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【 序 章 】
赤い、紅い雨が降っていた。それは自分の身体を濡らしていく。けれどもそれに不快感はなかった。むしろ感じるのは喜びのみ。何もない廃村の真ん中で自分は空を見上げて微笑んでいた。
――そう。廃村。ここは、北の大地にある、ごくありふれた村、だった。
自分は、何をしていたのか。それすらも自分の記憶にはなかった。ただ、片手に持っている剣に滴る血だけが、自分の業だけは忘れさせてはくれない。
「ははは……」
不意に漏れた言葉に、ガサガサ、と近くの茂みが揺れる。
顔を向ければ、そこには翼の生えた黒猫が佇んでいた。
「気は済んだかい?青藍」
黒猫が、そう問うと青藍と呼ばれた少年は剣を黒猫に向ける。ただ、その目は笑っていた。
「気?……そうだね。残るは君だけだ」
「……私を切ったところで私は生き返るのに」
何度でも、と黒猫が言おうとした瞬間に、その首ははねられた。
赤くさらに地面が染まっていく。黒猫の方はというと、光の粒となって何処かへと消えていた。
その場には、黒猫のものと思わしき羽根が一枚と少年だけが残された。
「赤い」
雨は、少年を赤く塗りつぶすように降り続ける。
そしてまた、少年も一言呟いたと思うと、次の瞬間には風と共に居なくなってしまっていた。