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【 一 章 】
ここは、北の大地の王都にほど近い場所にある、学園都市陽佳学園。その、正門前。
少年は、手にパンフレットと思しき紙を持ってそこにずっと立っていた。……そう、ずっと。かれこれ2時間近くは。
「ここで、合ってるんだろうな……?」
少年はそう呟くと、持っていたスマートフォンで何処かへと電話をかける。数回のコール音の後つながった先の声は、少女と思しき声でこう答えた。
『あらー、冬華君、まだ着かないのー?』
待ちくたびれちゃったんだけど、という声が聞こえてくる。少女の声は、急かすように少年――冬華をせっつく。
待ちくたびれたのはこっちだ、と思いながらも冬華は冷静に答える。
「あの、正門前じゃなかったでしたっけ?」
『あれー?待ち合わせは西門前だよー?』
少女は、のんびりと冬華に告げる。
ここは、正門だ。西門というのは、正門の左手に広がる森を学園の柵に沿って歩いたところにある。……そう、パンフレットに書いてあった。荷物を持っていたら、大変な重労働になったであろう。しかし、今持っているのは小さなパンフレットだけだ。荷物にもなりはしない。
冬華は、そちらに向かうと一言告げると、電話を切る。そしてメールが一通着ていることに気が付いた。中身を開くと、それはどうやらアルバイト先からのメールらしい。後でじっくり読もうと決めて、まずは正門へと向かう。
これが、紫藤 冬華の、波乱の始まりだった。
まだ、彼は、彼らは知らない。そう、何も。