお金がなくてな」

「おい高級食材、スパイスのためじゃないのかよっ」


「まぁ、半年掛けて奇跡的に美味しく調合できたものをカレーに混ぜてみたら美味しかったのでパンにして知り合いの商店から販売してたら...君が買ったあの店まで横流しされていたというわけだ。それも格安でな。

でもまさかIQをあげるとはいえ学力を上げてしまう効能を

生み出してしまうとは自分が恐ろしいなッ、ハッハッハ」


この人...天才だ。そして...適当だ。


「このカレーパン、いえ調合したスパイスを自分に売ってくれませんか!」

「それは...何故だ?」


「それは...その、このスパイスさえあれば見返したかった奴を

見返せるかと思って」


「そうか。それはいいな。では君に売るのではなく、授けようかと思うよ」

「え、なんで?」

「その姿勢だけでもいい事だと思ってな。俺が今決めたことだ」

「は、蓮見さん...」


俺はこのスパイスを手に入れたら今後が明るくなりそうだなと思っていたが。


「だが断る」


断られてしまったようだ。


「なんだ。じゃあいいですよ買います買います、幾らですか?」

「いやぁ、金は要らないのは確かだ。手伝って欲しいことがあるそれだけだ」

「その手伝って欲しいこととは?」


「なにかこんな魔法のようなこと、あればいいのになーと思ったことを生活している中で最低限3つ参考にメモしてきてくれ。期限は来週までだ」


「分かりました、やります」


これは受け入れるしかないと馬鹿な俺でも何となく分かった。


「ではこれが約束のスパイスだ受け取れぇい!」

蓮見さんはそう言うと小瓶を俺に投げつける。俺はそれを反射的にで受け取る。


「え、これだけしかないんですか?」

渡されたのは小さな小瓶のそれまた半分しか入っていないスパイスだった。


「あぁ、そうだ。実はほぼほぼ面白半分でカレーパンに使ったんだよ。

まぁ少しはもつだろ」


蓮見さんはそう、ぶっきらぼうに言った。


俺はそれを渋々聞き、渡されたスパイスを眺める。なにが調合されているのか心配過ぎてならないがあの時の幻のようなテストの成績もきっとコイツのおかげだと確信(思い込み)していた。


そして俺はこのあと遅くまで蓮見さんと語り尽くし、別れた。

この時にもう一つ言われたことがあった。


「そのスパイス、扱いには気をつけろよ」と。


この時の表情はとてもかたいものだったから真剣な忠告じゃないかな。

俺は家に帰りご飯も食べず、布団へ突っ伏した。


次の日。テスト明けもありとても心地のいい朝を迎えた。

時計は9時を迎えている...遅刻しそうだ。(二回目)テスト明けだがそういえば実技教科の実技テストがあったはず..これはヤバイぞ、死ぬぞ、殺されるぞ。

俺はスパイス片手にスクールバックを手に取り昨日の様に家を出た。


結果は勿論遅刻。こっぴどく怒られた。そして今度は実技教科のテストが来る。

実技テストは三学年合同で行うことになっているため兄貴も同じだ。

俺はすっかり忘れていたが...。


今回は俺の見返したい相手の一人、兄貴の鹿崎雅を倒すため、

昨日授かったスパイスを手にふり、

口へと運んだ。今回こそは凄まじい差をつけられている兄貴を超えてやるっ。

俺は心を燃やし、やる気十分で本気で実技テストに臨む。

初めは体育科、それも持久走!体力には自信がある...はずないけど、

頑張るぜ!スパイスの力...見せてやる!

だがこのスパイスは知能指数を上げる、学力を上げるやつだったような。


だが俺は気にせずにスタートラインに立つ。そしてそこに兄貴がやってくる。


「やあ、峰人。なんだかやる気に満ち溢れてるよね?最近。

たかがテストの点数で俺を超えたからっていい気になるなよ、

お前が俺を超えられるはずないだろ?」


相変わらずの言いぶりだ。兄貴はいつも俺を見下している。


「うるせえ、もう今までとは違う」

「どうかな?」


スタートの合図の笛を審判が吹いた。

兄貴は運動が出来ることでも学内で有名だ。つまりスタートダッシュも他の奴らより群を抜いている。兄貴は先頭に出た。

先頭は運動部の中でも優秀な奴らばかり集中している。


こんな奴らを超えるのことができるのか?そんな俺は先頭でも

なければ後ろの方でもないというあまり目立たないところに。

そんな俺を兄貴がわざわざ振り向いて見て、視線を送っている。


兄貴はおそらく「そんなんで俺と対等に渡り合おうなんて甘い」と言いたいんだろう。そんなこと、分かっている。俺は無理やりペースをあげた。


すると何故だろうか、体が軽い。足もいつもより早く動く。


「なんでだ?...うそだろぅ!」


思わず声を漏らすがスパイスの力か?だがこれは...。

まぁ、いい。そんなことを考えているならこの状況を有効活用だ。


俺はそのままのペースを維持し先頭集団にたどり着く。

そして兄貴を超え先頭集団を越えたあたりで俺はゴールイン。


タイムはいつもの数倍早い。兄貴はいつもより早かったそうだが

俺より遅いことが気に食わないようだ。


その後他の競技も行ったが記録で兄貴は越えられなかった。

だが自分の今までの記録は更新していた、何倍も。


もしかしてこのスパイスは別物なのかと思い放課後、

昨日の胡散臭い場所に足を運んでみる。


トタンの小屋の鍵は開いていたから気にせず開ける。


「ちわ~っす」

いかん、学校のノリであいさつしてしまった。


「おぉ!ちわ~っす。よく来たな、もう二度と会うことはないと思ってたが」

「二度とってなんだっ!そしてちわ~っすをそのまま返すのかよっ!」

「あぁ、そうだが?」

「受け入れちゃったよっ!」


やっぱり適当な人だ、蓮見恭介という人間はッ!


「さてさてなんの用かは分かっているつもりだよ。

君に渡したスパイスだよね?」


「そうだよ、なんだこれ。学力上げるやつじゃないのか?」

「あぁ、そのつもりだったんだけど間違えちゃったぜ」

「ちゃったぜとか反省してないだろっ」

「全くもってしてないが?それがどうしたんだ」

「あぁ、もういいよっ。んで話を続けてくれ」


「あ、そうだな。君にミスって渡したのは体の運動量を上げる、

燃費をよくする物だ」


「燃費ということは?」


「そういえば君の高校は今日、体育科の実技テストがあったそうだね

ならわかるはず」


「持久力が伸びるのか?」


「そのとおり!これは最近調合したものでね、消化の早い乳製品や手っ取り早く栄養になるものを適当に入れてみたんだけどその反応だと成功したみたいだな」


「オ、オウ...まぁ成功はしたけど適当はないだろ」


「おいおい、調合に大切のは勘だよ?だが今回は適当に

やったからもう作れないだろうけど」


「まぁ、いいよ。とりあえずこれは返したほうがいいか?」

「いや、もういいよそれ。あげるさぶっちゃけそれ美味しくないし」


確かにあの時口に入れたら吐きそうにはなったが。料理に混ぜればなんとか...


「あ、それどんな工夫しても美味しくないから。あと賞味期限一ヶ月。

それ以降臭いキツくなる」


「は???」

「まぁ、気をつけたまえ。さて調合をやりたいんでお引取り願える?」


そしてトタン小屋を追い出され、帰路の途中。伊吹に遭遇。


「お~、峰人だ~!今日は凄かったね、カッコヨカッタヨ?」

「おう、全然嬉しくないけどな」


「でもなんでなの?最近峰人調子良すぎない?勉強が出来てみたり

運動できてみたり」


「そ、それは...」

「だってすぐにできるものじゃないでしょ?」

「それもそうだけど...」


だめだ、君の親戚が作っている得体の知れないスパイスとは言えない...。


「まさか...親戚のアイツが作ってる奴でも貰って調子おかしくなってんの?」

「伊吹お前、俺の心が読めるのか?」

「あっはは~、やっぱり?まぁ~私エスパーだったから昔」

「マジで!?」

「おぉ~そんなにびっくりしなくても。冗談だよ冗談」

「じゃあなぜ?」


「前に言ったじゃん?アイツの作ったやつ貰ったとき吐いたって。でもその後

なんだか気分がポカポカしてきて...ちょっとクラクラしたんだよ。

あれは危なかった、色んな意味で。ホント最低だった」


「そうなのか...」

「だけどその様子だと峰人、実験台にされてるみたいだね☆」

「本当か!?」

「気付かなかったの?」

「マジか...気付かなかった」

「馬鹿だな~、本当に。でもそれが.........良いところだよね.......」


「最後なんか言ったか?ちょっと聞こえなかったんだが?」


「う、ううん?なんも言ってないよ。なんもね」

「なら良いけどさ」


「うん。まぁ、峰人その実験台になって色々できるようになったら

いいんじゃない?」


「ほう、例えば?」


「う~ん、料理ができるようになったり私以外の女の子と

しっかりお話できるようになったりそのビビり癖とか音痴とか色々、

そしたらきっとモテるし彼女だって出来るよ?」


なんか俺の悪いところしか言ってないよな、これ。


「彼女か。俺には遠い話だな」

「そうかな~。ま~頑張りなよ峰人」

「そうだな」

「さて、そろそろ私帰らなきゃ。峰人バイバイ~!」


伊吹はそう言うと風の様に去っていった。

もう日はとっくに沈み、時間は夜の八時だ。もう飯も出来てるだろうし

俺は急いで家に帰った。


「ただいま~」

いつもの様に家の鍵を開けて入ると家の中は真っ暗で唯一、リビングだけ

明かりがついていた。もう一度リビングに入るドアを開ける。


「ただいまって言ってるのに反応ないのかよ、母さん」

とキッチンに向けて言う。


「アラアラ、ごめんなさい。あと峰人、今日から雅は居ないのよ?

朝遅刻したから分からないでしょうけど」


「え?どういうことですか、それは」


「やっぱり知らなかったのね、雅ったら今日から独立するからとか言って

朝早くから家を出てったのよ」


「マジか!まぁ、アイツなんてどうでもいいよ」

「そうね、峰人は雅にいは嫌いって昔から言ってるものね...」

「あぁ、そうだよ」

「あ、あとそういえばこれ、貰い物よ?」


そう言い、母さんが渡してきたのは一通の手紙と綺麗に包装された箱だった。


「かすみちゃんからよ?覚えてる?」

「かすみ...誰だよ。もしかしてうちの高校のか?」

「それは分からないけど昔沢山遊んでたじゃない?ここに引っ越してくる前に」


確かに俺はここに引っ越した時から伊吹と仲良くなったが、その前の時つまり小学生の時に誰かと仲良くしてた、そんな気はする。


「でもなんで俺に?もうそのかすみという人は前の場所に

もう住んでないんじゃないのか?」


「いいえ?なんだかあの子もまた越してきていたようよ?」

「マジでか。ヤバい、覚えてないよ?」


「だろうとは思ってたわよ、まぁいいわ。それはあなたへの誕生日プレゼントみたいよ?一週間も前に持ってきてくれたけどアンタ、忘れてたでしょ?」


「そうか、明日は俺の誕生日だったか」


「誕生日も忘れるなんて峰人、勉強しなさいよ?全くかすみちゃんは凄く成長してたわよ?あんなに綺麗になって、言葉遣いも丁寧で。私のことでさえお母様?と呼ぶのよ...?」


「分かったよ、勉強するよ。飯はもういらない!」


俺は他人と比べられるのが嫌いって知っているはずなのに。全く。


俺は自分の部屋に戻り、貰った誕生日プレゼントとあった手紙を

読むことにする。


「峰人くんへ。


お元気ですか?わたしはかすみです。覚えていらっしゃいますか?

わたしは鮮明に覚えています。峰人くんはわたしを覚えていますか?

覚えてくれてなくてもわたしは大丈夫です。


さて私たちは高校生になり、とても成長したことと思います。

わたしはこの度あの頃住んでいたところから峰人くんの家の近くに住むことに

なりました。理由は母親が再婚したからです。高校も同じところいるので

これから先宜しくお願いします。仲良くしてくれると嬉しいです。


阿部乃香澄/旧姓 逢坂香澄」


俺はこれを読んだ途端思い出し、そして絶句した。


あの学校で有名かつ絶大な人気の阿部乃香澄さんが過去で知り合いだったことを。そしてそれを今まで思い出せず、頭をさげていた自分を。


俺はなんて酷いことをしてしまったのか。


俺はこの日、悔しくて、自分が醜くて眠れなかった。


そしてまた、朝が来て学校に向かうのだが校門で生徒が賑わういつもの光景が見える。これは花扇高校の名物といってもいい、あの阿部乃さんの登校だ。

俺はいつもなら気にせずに通り過ぎるのだが昨日の手紙のこともあり

立ち止まってしまった。そしてこの賑わいは阿部乃さんが来た時更に賑わう。


人ごみが凄くなってきた。

おそらく真ん中のあたりに阿部乃さんが居るのだろうが

到底見えるわけがない。そう感じた俺はまた、

いつもの通りに教室へ向かおうとした。


だがそうはいかなかった。


「峰人くんっ!!」


阿部乃さんが大声かつとても綺麗な声で俺を呼んだ。

それを聞いた周りの奴らはヒソヒソと隣の人と話している。


「阿部乃...さん。俺なんかと関わらないほうがいいってあれほど...」


俺は前からこう言っている。俺とかかわる奴は大抵馬鹿にされる。

それは俺が馬鹿だからだ。どうしようもない。

それを阿部乃さんにも...と考えると

申し訳無さ過ぎて言葉が出ないのだ、これ以外に。


「でも...」

「俺はもう教室行くから」


そう言い、この場を去った。俺が阿部乃さんを避けている理由を本人は

分かっているのだろうか。いいや、分かるはずがない。こうやって話しかけてくるのだから。俺が阿部乃さんを避けているのは釣り合わないからだ。彼女は完璧すぎる。悪いところなんて見つからない。だけど俺は逆にいいところなんて見つからない。


釣り合うはずがないんだ。本当だったら彼女と同じ立場で話がしたい。

でもできないんだ。


だがこれを変える、変えていくために俺は魔法のアイテムを手に入れた。

それはスパイスだ。あの蓮見恭介が汗と涙、そして鼻水を流しながら作った

このスパイスには魔法の力が込められている。


この魔法のスパイスを使ってきっと彼女、阿部乃香澄と釣り合える様な奴に

早くなるんだ。そうすればきっと阿部乃さん、いや香澄も喜ぶだろう。


ここからが俺の反撃だ。今まで俺を馬鹿にしてきた奴を見返して

馬鹿は馬鹿なりの考えで這い上がってやる。成り上がってやる。


絶対に...絶対にだ___________。


こうして俺、馬鹿と言われ続けた鹿崎峰人のスパイスの力で

這い上がっていくお話は一つの決意から始まるのであった。


続きが気になるという風に意見を頂いたら続きを書く所存です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この度はなろうコン大賞に御参加頂きまして真にありがとうございます。 軽妙なテンポで進み、読み進めやすい作品でした。 確かにスパイスによるIQ上昇効果はよく唱えられております。 ですがそこ…
[一言] 汗と涙、そして鼻水を流しながら というところ、不覚にも吹いてしまいましたw 続きがよみたいです!!お願いします!!
[良い点]  話がスムーズに進んでいく展開だからか、文字数の割にさらっと読めた。 キャラクターの魅力も有り、話の流れがしっかりしていたんでしょうね。 [気になる点]  ここで研究者の彼とつながりがあ…
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